ツイノベ置き場

椎名サクラ

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【シバース】お見合い写真を見て犬化した受けと甘々攻めの話

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受けは特異体質だった。

極度のストレスに晒されると犬化してしまうのだ。

普段は寂しがりやで甘えん坊で、年上の恋人に甘やかされるばかりだ。

10歳も年上で全て包み込んでくれるから、何一つ不安なく過ごしている。

なのにある日恋人の机の上に置かれてあるものを見てしまい、犬化してしまった。

(なんで今なんだよぉ!)

でもしょうがないとも思う。

だって机の上にあったのはお見合い写真だから。

悲しくて悲しくて、犬化を止められなかった。

ガチャ。

「受け、ただいま」

大好きな恋人が帰ってきた!

受けはすぐさま玄関に行き、大好きな気持ちを込めて尻尾を振り乱して近づくが、普段なら抱きついて好き好き言うところ、どうしてもある一線から先に進めない。

いわゆる柴距離だ。

警戒心の強さから飼い主相手でも近寄りすぎないのが柴の柴たるゆえん……。

犬化してしまうとその本能に従わないといけないのだ。

「……もしかして、受け?」

じーっとこちらを見つめた恋人がふと訊ねてきた。

(すごいよ、わかってくれたー!)

スーツ姿だってわかっててもスリスリして、すぐに離れた。

「そう、犬化するって聞いてたけど、柴犬なんだね。可愛いな」

恋人は手を伸ばして鼻の前に拳を置いた。

クンクン、本能で嗅いでしまう。

恋人の匂いだとわかるとひどく安心して、またスラックスに匂いをこすりつけて先に部屋に戻る。

いつも定位置にしてるソファにぴょんっと飛び上がってくるりと体を丸めてリラックスして、けれど視線は絶対に恋人から離さない。

(やっぱりかっこいいな……こっち見てくれないかな)

恋人はそんな受けを見るとふわりと笑い背中を撫でてくれた。

(嬉しい‼️)

洋犬は頭を撫でられると喜ぶが、柴はそれが苦手なのだ。

心を許した相手でも気分で許せるときと許せないときがある。

そんな気難しさに気づいてくれてるのが嬉しくてうっとりと恋人を見つめた。

部屋着に着替えて戻ってきても軽く目線を合わせるだけ。ちょっと物足りないけど、柴犬化してるときはこれが心地よいと感じるんだから不思議だ。

いつものように手慣れた仕草で料理をしてテーブルに並べる。 犬化した受けのためにワンプレートに盛り付けた皿がいつも攻めが座る席の側に置かれた。

「好きなものばかりだから。ゆっくり食べるんだよ」

ご飯の時間は天国だ!

ぴょいっとソファから降りてお皿の前に行くと、がむしゃらに食べ始めた。

それを攻めがとても愛おしそうに見つめてるとも知らずに。

そしてお腹いっぱいになると、また素っ気ないと言われるが、ソファの定位置に戻る。

それを見届けてから攻めも食べ始めた。

今度はそれを受けがじっと見つめる。

好きな人が今何をしてるのか、つい見つめてしまうのも柴犬化したときの特徴だ。

距離を取るのに視線で追ってしまう。

綺麗な箸使いに見入ってしまう。

綺麗に平らげて受けが置いたままのお皿まで片付け、手際よく洗っていく。

その動きに無駄はない。

全部終わると、攻めはどこからかリードを取り出した。

「お散歩に行こう、夜のデートだ」

ピクピク。

立った耳がぺたっと飛行機のように横に広がり、嬉しくてスタタタタっと攻めの元まで駆け寄る。

首輪を付けてくれる。

抜けないようにしっかりと調節して「さあ行こうか」とそこにリードを繋げて外に出た。

夏の夜の湿った風を嗅ぎながら興味のある方へフラフラと行こうとしたらグッと引っ張られた。

「ノー!サイド」

静かな口調だが決して否を受け付けない強さがあった。

しかもリードが短く持たれてる。

(これってもしかしてリーダーウォーク?)

犬のリードを短く持つことで勝手を許さず自分がリーダーだと教えこむリードさばきに、受けの本能が反発した。

だって柴犬は日本犬!

飼い主に従順が求められるのではなく、自由にともに生きることを長年求められた種族なのだ。

反発するようにグーッとリードを引っ張って自分の行きたい方へと全力を向けても、恋人は軽くいなしてリーダーウォークを続ける。

頑丈なリードでグッと引っ張られれば、首輪が喉を締め付ける。

(苦しい……でもこれ嫌だっ!)

本能が強くなる犬化は気持ちよりも習性が優先されてしまう。

攻防を繰り返し、体力で負けてしまったのは受けだった。

「日本犬は気が強いって言うけど本当だね。でも駄目だ、今は私が飼い主だからね」

有無を言わせない強い言葉に尻尾を下げて従うしかない。

それでも気が緩んだ空きを見ては引っ張ってみるが、頑として主導権を握らせてはもらえなかった。

拒否柴すら許さず、強いコマンドで従わせてくる。

家に帰る頃にはヘロヘロで、足を綺麗に拭かれたあと、クタリとソファで眠ってしまった。

短い睡眠を取って目を覚ますと、キッチンの近くにお皿が置かれてあり、たっぷりの水が入っていた。

お腹がタプタプになるまで飲むとくるりと見回した。

恋人がどこにもいない。

寝室だろうか。

鼻で扉をついっと押すと簡単に開いた。

静かに入っていく。

恋人はベッドサイドの明かりをつけて何かを読んでいる。

(もしかして見合い写真⁉️)

気になってシュタッとベッドに上がると恋人と目があった。

ふわりと笑い目を細める。

ギュッと胸が鷲掴まれた。

「好きなところで寝なさい」

(ああ、やっぱりこの顔好きだ)

すごく愛されてる気持ちになる。

でも撫でてこようとしない。

どうして?

犬化すると大抵の人は撫でてこようとする。

それが犬にとって不快な場所もある。

特に柴犬は嫌なところが多く、相手によっては噛み付くこともある。

なのに恋人はちっとも触れてこようとしない。

足元にうずくまり、ちらっと見た。

目が合う。

プンとそっぽを向き、尻尾に顔を乗せた。

どうして構ってくれないんだろう。

あんなに好きだって言ってくれたのに。

悲しいを素直に表現できない犬種だからうずくまってじっと自分の気持ちを耐える。

本当はお腹を出して撫でてほしい。

もっとたくさん構ってほしい。

でも構われ過ぎは嫌。

しょうがない、柴犬は飽き性なんだもん。

恋人はそんな受けの背中を軽く撫でて「おやすみ」と言って電気を消した。

このまま寝ちゃうのかな?

もっと構ってくれないのかな?

洋犬みたいなアピールができないままウトウトしてると体の一部を恋人にピタッとくっつけてそのまま寝た。

「……私の可愛い受けは本当に甘えん坊だね」

恋人が愛おしそうに呟いた言葉をピクピクと耳を動かして拾い上げ、そのまま眠った。

翌日になっても人間に戻れず、恋人と柴距離で対応してしまう。

わかってる、心的ストレスの元が解消されないと人間に戻れないのを。

手を伸ばされればシュタッと素早い動きで距離を起き、臨戦態勢で身構えてしまう。

なのに構われないと寂しくて足元にピタッと体をくっつける。

それなのに恋人は受けの好きなようにさせた。

散歩してもリーダーウォークに逆らい続ける。

(ねぇ、気づいて。もっと気にかけて!)

そうじゃないと悲しくて寂しくて人間に戻れない。

まる一日犬化したままなのに恋人は柴距離での対応にも気にかけずマイペースに過ごす。

まるで受けのことなんてどうでもいいみたいに。

だから気を引くために彼の靴下を引っ張って脱がせ、ストレスをぶつけるように振り回した。

「こら、流石にそれはだめだっ!」

厳しい言葉がとんでも無視する。

だってちっとも構ってくれないじゃないか!

気にかけてくれないじゃないか!

グルルゥと唸って恋人の靴下を咥えたまま牙を見せた。

しかも体制は頭を低くした攻撃モード。

「はぁ、困ったね。どうしたら機嫌を直してくれるんだい?」

ヒョイッと素早い動きで抱き上げられ体が固まった。

抱っこは嫌いだ、だって日本犬は抱かれ慣れてないんだ、やめてくれ!

怖くて動けずにいるとそのまま膝に乗せられた。

「何にストレスを感じたんだい?受けが不安になるようなことは何もないだろう」

嘘だ!机の上の写真はなんだ!

恋人は見合いするのか、僕がいるのに!

でも犬化した今、そんな叫びも伝わらない。

もどかしくても泣けない。

どんどん悲しくなって尻尾が足の間に入ってしまう。

「怒ってるんじゃないんだ、困ったね」

被毛を撫でギュッと抱きしめてきた。

「私は誰よりも君が好きだよ」

トクン。

胸が高鳴るのに、不安が根付いたままじゃあ人間に戻れない。

腕の力が緩んだ隙にぴょん通りた。

タタタッと机に向かいテーブルに手をつく。

そこには見合い写真がある。

恋人も気づいたのか近づいてきた。

「もしかして、原因はこれか?」

写真を手に取ったのを見てぷいっと顔を背けた。

見たくもない、恋人への見合い写真なんて。

なのに恋人それをしっかりと受けの顔にくっつけるほど近づけてきた。

やめろっと叫ぶ代わりにバウっ!と吠えた。

「これだったのか。可愛い子だろう?」

腹が立って噛み付こうとして、すぐに避けられた。

「部下への見合いにどうかと上司に渡されたんだ。姪御さんなんだが、誰に声をかけようか迷っていてね。こればかりは扱いが難しい」

(えっ、恋人への見合い写真じゃないの?)

びっくりしてじっと恋人を見た。

またあの甘やかすような蕩けた笑みを見せてくる。

「この子よりもずっと受けの方が私には可愛いんだけどね」

「……うそ」

気がつけば犬化が解けていた。

「本当だよ。君が何しても可愛くて困ってしまうくらいだ」

「でも、全然かまってくれなかった!」

犬化したときのことを詰れば笑って抱きしめてきた。

しかも見合い写真をぽいっと投げ捨てて。

「犬は構い過ぎてはいけないからね。特に日本犬はそうだろう。適度な距離がストレスを緩和するからね。でも私の可愛い受けは構って欲しかったんだね」

ぎゅっと抱く腕に力が入る。

「うん……いっぱいギュッてして欲しかった」

ポロポロと泣けば背中を大きな手が撫でてくれた。

「気づいてやれなくて済まない。今度はたくさん構ってあげるよ」

「うん……」

受けも恋人の背中に腕を回した。

そのままヒョイッと抱き上げられてベッドへと運ばれ何されるかドキドキしたまま体を許す。

巧みな恋人の手管でドロドロに溶かされていいっぱい気持ちよくなって。

足もお腹もカクカク震わせてしまうくらい感じてしまった。

体を清められた後、恋人の腕の中で訊ねた。

「どうして首輪とリードあるの?」

今も受けの首に巻かれたままの赤い首輪。

しかもサイズはぴったりだ。

恋人はニヤリと笑って「こうしようとしたんだ」と、サイドボードからダイヤル式の錠を出し、それを首輪につけた。

恋人以外には外せないように。

「私のものだってね主張しようと思って」

「うそっ……これはちょっと……」

本物の犬用じゃあ外に出られないと泣きそうになればクスクス笑われた。

「駄目かな?」

「……家の中だけだったら」

「そう?私は会社にも可愛い恋人がいると公言してるが、受けはそうじゃないだろうか。誰かに君を取られやしないかと気が気じゃないんだ」

年上でいつも余裕たっぷりに振る舞ってる恋人がそんなこと考えてるなんて思いもしなくて、見えない尻尾をブンブンに振り回して抱きついた。

「嬉しい」

「こら、そんなに抱きついたらまたしたくなってしまうだろう」

「いいよ、いっぱいしても」

「全く君は……ではここに首輪をはめてもいいかな?」

ここ、と左指の薬指を擽られた。

嬉しくて抱きつけばそのまままた押し倒されてアンアン啼かされて。

次の日一緒にお揃いの指輪を買いに行くのだった。

そして、それからは毎週恋人の家でお揃いの指輪をつけた受けは首輪もつけられ、ちょっと厳しい飼い主に調教されてどんどんと淫らになってしまうのだった。


おしまい
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