21 / 464
清野江紀と薬師寺咲那(第1話)
しおりを挟む
《ユグドラシル》ーこの世界において、害蟲駆除を専門的に行うチームの名称だ。彼らは、前文明消滅後、新たな世界に突如として現れた害蟲と呼ばれる存在を退治する役目を担っている。
その《ユグドラシル》を率いているのが「双子の王」の異名を持つ和泉奏多、和泉鏡香の姉弟だ。今、2人は故あって他の領域に赴いている。
そんな2人の留守中において、チーム《ユグドラシル》が管理している属領に、大型の害蟲が出現したとの報告が入った。
したがって、チーム《ユグドラシル》の出撃となる。
ーー
「害蟲駆除業者参上~」
なんとも気怠げな女性の声が辺りに響いた。なかなかハスキーな声である。
チーム《ユグドラシル》の属領ー西のはずれに廃墟(前文明時代に建てられた施設らしい)が立ち並ぶエリアがあるが、ここに今二人の人物が姿を現した。どちらも20くらいの年齢だ。一方は二振りの剣を携えた黒髪の青年で、もう一方は髪を無造作にポニーテールに結った女性だ。
青年の方は、顔立ちは端正だが、どこか穏やかそうに見えて冴えない雰囲気を纏っている。しかし、その両手に携えた二振りの剣を見ればなかなかの使い手であることが窺える。
女性の方は、シャツに穴あきジーンズというラフな格好で、腰に刀(前文明時代でいえば日本刀)を佩いている。あまりやる気が感じられないように見えるが、眼光は鋭い。身長が高く、モデル並みのスタイルを有しており、その上顔立ちも堀の深い端正なものだ。
「薬師寺、気を引き締めろ」
「わーってるよ、江紀」
頭をぼりぼりとかきながら、女性が答えた。
青年の名は清野江紀、女性は薬師寺咲那という。二人とも《ユグドラシル》のメンバーだった。
「確か、この辺りで大型のやつらが出たんだよな?」
咲那が隣の相棒に確認する。ハスキーなボイスに加え、男性的な口調も加わり、それが却って薬師寺咲那という人物の魅力を引き立たせているかのようだった。
「ああ、そうだ」
江紀が端末からの情報を確認しながら答えた。
「出現した個体は、大型と亜人種型だな」
「亜人種型だと?」
咲那が端末情報を横からのぞき込む。
害蟲にも様々な種類があるが、中でも危険度が高いとされているのが亜人種型と呼ばれる存在だ。やつらは、人間並みかそれ以上の知性を備えており、高度な魔法も自在に操る。蟲は、その能力に応じてS~D級にランク分けされている。さすがに、チームを率いる「マスター」(S級クラスに匹敵する)には及ばないものの、その実力だけならはA級クラスだ。
要するに、並の相手ではないということだ。中途半端な実力で挑んでも、まず間違いなく返り討ちにされるだけだろう。
だが、このA級クラスに勝てればその実力は本物ということになる。害蟲駆除を生業としているものであれば、名声を上げるために避けて通れぬ登竜門といったところか。
「いいねえ、亜人種型が相手というのは」
思わぬ強敵とやり合えるということを知った咲那が楽し気に唇を歪めた。戦いは好きだったー特に、自分と互角以上の相手と戦えるというのなら、これほど面白いことはない。薬師寺咲那とはそういう人物なのだ。
「おい、江紀。今回はあたしに亜人種型をやらせな」
「いや、お前にはまだ時期尚早だろう」
亜人種型は並大抵の相手ではない。今まで、亜人種型と戦うことがあった場合、江紀が主にその役目を担ったものだった。
「お前ねぇ、お前ばかり亜人種型とやり合っていたら、こっちが成長できないだろ。たまにはあたしにやらせろ」
溜息交じりに咲那が要求し始めた。確かに、いつまでも江紀ばかりが亜人種型の相手をしていては、いつまでたっても彼女が成長できない。それはそれで困った話でもある。
「わかったよ」
江紀が折れた。
「今回はお前に任せる。ただ、危なくなった場合にはオレも動くからな」
「そうこなくっちゃな」
咲那が楽しそうに唇を歪めた。
「んじゃま、目的のやつらをさっさとたおしにいくとするかね」
こうして、今回は江紀が大型種を、咲那が亜人種型とやり合う段取りとなったーー
その《ユグドラシル》を率いているのが「双子の王」の異名を持つ和泉奏多、和泉鏡香の姉弟だ。今、2人は故あって他の領域に赴いている。
そんな2人の留守中において、チーム《ユグドラシル》が管理している属領に、大型の害蟲が出現したとの報告が入った。
したがって、チーム《ユグドラシル》の出撃となる。
ーー
「害蟲駆除業者参上~」
なんとも気怠げな女性の声が辺りに響いた。なかなかハスキーな声である。
チーム《ユグドラシル》の属領ー西のはずれに廃墟(前文明時代に建てられた施設らしい)が立ち並ぶエリアがあるが、ここに今二人の人物が姿を現した。どちらも20くらいの年齢だ。一方は二振りの剣を携えた黒髪の青年で、もう一方は髪を無造作にポニーテールに結った女性だ。
青年の方は、顔立ちは端正だが、どこか穏やかそうに見えて冴えない雰囲気を纏っている。しかし、その両手に携えた二振りの剣を見ればなかなかの使い手であることが窺える。
女性の方は、シャツに穴あきジーンズというラフな格好で、腰に刀(前文明時代でいえば日本刀)を佩いている。あまりやる気が感じられないように見えるが、眼光は鋭い。身長が高く、モデル並みのスタイルを有しており、その上顔立ちも堀の深い端正なものだ。
「薬師寺、気を引き締めろ」
「わーってるよ、江紀」
頭をぼりぼりとかきながら、女性が答えた。
青年の名は清野江紀、女性は薬師寺咲那という。二人とも《ユグドラシル》のメンバーだった。
「確か、この辺りで大型のやつらが出たんだよな?」
咲那が隣の相棒に確認する。ハスキーなボイスに加え、男性的な口調も加わり、それが却って薬師寺咲那という人物の魅力を引き立たせているかのようだった。
「ああ、そうだ」
江紀が端末からの情報を確認しながら答えた。
「出現した個体は、大型と亜人種型だな」
「亜人種型だと?」
咲那が端末情報を横からのぞき込む。
害蟲にも様々な種類があるが、中でも危険度が高いとされているのが亜人種型と呼ばれる存在だ。やつらは、人間並みかそれ以上の知性を備えており、高度な魔法も自在に操る。蟲は、その能力に応じてS~D級にランク分けされている。さすがに、チームを率いる「マスター」(S級クラスに匹敵する)には及ばないものの、その実力だけならはA級クラスだ。
要するに、並の相手ではないということだ。中途半端な実力で挑んでも、まず間違いなく返り討ちにされるだけだろう。
だが、このA級クラスに勝てればその実力は本物ということになる。害蟲駆除を生業としているものであれば、名声を上げるために避けて通れぬ登竜門といったところか。
「いいねえ、亜人種型が相手というのは」
思わぬ強敵とやり合えるということを知った咲那が楽し気に唇を歪めた。戦いは好きだったー特に、自分と互角以上の相手と戦えるというのなら、これほど面白いことはない。薬師寺咲那とはそういう人物なのだ。
「おい、江紀。今回はあたしに亜人種型をやらせな」
「いや、お前にはまだ時期尚早だろう」
亜人種型は並大抵の相手ではない。今まで、亜人種型と戦うことがあった場合、江紀が主にその役目を担ったものだった。
「お前ねぇ、お前ばかり亜人種型とやり合っていたら、こっちが成長できないだろ。たまにはあたしにやらせろ」
溜息交じりに咲那が要求し始めた。確かに、いつまでも江紀ばかりが亜人種型の相手をしていては、いつまでたっても彼女が成長できない。それはそれで困った話でもある。
「わかったよ」
江紀が折れた。
「今回はお前に任せる。ただ、危なくなった場合にはオレも動くからな」
「そうこなくっちゃな」
咲那が楽しそうに唇を歪めた。
「んじゃま、目的のやつらをさっさとたおしにいくとするかね」
こうして、今回は江紀が大型種を、咲那が亜人種型とやり合う段取りとなったーー
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました
空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜
MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった
お詫びということで沢山の
チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。
自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。
ゆとりある生活を異世界で
コロ
ファンタジー
とある世界の皇国
公爵家の長男坊は
少しばかりの異能を持っていて、それを不思議に思いながらも健やかに成長していた…
それなりに頑張って生きていた俺は48歳
なかなか楽しい人生だと満喫していたら
交通事故でアッサリ逝ってもた…orz
そんな俺を何気に興味を持って見ていた神様の一柱が
『楽しませてくれた礼をあげるよ』
とボーナスとして異世界でもう一つの人生を歩ませてくれる事に…
それもチートまでくれて♪
ありがたやありがたや
チート?強力なのがあります→使うとは言ってない
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
身体の状態(主に目)と相談しながら書くので遅筆になると思います
宜しくお付き合い下さい
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる