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【オメガバース】逃げてきたオメガを買って愛妾にしたアルファの話
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攻めはアルファ性で、ベータの両親から突然変異で生まれた。
その国はアルファ性性の子供は一カ所に集められ教育を与えられ、成人の儀を迎えると爵位を与えられ国の要職に就くことになっていた。
しかも移動は必ず馬車を使い、他は認めないと決められていた。
騎士団に配属された攻めはそれが窮屈でならなかった。
ある日、馬車の手配が上手くいかず用意されなかった。
これ幸いと上官からの相乗りの誘いを断り、馬に乗ってそのまま帰ろうとした。
久しぶりの市井の匂いに懐かしさを覚え馬を歩かせていると、悲鳴と怒号が聞こえた。
慌てて駆けつければ、痩せ細った子を追いかける屈強な男がいた。
攻めは嘆息した。
よくある光景だ、売られた子を捕まえるために人買いが追いかけるのは。
だがちらりと逃げている子の顔を見て攻めは慌てて馬から下り捕まえた。
人買いが捕まえてくれたことに礼を言って揉み手で近づいてくる。
「綺麗な子だな」
「お目が高い。きっと泣かせるのが好きな旦那方に可愛がられますよ」
「そうか、ではこの子は私が買おう」
そう言って攻めは人買いが出した倍の金額でその子を買った。
人買いが立ち去るとその子を馬に乗せ屋敷に戻った。
一目でその子がオメガだとわかった。
すぐに執事に言いつけオメガを綺麗にさせたが、正直なぜ自分がオメガを買ったのか攻めにもわからなかった。
綺麗に整えられたオメガはハッとするほど美しかった。
涙を浮かべる顔は加虐心を煽るのに、真っ直ぐに見つめてくる目は意志の強さを感じた。
自分をどうするつもりかとオメガが訊ねてきた。
「それなんだが、考えていない。好きにしていいし、家に……」
と言いかけてすぐに違うことを話した。
「どこかに行く当てはあるか?」
オメガは首を横に振った。
家に帰れるはずがない、戻ったとしても別の人買いに売られるだけだ。
そしてオメガならもしかすると心を通わせた相手がいるかもしれないと思ったがその可能性も潰えた。
ならばここにいて貰うのが最善だろう。
「では俺の愛妾のフリをして貰えないか」
「愛妾……ですか?」
この国には公妾と呼ばれる国から各貴族に派遣されるオメガがいるが、それとは別に私的に所有するオメガのことを愛妾と呼んでいた。
ポッと出のなりたて貴族である攻めと懇意にしたい貴族はそういないが、反してその奥方が遊び相手にならないかと誘ってくるのに辟易していた。
攻めの理想は自分の両親のように互いに愛し合う関係で、火遊びになど興味はなかった。
「そういうわけで奥方たちの誘いを断りたいんだ、手伝ってくれないか?」
「わかりました」
「使用人たちにも知られないよう、寝室は一緒にするが決してては出さないと誓おう」
そういったとき、オメガはふわりと笑った。
甘かな表情に攻めの心臓が高鳴り、下腹部が一気に熱くなった。
「今日は疲れただろう、先に寝てくれ」
そうして寝室に下がらせた攻めは、なぜこうなったのか自分の言葉を早々と後悔して右手で慰めるのだった。
こうして始まったオメガとの生活だが、はっきり言って地獄だった。
なんせ初日から意識してしまった攻めは隣に気になる子がいるのに手を出さずに一緒の寝台を使わなければならないのだから。
ドキドキしながら、しかしオメガの存在が不思議でならなかった。
市井でも貧困街にいたはずなのに、立ち居振る舞いが上品なのだ。
カトラリーの扱いも攻めよりも美しく背筋もピンと伸びているし言葉遣いも上品だった。
友人であり侯爵家の三男である上官に訊ねてみた。
「それはきっと公妾の子だ。公妾はアルファ性を生みやすいとされているけど、神のいたずらでオメガ性を産むときがある。それがわかったら、貴族たちはそのこと一緒に公妾を追い出すんだ。オメガ性は自分の家の子じゃないと言ってね」
公妾は効率的にアルファ性を産むためだけの存在。
発情期が来たら一家で公妾を抱き、孕ませるのが習わしとなっている。
家を存続させるためにはアルファ性の跡取りが必要だからだ、爵位を持てるのはアルファ性だけだから。
オメガ性を産んだ公妾は出来損ないと廃棄して新しい公妾を得なければならない。
そうなったとき、オメガ性を産んだ公妾は実家に帰ることもできず市井に身を沈めるしかなかった、オメガ性の子どもと共に。
何という理不尽だと憤っても効率的にアルファ性を産ませるためのシステムに組み込まれているのは自分も同じだった。
「そのオメガが運命の番でないことを祈るよ……出会ってしまったら地獄だ」
どんなに多くの愛妾を抱えても、愛妾との間に子を成すことはない。
オメガ性が生まれたら家の恥だからだと上官は教えてくれたが、一層オメガが憐れでならなかった。
だから上官の言葉の意味がわからなかった。
「いつかそのオメガを逢わせてくれ」
「そのうちな」
と言ったのにすぐに、侯爵家で開催される夜会の招待状が届いた。
断れなかった攻めは仕方なくオメガを伴って侯爵家へと赴いた。
だがオメガは男なのに見事なドレスを纏った姿だった。
「その服はどうしたんだ?」
「昔の知り合いに会わないように……」
合点した、第二性が判明するまでは普通に貴族の子として育てられたオメガはきっと知り合いが多くいるのだろう。
それなのに愛妾のフリをさせるのは可哀想になった。
「今日だけは我慢してくれ」
「いえ、こちらの事情なので気になさらないでください」
では攻めは完璧なエスコートをしてオメガが女性であると振る舞うのが筋だと、会場に着いてからずっとオメガを女性としてエスコートした。
目立ちたくないので壁の花になってオメガとだけ話していたが、何人もの男がダンスに誘いに来る。
自分の愛妾だと言えば誰もが引き下がったが、そう牽制しても美しいオメガを奪おうとするものが現れるのだ。
「これ程綺麗なお嬢さんが壁の花では可哀想だ。是非私にエスコートさせてください。攻め男爵よりもずっと楽しい夜にしましょう」
などと甘い言葉を使ってくる。
さすがにカチンときた攻めは「踊るなら相手は私だ」とオメガの手を引いてダンスの輪に加わった。
オメガは男なのに可憐に女性のパートを踊り始めた。
その美しい姿に離せなくて三曲も続けざまに踊らせた。
テラスまで移動してやっと休憩を入れる。
「ここにいたのか」
何でこんなタイミングで上官がやってきて、オメガの顔を見て驚いた。
「君だったのか!」
「何を仰っているのかわかりかねます」
「そういうことにしておこう」
どうやら上官とオメガは知己だったようだ。
だが上官はオメガに耳を寄せて何かを囁き、オメガは顔を真っ赤にした。
「何を話した!」
だが上官は笑って背中に隠れている子を前に出した。
自分の愛妾だという。
「話があるから場所を変えよう」
連れて行かれたのは上官の書斎だった。
ソファに座ると上官は愛妾に目配せをした。
震える細身の愛妾は服を脱ぎ捨て上官のものを逞しくし、それから座る彼の上に乗った。
「いいことを教えよう。オメガ性はうなじからアルファを誘うフェロモンを出すという。発情期が来れば一層強くなり、それを浴びたアルファは自制が効かなくなってオメガ性を犯し続ける。けれどそうならない方法が一つだけある」
そう言って愛妾のうなじを噛んだ。
オメガは悲鳴を上げた。
どういうことかと驚く攻めに上官は言葉を続けた。
「これでこの子は私にしか抱かれなくなる。運命だからね、どういう意味かわかるだろう」
攻めにはさっぱりわからなかった。
だが言葉を続けたのはオメガだった。
「それと同時に上官様も愛妾様しか抱けなくなります……」
さすがの攻めも驚いた。
公妾を抱いてアルファ性の子を残すことが貴族の努めだと教えたのは上官だからだ。
なんともやるせない気持ちになって、攻めはオメガを引っ張って家に帰った。
上官が変なものを見せるから気持ちが落ち着かない。
さすがにあんなものを見せられて今日もオメガが攻めのベッドで寝ることはないだろうと高を括って寝ようとして、いつもの位置にオメガがいることに気付いて驚いた。
だが酷くうなされている。
慌てて起こせば悪い夢を見たという。
きっと今日の夜会で緊張したからだろうと「もう愛妾のフリをしなくていい」と伝えた。
「なぜですか!」
「君を愛してるからだ」
驚いて顔を上げたオメガと初めて目が合った。
その時だった、酷く甘い匂いが漂い始め、攻めは下腹部が熱くなりそこが形を変えるのがわかった。
抑えきれず、攻めはオメガを抱いた。
だがその身体はどんなことをされても悦び狂った。
今までも男に抱かれていたのかとカッとなって激しく執拗に抱き続けた。
ようやく攻めが正気に戻ったのは抱き潰した後だった。
傍にいてはまた激しく抱いてしまうと書斎に入った。
すぐに執事がお茶を用意してくれた。
「オメガは初めてではなかったようだ、好きなヤツがいたんだろうな」
愚痴のようにぼそりと呟いた。
「そう言う話は聞いたことがありませんが、聞くところによりますと公妾様でも発情すると初めてでも痛みより悦びを感じるそうです」
それを聞いて驚いた。
それがオメガ性の発情だと言われ頭を抱えた。
勝手に嫉妬して酷いことをしてしまった。
すぐに彼に謝りたかったが執事に止められた、少し休ませてやった方がいいと。
確かにそうだ、またあの匂いを嗅いでしまったら自分を止める自信はなかった。
夜になり攻めは庭に出てこれからのことを考えた。
けれど目はオメガが眠っている自室の窓から離れない。
纏まらない頭でどうすればオメガのためになるかを考え続けたが、答えは出なかった。
「そこで何をなさっているんですか?」
オメガの声がして窓が開いた。
「今の私では君に近づけない」
「……愛妾になることもできないんですね」
「君を金で買って、約束を破って犯した。すまない、発情が終わったら出て行ってくれてもいい。行く当てがないのなら住むところを用意する」
決して不自由はさせないと伝えてから深呼吸した。
「もし少しでも気持ちがあるのなら、私の伴侶になって欲しい」
「あなたは鈍すぎます!あの夜上官様が何を言ったかご存じですか?『君の想い人はその気持ちに気付いてくれているかな』と言ったんですよ!」
攻めはカッとなった。
「誰だそれは!夜会にいたのか!!」
綺麗な顔を怒りに歪めたオメガは近くにあった水差しを二階の窓から投げつけてきた。
だがそれは攻めに当たることはなかった。
「鈍いにも程があります!もう知りません!」
「なんだと!」
窓を閉めたオメガを追いかけるように軽やかに木を登りバルコニーに飛び移って中へ入っていった。
そこでも枕を投げつけられた。
「なんで気付いてくれないんですか!」
「何を気付けと言うんだ!」
「こんなにも好きなのに!!」
「……それは本当か、いつからだ!」
「いつだっていいでしょう」
だが攻めは許せずその身体をベッドに組み敷くと散々苛んだ入り口を指で掻き回した。
「やめっ!」
「いつだ教えろ」
乱暴にしているのにオメガからは甘い声ばかりが上がり答えようとはしない。
だから、小さく揺れる分身の根元を押さえた。
さすがにこれには悲鳴が上がった。
「言うまでいかせない」
オメガは啼きながら言った、就任式にときだと。
それは成人の儀で多くの貴族達の前で国王から爵位と職を与えられるための式典だった。
すでに八年も前だというのにオメガはその時、攻めから目が離せずにいたという。
そして自分がオメガ性であると判明したとき納得した、なぜあれほど攻めばかりを気にしていたのかを。
告白に攻めは驚いた、まさか彼がずっと思っている相手が自分だと知らなかったから。
「もぉ……許してっ」
「駄目だまだ許さない、誓え、死ぬまで一緒に居ると」
「ちかっ、ちかうからっ!」
その言葉を聞いて攻めは根元を堰き止めていた手を離した。
オメガは蜜を吐き出し、攻めの腕の中で弛緩した。
何もかもが美しくて、特に自分を惑わすうなじに顔を近づけた。
「いけませんっ、公妾様を抱けなくなります!」
「子どもがどんな第二性だろうと気にしないが……そんなに気にするなら公妾が来る前にアルファの子を産めばいい。何度でもここに蜜を注ぐ。アルファの子が生まれたら……その時は拒まないでくれ」
それから攻めは発情が終わるまでずっとオメガを抱き続けるのだった。
おしまい
*****************
本作は「冴えない?大学生がイケメン会社役員に溺愛される」の番外編「スパダリがオメガバースを知ったなら」をツイノベにした物です。
その国はアルファ性性の子供は一カ所に集められ教育を与えられ、成人の儀を迎えると爵位を与えられ国の要職に就くことになっていた。
しかも移動は必ず馬車を使い、他は認めないと決められていた。
騎士団に配属された攻めはそれが窮屈でならなかった。
ある日、馬車の手配が上手くいかず用意されなかった。
これ幸いと上官からの相乗りの誘いを断り、馬に乗ってそのまま帰ろうとした。
久しぶりの市井の匂いに懐かしさを覚え馬を歩かせていると、悲鳴と怒号が聞こえた。
慌てて駆けつければ、痩せ細った子を追いかける屈強な男がいた。
攻めは嘆息した。
よくある光景だ、売られた子を捕まえるために人買いが追いかけるのは。
だがちらりと逃げている子の顔を見て攻めは慌てて馬から下り捕まえた。
人買いが捕まえてくれたことに礼を言って揉み手で近づいてくる。
「綺麗な子だな」
「お目が高い。きっと泣かせるのが好きな旦那方に可愛がられますよ」
「そうか、ではこの子は私が買おう」
そう言って攻めは人買いが出した倍の金額でその子を買った。
人買いが立ち去るとその子を馬に乗せ屋敷に戻った。
一目でその子がオメガだとわかった。
すぐに執事に言いつけオメガを綺麗にさせたが、正直なぜ自分がオメガを買ったのか攻めにもわからなかった。
綺麗に整えられたオメガはハッとするほど美しかった。
涙を浮かべる顔は加虐心を煽るのに、真っ直ぐに見つめてくる目は意志の強さを感じた。
自分をどうするつもりかとオメガが訊ねてきた。
「それなんだが、考えていない。好きにしていいし、家に……」
と言いかけてすぐに違うことを話した。
「どこかに行く当てはあるか?」
オメガは首を横に振った。
家に帰れるはずがない、戻ったとしても別の人買いに売られるだけだ。
そしてオメガならもしかすると心を通わせた相手がいるかもしれないと思ったがその可能性も潰えた。
ならばここにいて貰うのが最善だろう。
「では俺の愛妾のフリをして貰えないか」
「愛妾……ですか?」
この国には公妾と呼ばれる国から各貴族に派遣されるオメガがいるが、それとは別に私的に所有するオメガのことを愛妾と呼んでいた。
ポッと出のなりたて貴族である攻めと懇意にしたい貴族はそういないが、反してその奥方が遊び相手にならないかと誘ってくるのに辟易していた。
攻めの理想は自分の両親のように互いに愛し合う関係で、火遊びになど興味はなかった。
「そういうわけで奥方たちの誘いを断りたいんだ、手伝ってくれないか?」
「わかりました」
「使用人たちにも知られないよう、寝室は一緒にするが決してては出さないと誓おう」
そういったとき、オメガはふわりと笑った。
甘かな表情に攻めの心臓が高鳴り、下腹部が一気に熱くなった。
「今日は疲れただろう、先に寝てくれ」
そうして寝室に下がらせた攻めは、なぜこうなったのか自分の言葉を早々と後悔して右手で慰めるのだった。
こうして始まったオメガとの生活だが、はっきり言って地獄だった。
なんせ初日から意識してしまった攻めは隣に気になる子がいるのに手を出さずに一緒の寝台を使わなければならないのだから。
ドキドキしながら、しかしオメガの存在が不思議でならなかった。
市井でも貧困街にいたはずなのに、立ち居振る舞いが上品なのだ。
カトラリーの扱いも攻めよりも美しく背筋もピンと伸びているし言葉遣いも上品だった。
友人であり侯爵家の三男である上官に訊ねてみた。
「それはきっと公妾の子だ。公妾はアルファ性を生みやすいとされているけど、神のいたずらでオメガ性を産むときがある。それがわかったら、貴族たちはそのこと一緒に公妾を追い出すんだ。オメガ性は自分の家の子じゃないと言ってね」
公妾は効率的にアルファ性を産むためだけの存在。
発情期が来たら一家で公妾を抱き、孕ませるのが習わしとなっている。
家を存続させるためにはアルファ性の跡取りが必要だからだ、爵位を持てるのはアルファ性だけだから。
オメガ性を産んだ公妾は出来損ないと廃棄して新しい公妾を得なければならない。
そうなったとき、オメガ性を産んだ公妾は実家に帰ることもできず市井に身を沈めるしかなかった、オメガ性の子どもと共に。
何という理不尽だと憤っても効率的にアルファ性を産ませるためのシステムに組み込まれているのは自分も同じだった。
「そのオメガが運命の番でないことを祈るよ……出会ってしまったら地獄だ」
どんなに多くの愛妾を抱えても、愛妾との間に子を成すことはない。
オメガ性が生まれたら家の恥だからだと上官は教えてくれたが、一層オメガが憐れでならなかった。
だから上官の言葉の意味がわからなかった。
「いつかそのオメガを逢わせてくれ」
「そのうちな」
と言ったのにすぐに、侯爵家で開催される夜会の招待状が届いた。
断れなかった攻めは仕方なくオメガを伴って侯爵家へと赴いた。
だがオメガは男なのに見事なドレスを纏った姿だった。
「その服はどうしたんだ?」
「昔の知り合いに会わないように……」
合点した、第二性が判明するまでは普通に貴族の子として育てられたオメガはきっと知り合いが多くいるのだろう。
それなのに愛妾のフリをさせるのは可哀想になった。
「今日だけは我慢してくれ」
「いえ、こちらの事情なので気になさらないでください」
では攻めは完璧なエスコートをしてオメガが女性であると振る舞うのが筋だと、会場に着いてからずっとオメガを女性としてエスコートした。
目立ちたくないので壁の花になってオメガとだけ話していたが、何人もの男がダンスに誘いに来る。
自分の愛妾だと言えば誰もが引き下がったが、そう牽制しても美しいオメガを奪おうとするものが現れるのだ。
「これ程綺麗なお嬢さんが壁の花では可哀想だ。是非私にエスコートさせてください。攻め男爵よりもずっと楽しい夜にしましょう」
などと甘い言葉を使ってくる。
さすがにカチンときた攻めは「踊るなら相手は私だ」とオメガの手を引いてダンスの輪に加わった。
オメガは男なのに可憐に女性のパートを踊り始めた。
その美しい姿に離せなくて三曲も続けざまに踊らせた。
テラスまで移動してやっと休憩を入れる。
「ここにいたのか」
何でこんなタイミングで上官がやってきて、オメガの顔を見て驚いた。
「君だったのか!」
「何を仰っているのかわかりかねます」
「そういうことにしておこう」
どうやら上官とオメガは知己だったようだ。
だが上官はオメガに耳を寄せて何かを囁き、オメガは顔を真っ赤にした。
「何を話した!」
だが上官は笑って背中に隠れている子を前に出した。
自分の愛妾だという。
「話があるから場所を変えよう」
連れて行かれたのは上官の書斎だった。
ソファに座ると上官は愛妾に目配せをした。
震える細身の愛妾は服を脱ぎ捨て上官のものを逞しくし、それから座る彼の上に乗った。
「いいことを教えよう。オメガ性はうなじからアルファを誘うフェロモンを出すという。発情期が来れば一層強くなり、それを浴びたアルファは自制が効かなくなってオメガ性を犯し続ける。けれどそうならない方法が一つだけある」
そう言って愛妾のうなじを噛んだ。
オメガは悲鳴を上げた。
どういうことかと驚く攻めに上官は言葉を続けた。
「これでこの子は私にしか抱かれなくなる。運命だからね、どういう意味かわかるだろう」
攻めにはさっぱりわからなかった。
だが言葉を続けたのはオメガだった。
「それと同時に上官様も愛妾様しか抱けなくなります……」
さすがの攻めも驚いた。
公妾を抱いてアルファ性の子を残すことが貴族の努めだと教えたのは上官だからだ。
なんともやるせない気持ちになって、攻めはオメガを引っ張って家に帰った。
上官が変なものを見せるから気持ちが落ち着かない。
さすがにあんなものを見せられて今日もオメガが攻めのベッドで寝ることはないだろうと高を括って寝ようとして、いつもの位置にオメガがいることに気付いて驚いた。
だが酷くうなされている。
慌てて起こせば悪い夢を見たという。
きっと今日の夜会で緊張したからだろうと「もう愛妾のフリをしなくていい」と伝えた。
「なぜですか!」
「君を愛してるからだ」
驚いて顔を上げたオメガと初めて目が合った。
その時だった、酷く甘い匂いが漂い始め、攻めは下腹部が熱くなりそこが形を変えるのがわかった。
抑えきれず、攻めはオメガを抱いた。
だがその身体はどんなことをされても悦び狂った。
今までも男に抱かれていたのかとカッとなって激しく執拗に抱き続けた。
ようやく攻めが正気に戻ったのは抱き潰した後だった。
傍にいてはまた激しく抱いてしまうと書斎に入った。
すぐに執事がお茶を用意してくれた。
「オメガは初めてではなかったようだ、好きなヤツがいたんだろうな」
愚痴のようにぼそりと呟いた。
「そう言う話は聞いたことがありませんが、聞くところによりますと公妾様でも発情すると初めてでも痛みより悦びを感じるそうです」
それを聞いて驚いた。
それがオメガ性の発情だと言われ頭を抱えた。
勝手に嫉妬して酷いことをしてしまった。
すぐに彼に謝りたかったが執事に止められた、少し休ませてやった方がいいと。
確かにそうだ、またあの匂いを嗅いでしまったら自分を止める自信はなかった。
夜になり攻めは庭に出てこれからのことを考えた。
けれど目はオメガが眠っている自室の窓から離れない。
纏まらない頭でどうすればオメガのためになるかを考え続けたが、答えは出なかった。
「そこで何をなさっているんですか?」
オメガの声がして窓が開いた。
「今の私では君に近づけない」
「……愛妾になることもできないんですね」
「君を金で買って、約束を破って犯した。すまない、発情が終わったら出て行ってくれてもいい。行く当てがないのなら住むところを用意する」
決して不自由はさせないと伝えてから深呼吸した。
「もし少しでも気持ちがあるのなら、私の伴侶になって欲しい」
「あなたは鈍すぎます!あの夜上官様が何を言ったかご存じですか?『君の想い人はその気持ちに気付いてくれているかな』と言ったんですよ!」
攻めはカッとなった。
「誰だそれは!夜会にいたのか!!」
綺麗な顔を怒りに歪めたオメガは近くにあった水差しを二階の窓から投げつけてきた。
だがそれは攻めに当たることはなかった。
「鈍いにも程があります!もう知りません!」
「なんだと!」
窓を閉めたオメガを追いかけるように軽やかに木を登りバルコニーに飛び移って中へ入っていった。
そこでも枕を投げつけられた。
「なんで気付いてくれないんですか!」
「何を気付けと言うんだ!」
「こんなにも好きなのに!!」
「……それは本当か、いつからだ!」
「いつだっていいでしょう」
だが攻めは許せずその身体をベッドに組み敷くと散々苛んだ入り口を指で掻き回した。
「やめっ!」
「いつだ教えろ」
乱暴にしているのにオメガからは甘い声ばかりが上がり答えようとはしない。
だから、小さく揺れる分身の根元を押さえた。
さすがにこれには悲鳴が上がった。
「言うまでいかせない」
オメガは啼きながら言った、就任式にときだと。
それは成人の儀で多くの貴族達の前で国王から爵位と職を与えられるための式典だった。
すでに八年も前だというのにオメガはその時、攻めから目が離せずにいたという。
そして自分がオメガ性であると判明したとき納得した、なぜあれほど攻めばかりを気にしていたのかを。
告白に攻めは驚いた、まさか彼がずっと思っている相手が自分だと知らなかったから。
「もぉ……許してっ」
「駄目だまだ許さない、誓え、死ぬまで一緒に居ると」
「ちかっ、ちかうからっ!」
その言葉を聞いて攻めは根元を堰き止めていた手を離した。
オメガは蜜を吐き出し、攻めの腕の中で弛緩した。
何もかもが美しくて、特に自分を惑わすうなじに顔を近づけた。
「いけませんっ、公妾様を抱けなくなります!」
「子どもがどんな第二性だろうと気にしないが……そんなに気にするなら公妾が来る前にアルファの子を産めばいい。何度でもここに蜜を注ぐ。アルファの子が生まれたら……その時は拒まないでくれ」
それから攻めは発情が終わるまでずっとオメガを抱き続けるのだった。
おしまい
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本作は「冴えない?大学生がイケメン会社役員に溺愛される」の番外編「スパダリがオメガバースを知ったなら」をツイノベにした物です。
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