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清野江紀と薬師寺咲那(第3話)
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廃墟にてーー。
この施設は、もともとは学校だったのだろうかー。
現文明において、学校という施設はメジャーなものではなかった。一か所に大人数を集めて教育活動を行うというのは、前文明においてはメジャーなものだったらしいが、今の世界ではその必要性自体が薄れてしまっており、例外的に、希望者だけが前文明時代の教育システムを実体験するために残しているようなものだ。
無機質な廊下と同じような部屋がいくつも並び、さらにその中にあるのは数十個の机と椅子、あとは黒板だ。もっとも、かなり古びており、ほとんどは使い物にならなくなっている。
さらには、足元には内部で崩れ落ちた瓦礫やごみが散乱しており、とてもではないが、足の踏み場所にも困るありさまだった。そしてかなり埃っぽい・・・当たり前だ。何せ前文明時代の遺物である。少なくとも、残っているというだけで奇跡に近い代物なのだ。
前文明時代の建物が文化遺産として保全されている場合もあるが、この廃墟はどうやら違うようだった。
「うひゃあ」
中の様子を一目見て、咲那が素っ頓狂な声を上げる。
「こりゃまたいかにもって感じで雰囲気ありまくりだな」
「薬師寺、お前幽霊とか苦手だったっけ?」
江紀がからかい半分で声をかける。
「バーカ、んなわけねえだろ。いかにも蟲どもが居つきそうな場所だって意味だよ」
笑いながら咲那が返した。
実際、この廃墟の中には「何か出そうな雰囲気」はあった。もっとも、その対象が幽霊だろうが蟲だろうが同じことだ。そして、今は昼であるが、これが夜ならまさに「出る」だろう。
江紀も咲那も、実は前文明時代についてはあまり詳しくはない。そもそも関心がないといった方が正しいだろう。
したがって、この手の建物につきものの「怪談」等もほとんど知らない。夜の学校については、前文明時代においてはオカルトネタの宝庫ともいうべきものだった。
・・・もっとも、実際の夜の学校というのは、宿直の用務員さんが宿直室でごろごろして、時間になれば懐中電灯で見回りするくらいのものなのだが。
「しっかし、前文明の連中ってよくわからねえよな。なんでこんな薄暗い建物に何百人もすし詰め状態にして教育なんかするんだ?」
この時代において、集団教育の必然性はかなり薄れており、前述の通り、希望者だけがその教育システムを疑似的に実体験する。したがって、義務教育もないーが、
「そもそも、教育っつっても自分に必要なことくらい自分か友人の集まりで何とかするだろ。他人から無理やり教わるよりよっぽどそっちの方が覚えやすいだろうに、なんでこんなに人を集める必要があるんだ?」
「オレが知るかよ」
肩をすくめながら、江紀が応える。咲那同様、江紀もまた前文明のやり方にはついていけないところがあるようだ。そもそもあまり関心がない。
「まあいいや。無駄話をしている場合でもなくなってきたしな」
強い魔力の波動を感じる。やはり2体だ。1体は大型のもので、多分こいつは屋上辺りにいる。もう一方は・・・やはり中庭か。当然ながら、亜人種型の方が魔力の波動は強く大きい。両方とも先ほどの位置から動いていないようだ。
「奴さんたち、侵入者に気が付いているのかねえ、やっぱり」
「まあ、十中八九そうだろうな。あいつらは獲物については敏感だからな。おそらく待ち伏せしているといったところだろう」
「やはりな」
咲那が腰の刀に思わず触れる。
「さあて、そんじゃまそろそろ行きますかね」
「ああ」
咲那は1階の廊下をそのまま進む。江紀は屋上を目指し、2階へと上がる。瓦礫だらけの階段ではあるが、かろうじて2階に行くことができそうだった。
「じゃあまた後でな」
「おう、何度も言うが無理はするなよ薬師寺」
背後にいる江紀に対して手をひらひらと振りながら、咲那は自分の獲物である亜人種型が潜んでいるであろう中庭を目指したー。
この施設は、もともとは学校だったのだろうかー。
現文明において、学校という施設はメジャーなものではなかった。一か所に大人数を集めて教育活動を行うというのは、前文明においてはメジャーなものだったらしいが、今の世界ではその必要性自体が薄れてしまっており、例外的に、希望者だけが前文明時代の教育システムを実体験するために残しているようなものだ。
無機質な廊下と同じような部屋がいくつも並び、さらにその中にあるのは数十個の机と椅子、あとは黒板だ。もっとも、かなり古びており、ほとんどは使い物にならなくなっている。
さらには、足元には内部で崩れ落ちた瓦礫やごみが散乱しており、とてもではないが、足の踏み場所にも困るありさまだった。そしてかなり埃っぽい・・・当たり前だ。何せ前文明時代の遺物である。少なくとも、残っているというだけで奇跡に近い代物なのだ。
前文明時代の建物が文化遺産として保全されている場合もあるが、この廃墟はどうやら違うようだった。
「うひゃあ」
中の様子を一目見て、咲那が素っ頓狂な声を上げる。
「こりゃまたいかにもって感じで雰囲気ありまくりだな」
「薬師寺、お前幽霊とか苦手だったっけ?」
江紀がからかい半分で声をかける。
「バーカ、んなわけねえだろ。いかにも蟲どもが居つきそうな場所だって意味だよ」
笑いながら咲那が返した。
実際、この廃墟の中には「何か出そうな雰囲気」はあった。もっとも、その対象が幽霊だろうが蟲だろうが同じことだ。そして、今は昼であるが、これが夜ならまさに「出る」だろう。
江紀も咲那も、実は前文明時代についてはあまり詳しくはない。そもそも関心がないといった方が正しいだろう。
したがって、この手の建物につきものの「怪談」等もほとんど知らない。夜の学校については、前文明時代においてはオカルトネタの宝庫ともいうべきものだった。
・・・もっとも、実際の夜の学校というのは、宿直の用務員さんが宿直室でごろごろして、時間になれば懐中電灯で見回りするくらいのものなのだが。
「しっかし、前文明の連中ってよくわからねえよな。なんでこんな薄暗い建物に何百人もすし詰め状態にして教育なんかするんだ?」
この時代において、集団教育の必然性はかなり薄れており、前述の通り、希望者だけがその教育システムを疑似的に実体験する。したがって、義務教育もないーが、
「そもそも、教育っつっても自分に必要なことくらい自分か友人の集まりで何とかするだろ。他人から無理やり教わるよりよっぽどそっちの方が覚えやすいだろうに、なんでこんなに人を集める必要があるんだ?」
「オレが知るかよ」
肩をすくめながら、江紀が応える。咲那同様、江紀もまた前文明のやり方にはついていけないところがあるようだ。そもそもあまり関心がない。
「まあいいや。無駄話をしている場合でもなくなってきたしな」
強い魔力の波動を感じる。やはり2体だ。1体は大型のもので、多分こいつは屋上辺りにいる。もう一方は・・・やはり中庭か。当然ながら、亜人種型の方が魔力の波動は強く大きい。両方とも先ほどの位置から動いていないようだ。
「奴さんたち、侵入者に気が付いているのかねえ、やっぱり」
「まあ、十中八九そうだろうな。あいつらは獲物については敏感だからな。おそらく待ち伏せしているといったところだろう」
「やはりな」
咲那が腰の刀に思わず触れる。
「さあて、そんじゃまそろそろ行きますかね」
「ああ」
咲那は1階の廊下をそのまま進む。江紀は屋上を目指し、2階へと上がる。瓦礫だらけの階段ではあるが、かろうじて2階に行くことができそうだった。
「じゃあまた後でな」
「おう、何度も言うが無理はするなよ薬師寺」
背後にいる江紀に対して手をひらひらと振りながら、咲那は自分の獲物である亜人種型が潜んでいるであろう中庭を目指したー。
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