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ユグドラシルの双子の主・和泉鏡香(第7話)
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ーーモリガン視点ーー
こいつが、和泉の討伐目標か。
かなりの大型で、黒い煙が立ち昇ったような姿をしている。何かの生物というよりは、煙や雲がそのまま巨大化したような姿だ。そして、内部にかなりの魔力を宿しているのが、わしの体にひしひしと伝わってくる。
なるほど、これほどの大きな蟲だと、いずれこの森に害をなす存在となるじゃろう。この森は、いずれはこの秋の領域の最大の魔女ーモリガン様の縄張りとなるものーこのような輩に住み着かれるのは確かに迷惑だ。
相手のサイズを確認し、素早く術式を展開する。確かに、巨大な蟲ではあるが、こいつの正体は、おそらくは小さな個体の集合体のようなものだ。つまりは、集合体を形成するには、「核」となる部分があるはずで、そこさえ砕くことができれば、あとはほぼ無力な個体が霧散し、脅威とはならなくなる。
もっとも、例え霧散したとしても、小さな個体ですら、放置しておけば再び集合化して害をなすこともある。これは、害虫と呼ばれる普通の虫も同じだ。
例えば、前文明時代において、「旧約聖書」と呼ばれる古典にも記されているバッタの大群等はいい例じゃろう。バッタは、単体では人に対してさほど害をなすことはないが、集団化して数千キロを飛行し、数万人分の食糧となる農作物を食い荒らすという話だ。いわゆる「蝗害」である。下手すれば億単位のバッタが群れることもあるという。
こちらの害蟲も同じ。蟲は「怪異」とされているが、この「怪異」も「集合化」してさらにタチが悪い現象を引き起こすこともある。
要は、例えこいつの「核」となる部分を潰しても、他の霧散した個体をも可能な限り駆除しないと厄介なことになるということじゃな。
「こいつは、知性は持っておらんのじゃろ?」
今までこいつを追いかけていた和泉に確認する。
「ええ、今はまだ知性を得るまでには至っておりません」
「ならば、本能のままに攻撃してくるタイプじゃな。猛獣と似たようなものか」
なら何とかなりそうだ。さすがに知性を持つタイプの害蟲は格が違うゆえ、そういうのが相手だといささかきつくなる(勝てないわけではないが)。より高度な魔法を使いこなし、戦闘での駆け引きなども心得ているからだ。悪知恵が働く分、こいつのように、ただでかいだけのやつよりもはるかにやりにくいといえる。
「ただ、この個体は、私がここに来るまで自分の力を抑えてここに潜んでいました。もしかしたら、ある程度の知性を獲得するその前段階までは成長している可能性もあります」
なるほど、もしこいつが知性を獲得しつつあるというのなら、なおのこと早めに倒さないとまずいことになるな。
「そうか、ならばさっさとけりをつけるとするかのう」
わしが今展開している魔法は、相手の能力を確認することに特化したものだ。まるで入道雲のように膨れ上がったこいつのどこに「核」があるのか、肉眼で確認するのは不可能だ。なので、和泉がわしの魔法球の濃度勾配を読み取った時のように、この蟲の「核」となる部分ー要は、一番強い魔力の波動を放つ部分ーを読み取ることにする。そのための術式を展開した。
それが「魔眼」だ。といっても、わしの目に魔力が宿るわけではなく、わしとは独立して「核」となる部分を探る「魔法の目」に当たるものを幽世より召喚するのがこの魔法だ。わしは「魔法の目」を呼び寄せる媒介となるというわけじゃ。
その他、もう一つの術式を展開する。こちらは、完全に攻撃用だ。「核」を発見次第、すぐに破壊できるように、魔法球を球状から針のように変形させ、待機している。仮に魔法針と呼ぼう。
その「核」を壊せば、おそらく小さな個体は霧散するはずだ。だが、それを逃すつもりはない。「核」を壊したら間髪入れずに次の魔法を発動し、ほぼすべての個体を消滅させる。これが鷲の筋書きだ。
さすがに森の中で炎を伴う魔法の発動は避けたいところだ。下手をすれば森林火災になってしまう。自分の縄張りを燃やすなどというアホな結果だけは防がなければならない。それ以外の属性による攻撃魔法を行う。その準備ももはやすでに整っている。あとはー実行あるのみじゃ。
「さあ、行くぞ蟲けら」
和泉が隣で見守る中、わしは「魔眼」を展開させ、この蟲の「核」を探った。
まるで入道雲のようなやつで、どこが頭とか手足とか、そんな部位はまるでないのだが、それでもあえて場所を表現するのであれば、入道雲の「頭」に当たる部分かー要するに、上の方だ。そこに強い魔力が集まっているのがわかる。サーモグラフィーと考え方は同じで、熱感知ならぬ魔力感知によってその場所を確認できる仕組みだ。サーモグラフィーは赤外線を検知するが、こちらは魔力の波動の濃度を検知する。
最も、和泉自身は「魔眼」なしでこれを行ったようじゃが・・・(つくづく規格外な女じゃのう)。
わしは、「魔眼」を頼りに「核」の位置を把握し、魔法針の狙いを定めた。かなり上の方だが、この距離ならこちらの攻撃は十分に届くはず。わしの腕ならば外すこともないじゃろう。
「砕けろ!」
わしの叫び声とともに、魔法針は放たれたー
こいつが、和泉の討伐目標か。
かなりの大型で、黒い煙が立ち昇ったような姿をしている。何かの生物というよりは、煙や雲がそのまま巨大化したような姿だ。そして、内部にかなりの魔力を宿しているのが、わしの体にひしひしと伝わってくる。
なるほど、これほどの大きな蟲だと、いずれこの森に害をなす存在となるじゃろう。この森は、いずれはこの秋の領域の最大の魔女ーモリガン様の縄張りとなるものーこのような輩に住み着かれるのは確かに迷惑だ。
相手のサイズを確認し、素早く術式を展開する。確かに、巨大な蟲ではあるが、こいつの正体は、おそらくは小さな個体の集合体のようなものだ。つまりは、集合体を形成するには、「核」となる部分があるはずで、そこさえ砕くことができれば、あとはほぼ無力な個体が霧散し、脅威とはならなくなる。
もっとも、例え霧散したとしても、小さな個体ですら、放置しておけば再び集合化して害をなすこともある。これは、害虫と呼ばれる普通の虫も同じだ。
例えば、前文明時代において、「旧約聖書」と呼ばれる古典にも記されているバッタの大群等はいい例じゃろう。バッタは、単体では人に対してさほど害をなすことはないが、集団化して数千キロを飛行し、数万人分の食糧となる農作物を食い荒らすという話だ。いわゆる「蝗害」である。下手すれば億単位のバッタが群れることもあるという。
こちらの害蟲も同じ。蟲は「怪異」とされているが、この「怪異」も「集合化」してさらにタチが悪い現象を引き起こすこともある。
要は、例えこいつの「核」となる部分を潰しても、他の霧散した個体をも可能な限り駆除しないと厄介なことになるということじゃな。
「こいつは、知性は持っておらんのじゃろ?」
今までこいつを追いかけていた和泉に確認する。
「ええ、今はまだ知性を得るまでには至っておりません」
「ならば、本能のままに攻撃してくるタイプじゃな。猛獣と似たようなものか」
なら何とかなりそうだ。さすがに知性を持つタイプの害蟲は格が違うゆえ、そういうのが相手だといささかきつくなる(勝てないわけではないが)。より高度な魔法を使いこなし、戦闘での駆け引きなども心得ているからだ。悪知恵が働く分、こいつのように、ただでかいだけのやつよりもはるかにやりにくいといえる。
「ただ、この個体は、私がここに来るまで自分の力を抑えてここに潜んでいました。もしかしたら、ある程度の知性を獲得するその前段階までは成長している可能性もあります」
なるほど、もしこいつが知性を獲得しつつあるというのなら、なおのこと早めに倒さないとまずいことになるな。
「そうか、ならばさっさとけりをつけるとするかのう」
わしが今展開している魔法は、相手の能力を確認することに特化したものだ。まるで入道雲のように膨れ上がったこいつのどこに「核」があるのか、肉眼で確認するのは不可能だ。なので、和泉がわしの魔法球の濃度勾配を読み取った時のように、この蟲の「核」となる部分ー要は、一番強い魔力の波動を放つ部分ーを読み取ることにする。そのための術式を展開した。
それが「魔眼」だ。といっても、わしの目に魔力が宿るわけではなく、わしとは独立して「核」となる部分を探る「魔法の目」に当たるものを幽世より召喚するのがこの魔法だ。わしは「魔法の目」を呼び寄せる媒介となるというわけじゃ。
その他、もう一つの術式を展開する。こちらは、完全に攻撃用だ。「核」を発見次第、すぐに破壊できるように、魔法球を球状から針のように変形させ、待機している。仮に魔法針と呼ぼう。
その「核」を壊せば、おそらく小さな個体は霧散するはずだ。だが、それを逃すつもりはない。「核」を壊したら間髪入れずに次の魔法を発動し、ほぼすべての個体を消滅させる。これが鷲の筋書きだ。
さすがに森の中で炎を伴う魔法の発動は避けたいところだ。下手をすれば森林火災になってしまう。自分の縄張りを燃やすなどというアホな結果だけは防がなければならない。それ以外の属性による攻撃魔法を行う。その準備ももはやすでに整っている。あとはー実行あるのみじゃ。
「さあ、行くぞ蟲けら」
和泉が隣で見守る中、わしは「魔眼」を展開させ、この蟲の「核」を探った。
まるで入道雲のようなやつで、どこが頭とか手足とか、そんな部位はまるでないのだが、それでもあえて場所を表現するのであれば、入道雲の「頭」に当たる部分かー要するに、上の方だ。そこに強い魔力が集まっているのがわかる。サーモグラフィーと考え方は同じで、熱感知ならぬ魔力感知によってその場所を確認できる仕組みだ。サーモグラフィーは赤外線を検知するが、こちらは魔力の波動の濃度を検知する。
最も、和泉自身は「魔眼」なしでこれを行ったようじゃが・・・(つくづく規格外な女じゃのう)。
わしは、「魔眼」を頼りに「核」の位置を把握し、魔法針の狙いを定めた。かなり上の方だが、この距離ならこちらの攻撃は十分に届くはず。わしの腕ならば外すこともないじゃろう。
「砕けろ!」
わしの叫び声とともに、魔法針は放たれたー
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