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第1章 それぞれのモノローグ

アトランティスの夕陽6〜女王の告白

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この国がいつか滅んでしまう日が来る事はわかっていました。太古の時代に神々が私たちにお伝えくださった、予言の中にありましたから。
連綿と続くこの星の歴史。何もない無の世界に、ある日混沌が生まれ、そこに宇宙のご意志である「セントラム ムンドゥス」が現れました。宇宙の中心であり、宇宙の全てである「セントラム ムンドゥス」は、あらゆるものに姿を変え、この世界を一つずつ創造されました。
ですから、この宇宙のあらゆる全てのものに、このご意志は宿っていらっしゃるのです。星にも空にも、生きとし生けるもの全てに。
そこから始まる壮大な物語。

わたくし達の祖であるシリウスの神々は、神話の最後に登場されます。故郷の星が滅んでしまったため、神々は大船団でこの青き星まで渡ってこられました。自らがこの星に降り立ち、新しい命を生み出しました。それがわたくしたち妖精族となりました。
神話は、妖精族の祖である地球生まれの女神が、シリウスから来た神々より、宇宙創生から始まる物語を受け取って終わります。
そこまでが古い神話であり「宇宙創世記」と呼ばれています。
「新・蒼星神話」は、地球の女神がこの世界のことわりを神々から伝え聞き、記したものです。
その中に、シリウスの神々が直接創造されたこの国が、いつか滅ぶ日が来ると、はっきり書かれているのです。

わたくしはこの人生に悔いはありません。常に神々のお声を聞き、そのお言葉を正確に伝えることに人生のほとんどの時間を捧げ、身も心も浄化することに尽力してまいりました。
代々の女王がしてきたことを疎かにしたつもりはありません。
ただ、妖精族の力が弱っていることと、化学省の方々が、自然のことわりを超えて、自然エネルギーを使ってしまったこと。そのため滅びの兆しが見えはじめたのに防げなかったことは、わたくしに責任があります。

打開策を見つけるため、王族の長老達や中央省の長官と話し合いを持ち、妖精の力を増やす計画に協力すると決めました。化学省の幹部と極秘に研究を重ね、本来であれば女性の胎内で育てるべき命を、試験管で生み出してしまったこと。
わたくしの代でこの国が滅びることが罰だというのなら、命を弄んだ罪なのかもしれません。

妖精たちを科学的に生み出したことをきっかけに、科学省は遺伝子組み換えを用いて、海や山や地底で生きていける新しい生命体を創造してしまいました。それを止める力がわたくしにありませんでした。
わたくしは、妖精達を試験官で生み出したことを間違った選択だとは思いませんでした。能力を濃く残す妖精が急務で必要でしたが、新たに子を望む妖精が減っていたからです。
しかしもっと、神々との話し合いを重ねるべきでした。
神託が降りてこないことを、神々が容認していると判断したことが間違いでした。いいえ。どこかで気づいていたのです。その上で神々に是非を問うことを避けたこと。それがわたくしの本当の罪なのです。

あの時、たくさんの妖精たちの受精卵が、試験管の中で創造されました。
妖精族の王族の女性が肉体を提供し、受精卵は彼女達の胎内へ埋め込まれました。
その受精卵は、わたくしと夫の遺伝子からできたもの。愛で結ばれるべき細胞の結晶。とはいえそれを人工的に作り出したことは、神々には容認できないことなのかもしれません。

あの時、三年間で百人もの新しい命が試験官で生み出されました。
ただ一人あの子だけは。ルルゥだけは、試験管を通さずに生まれたわたくしの子どもでした。
もしもこの国が継続していくのであれば、次の女王はルルゥが継ぐはずでした。けれどそのことを、あの子は知りません。

妖精族は、特定の子を自分達だけで育てることはありません。生まれた子はすべて等しくあるべきです。誰が産んだ子であっても、社会の子どもとみなします。なので、妖精族は生まれるとすぐ、養護施設に預けられるのです。そこでそれぞれの特性に合わせた教育を受けながら、集団で育ちます。王族も特別ではありません。
血族は守らねばなりませんので、女王とその配偶者の間に女の子が生まれた場合、その子が次期女王となります。特別なことといえばそれくらい。
子ども達は十六歳になると、養護施設を出て、自然保護地区の中にある居住地区で暮らすのです。王族とそれ以外の妖精は地区が分かれてはいますが、住環境に大きな差はありません。供給管理棟から衣食住の全てが望む形で与えられます。
誰かが何かを望む時、それが愛と一致するものであれば、宇宙を作る素粒子と、供給管理棟で働く妖精たちの意識の同調により、あらゆるものは無限に創造されるのですから。誰も不満などあるはずもない。

科学省では働きに応じて、報酬で貨幣が与えられることになっていました。彼らは石と意思を合わせることで物質ができることは、科学的に証明できないからと、わたくしたちが何かしら不正を働き、嘘をついていると思っているようでした。

科学省の人々は、シリウスの神々の一部が、海で生きていける妖精を作ったことも信じていないようでした。しかし海中で自由に行動できる存在が必要となり、遺伝子を操作して半分人間で半分魚の生き物を作り出した時は、その姿の異様さに震えてしまいました。
悲しいことです。

水の国という名を持つこの国のすぐ下の海で人々が生きている。それは事実です。
神々からは、今回のことは海の国の人々にも伝わっており、水の国の多くの者は海に沈み命を失うでしょうが、海の王国の人々とイルカたちが総動員で、海に沈んだ人々を出来る限り、海の国の空気の層の中に保護する予定だと神託を受けた時は、わずかですが希望を感じました。

神々は本来、わたくし達を見守るだけで介在してこないのです。神託として事実を伝えることはあっても、海の国の人々に、水の国の人々を救うよう命じてはいないのです。
だから神々によって国が滅ぼされるなど異例なこと。それは必要以上に命の領域にわたくしたちが手を入れてしまったために起きたこと。
どこかで防げたのではないかと遡って考えたのですが、多かれ少なかれこの国は、科学と妖精達との2つに分かれて、望まないのに争いが起きていた結論に至ってしまいました。なぜなら神話によれば、神々は何度も同じことを繰り返していたのです。
互いに相手を思いやり、歩み寄り融合していく世界へ向かうことが目的で、敢えて国で暮らす人々の価値観を、大きく二分させること。何度も繰り返された神々から与えられた大きな課題。
ですが人々はその度に何度も袂を分ち、争い、崩壊していく歴史を繰り返したのです。
どこかで融合できる道はあったでしょう。ですがわたくしの力量では無理だったのです。いつも迷う度真剣に悩み、神の声を聞き、決断していたから。それ以上のことはきっとできなかったのです。
残念ですし、全ての存在に対して申し訳ない気持ちです。

ルルゥ。
ああ、全ての国民を等しく思いたいのに、あなたのことを一番に考えてしまう。わたくしは何と浅ましく、愚かなのでしょう。女王でありながら女王の資質を備えていなかったのです。
自分が産んだ子どもの幸せを一番に考えるなど、「全ての国民の母」である女王として、褒められるものではないのです。
だけど、自分の産んだ子を自分の元で育てるようになった妖精族以外の母親の気持ちがよく分かりました。なぜ全ての子どもに平等な思いを抱けないのか。あなたを産むまで理解できませんでした。
これは進化ではなく退化なのだと神に諌められたら、受け入れるしかありません。
それでもわたくしはルルゥ、あなたのことを思うことを止めることができないのです。女王としては愚かで恥ずかしいことですけれど、あなたには助かって欲しいと心から願ってしまうのです。

きっとあなたはたくさんの人が残っている現実に、悲しみにくれて山を登ることもできずに泣き崩れてしまうでしょう。
ですがあなたのお友達にとても強い子がいたわよね。
その子がきっとあなたを山まで連れて行ってくれると信じています。
その子はあなたと同じ遺伝を持つわたくしたちの子どもで、私の姉が産んだ子なのです。だからあなたとその子はとても近いエネルギーを持っているのですよ。
肉体を通して生まれる以上、母体の細胞のエネルギーと受精卵との同調が発生してしまう。私と姉のエネルギーが似ているから、あなたとその子のエネルギーも似ていることでしょう。

ルルゥ。最後まであなたを抱きしめてあげられなかった母を許してください。そしてどうか、どうか幸せになってね。

波の音が近づいてきました。
最後に神様、そして全ての国民の皆様。
愚かなわたくしを許してください。
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