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第2章 光る船の中で

光る船の中で5〜魂は平等

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この獅子には、宇宙のエネルギーを集める働きを与えられていた。
そしてそのような働きを与えたのは、辺境人と呼ばれていた人たち。
彼らがあの獅子を祈りの対象物とさだめ毎朝祈るようになり、あの獅子から何かのエネルギーを受け取りたいと願い祈るようになった日から、あの獅子に、宇宙のエネルギーを集める働きが与えられた、と声は伝えた。

あり得ないことではない。だって祈りは強力だ。
妖精の居留地の住宅は、祈りの力でできていた。植物の実りも祈りの力が大きな影響を与えていた。

妖精だけの力だと思っていたけれど、そうではなかった。しかもこんな凄い建造物を作ってしまうなんて、本当に素晴らしい。
やはり世界は面白い。
 
『意思を持つことで、何かを想像する力を持つことは意味があります。人類が自らの力で、世界を直接変えることが出来るからです。
妖精だけの特権ではない、全ての人に備わっているのだと、その事実をもっと広く伝えていく必要があるでしょう』

まるで私の考えに呼応するかのように声が伝える。

『あなたたちの仲間は、あえてそう表現します。妖精でおるとか辺境人であるとか、そのような区別を我々は持ちません。さらに、我々はあなたたたは神と呼んでいますが、やはり魂としての区別を持ちません。あるとすれば成長の度合いの違いでしょう』

石でできたピラミッド。それを作ったのは神ではない。神から与えられた祈りの力。
この建物を見た人の誰がそんな真実を見抜けるのか。私だってこうして見ていなければ、想像もしなかった。

『あのような巨大な建造物創造のため、必要なことをひとつ伝えます。大切なのは、石と心を同調させることです。石と意志を合わせる。面白い響きですが真実です。
むしろ意思があるから石と名付けられたのです。
我々は決して、石をコントロールしようと思ってはいけません。
相手の意思と同調し、こちらの要求を伝えるだけ。あとは同調が高まれば石は意志を汲み取り動くのです。
あらゆる物質にはエネルギーがあります。命の元のような存在です』

人が獅子に能力を与えた。それが意志と関係し、故に石はイシ(意思)と名付けられた。

「なるほどね」
エリザはこちらを見ることもないまま、心の声に相槌を打ってくる。

「素粒子で建物を作り出す仕組みとそう変わらないのかも」
エリザはあっさりと現実を受け入れたらしい。

『すべての魂は平等です。けして支配したりされたりする関係にありません。
妖精族も人間も、そして石も平等です。
ですから人は、石に動いてくれるようにお願いするのです。動いて欲しいと願い、石がそれに応じる。ふたつの魂の意識が同化したとき、初めて石は動くのです』

山に登るよう伝え歩いていた時に出会った、辺境人の男性の顔が浮かんだ。
「化学省の人間の言う事はどこか偉そうで、鼻につく。かといって妖精たちの言うことも、綺麗事ばかりで、やっぱり鼻につく」
彼は私にそう言った。

私は綺麗事を言っているつもりはなかったけど、彼らから見たら、そうなのかもしれない。
「彼のこと、見たよ」
とエリザが不意に言う。
でもエリザは、彼と会ったことがないはず。と考えるのと同時に、エリザが語り出す。

「あの時ね、泣いていたあなたを山にひっぱりあげる途中で見たよ、その人。妖精の背中に背負われた、多分彼のお母さんみたいな女の人と、泣きながら登っていた」
「そうだったの!」
嬉しくて、思わず声を出して答えた。
登ってくれたのね!
それだけでもう泣きそうだ。

「エリザは私が呼びかけて歩いていた時に一緒にいたわけじゃないから知らないはずなのに。つまりは私の心の声だけじゃなく、ビジョンも見えているのね」
エリザはふふっと笑う。私が声に出してわざわざ聞いたことに対してなのか。

「そうだね。あの時は知らなかったけど、あなたの心に浮かんだ彼の顔を見て思い出したの。だってね、彼のお母さんを背負っていたのがカールだったからね」

カールは運動ばかりしている私たちの幼なじみの、カール?
ありがとう、カール!

綺麗事だと言い返した彼の顔を思い返す。
「世界が沈もうが沈まなかろうが、どっちでもいい。どうせ俺たちが死んだって何も変わらないだろ。だから俺たちには関係ない」
と投げやりに答えていたのに。
誰かが彼を説得してくれたのか。山に登っていたなんて。本当によかった。

「見てよ」
エリザが差した方に目を向けると、沢山の妖精たちの向こうに、あの時の彼の顔を見つけた。まっすぐ前を向いて座っている。そして何故か妖精族の子供たちに囲まれている。不思議だ。
「何でだろうね」とエリザも笑う。

『石は自分の力で動くことを選ばない存在だから、私たちの働きかけが必要なのです。私たちが願うことで、石は初めて動けるのです。
動くという行為に必要なエネルギーと
誰かの強い願いがなければ何も動かないのです』

声がまた始まる。彼の顔がとても真剣になる。
理解できているのかな?と思ったけど、能力とか歴史とか文化とか、きっと関係ないのだと思う。
声は誰に対しても平等で、わかりやすく解説しているのだから。
私たちは共に学ぶ学校のクラスメートなのだ。

『エネルギーは相互交換するものなので、与え与えられる存在です。
石に動こうという願いがないので動かない。だから私たちが願うのです。
言葉を使って具体的に願うのです。
そしてエネルギーを送り、相互の流れを作るのです。それが石の動かし方です』

どこかに書き留めることができないから、しっかりと心に刻んでいこう。
エリザも真剣に聞いている。エリザだけではなく、この船にいる、おそらくは数百人規模の人たちが皆、真剣に聞いていた。

『例えば病気の時、肉体を覆うエネルギーに穴が開き隙間ができます。そんな時症状に合わせた植物のエッセンスを使うと良いのです。植物が不足分を補い、完全に近い状態に戻してくれることで、病気が改善されるからです。
植物もまた、私たちを助けたいと願っています。それを忘れないでください。
物と呼ばれる存在や植物などは、意識の境界線を持ちません。
すべてがひとつという中にあるので、彼らに動く必要がないのです。
見た目は動いていなくても、その意志のネットワークこの星全てに張り巡らせれており、人類よりも遥かに広い世界で活躍しているのです。
だからこそ、目に見えて動いていないから、我々より下等な存在であるわけではないのです。
何度もいいます、魂は等しい。
ただそれを取り巻くそれぞれの意識がどこまで発達しているかにより、それぞれの命のあり方、生きていく道が違ってくるだけなのです』

うん、大納得。
科学省の人たちは違うというけれど、やはりそれが真実なのね。

『彼らは、自分たちがひとつであるという意識のなかで生きているので、それぞれが分け合うことを当たり前と思っています。
自分の身体は全ての一部なのだから、自分を全ての中に捧げることは、自分を生かしていることだと知っているのです。
そのため、自らの身体そのものを別の命に差し出すことに苦痛を感じたりしないのです、それが自分を生かすことだとちゃんと知っているから。
愛のものとして生きているから』

エリザも黙って聞いている。こんなにたくさんの人がいるのにシーンとしている。全員が心に染み渡らせていくのを待って声が続ける。

「妖精の能力が衰えて、真実も歴史に埋もれることを悲しいと思っていた。でもね、神から受け継いだ能力などいらない。それが私たちが深いところで望んでいたことかもしれない」
声を聞いてそんな考えが浮かんだ。

「何故?
私のように失ってしまっている人間からすれば、あなたのように石と話す力は消えてほしくはないわ」
「それもわかる。でも、持つものと持たないものがいる」
私は山に登ってくれたあの男の人をもう一度見た。
初めて会った時、人生の全ての恨みをぶつけるかのように、私に辛辣な言葉を投げかけていた時とは全く違う真剣な顔で、真っ直ぐ前を見て声を聞いていた。

「私は、能力とか、妖精の特別な力はという響きはなんだか苦手なの」
「それは…なんかわかる」
エリザも彼の方を見た。
「妖精とか科学省の人間とか辺境人とか」
と呟くと
「あの人が言った言葉が、響いちゃった?」
エリザはニヤリと笑う。
「わからない。でもね、今まで辺境人の立場で世界を見たことがなかった。怒りを抱いていたことを知らなかった」
「みんなそうだよ。私だって、人の考えは読めるけど、その奥に潜む感情までは見えないから」
そう答えたエリザに、話してみないと相手の本当のことは見えないのだと思った。

不便だけど大切なこと。
妖精の力を失うことは、もしかしたら、退化なんかではないかのかもしれない。








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