ツイノベ置き場

椎名サクラ

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【闇BL】愛されると不幸になる受けの話

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バタンと扉の閉まる音を聞いて、受けは泣いた。

恋人が出て行ったからだ。

「おまえつまんねーんだよっ!」

恋人の怒鳴り声と痛みが涙を溢れさせた。

気に入ったから付き合おうとこの部屋に転がり込んだ恋人は、働くこともなく日がな一日遊んでいても、咎めはしなかった。

陰気な自分を愛してくれる希有な人にそんなことはさせられないとバイトを増やし、恋人を支えるんだと請われるままに金を渡してきた。

けれど月のバイト代よりも恋人の遊ぶ金の方が嵩み、ずっとしてきた貯金もついには底を突いた。

「ごめん、もうお金がないんだ」

そう言ったら思い切り殴られた。

「風俗でもして稼いでこいよ!」

断ったが次の日、そういう店に連れて行かれ無理矢理客を取らされた。

嫌だったが帰ったら恋人が「殴ってごめんな。お前が好きなチョコ、買ったから」と優しくしてくれたから、それが嬉しくて頑張った。

毎日毎日客を取って、体も心もボロボロにして、得た金はすべて恋人に取り上げられても、文句一つ言わなかった。

けれどアパートの家賃が払えなくて、今日だけは使わないで言ったら、店に出られないくらい殴られ、出て行ってしまった。

薄っぺらな布団に蹲って受けは泣き続けた。

本当に恋人を愛していたかと聞かれたら答えに詰まるが、こんな自分の側にいてくれるのは彼以外いなかった。

鼻血が出て顔も腫れ上がった。

とても仕事に行けるような格好ではないとわかっていても、店を休めなかった。

今日は常連客からの指名が入っていたからだ。

冷蔵庫にある恋人のために買ったビールで殴られた所を冷やし、いつもよりも醜い顔で店に顔を出した。

店長はすぐに気付いたが何も言わなかった。

そんな子はこの店にたくさんいる、ヒモに殴られるなんて日常茶飯事過ぎて感情すら動かないのだろう。

しかも受けの指名は少なく、トラブルにはならないがリピーターも少ないという、店としても大事にするキャストではなかった。

常連が指示したホテルの番号を聞き、そこへと向かう。

自分の何を気に入ったのかわからないが、その人はいつもシティホテルの一室を取ってくれた。

場末のホテルが多い受けには敷居が高く、いつも緊張してしまう。

「どうしたんだ、その怪我は」

常連はすぐに気付いて声を掛けてくれた。

「ちょっと転んじゃって……ごめんなさい汚くて」

俯いて顔を隠すのに、常連は痛ましい表情をして殴られた後にそっと触れて「痛々しいね、今日は止めようか」と言ってくれた。

「いえっ仕事はします!」

「無理はしなくていい。ここでゆっくり休んでいきなさい」

キャンセルじゃないんだと察したが、申し訳なかった。

売れっ子ではないが、受けを買うのは安くはない。

何もせず一晩分の金を払わせるのが心苦しく、「気にしないでください……抱いてください」と縋り付いた。

「でも……」と躊躇う常連に服を脱ぎ捨て誘えば、いつものように優しく抱いてくれた。

金を払った分好き勝手乱暴に抱く客が多い受けにとって、常連は有り難い存在だった。

受けの快楽を優先するだけでなく終わっても甘い言葉を囁いてと、疑似恋愛を楽しむ人だった。

その日も受けの快楽を優先してくれたが、いつもより執拗に感じさせられた。

しかも分身の根元を縛り遂情できなくしてきた。

「何かあったか教えてくれ」

中をぐちゃぐちゃに掻き回しながらの問いかけに、受けは堪えきれず全部を告げてしまった。

恋人に殴られたことも、捨てられたことも。

「そう、辛かったね。今日は君を優先的に悦ばせてあげるよ」

遂情できないまま奥を穿たれ、受けは初めて絶頂を味わった。

しかも一度では許されず、常連の声が届かなくなるまで何度も押し上げられ、解放されたときには痙攣が止まらなかった。

腰が立たないという経験を味わっている受けを常連は抱きしめた。

「君はこういうことが好きでやっているんだと思っていたが、違うのなら……」

言葉の意味がわからないまま目を閉じ、次に目を覚ました時は部屋に一人だけだった。

いつものように一晩分のお金がサイドボードに置かれてあるだけ。

それで家賃を払い部屋に戻った。

あんなにも感じたのは初めてで、まだふわふわした感覚が残る受けだが、部屋は真っ暗で恋人が戻ってきた気配はない。

嘆息して、涙を滲ませた。

仕事をしなければ食べられないからと仕方なく店に出ては乱暴なプレイを強要されたり、終わった後「君つまらないね」と言われたり。

いつもと変わらない仕事が続き、けれど常連からの連絡はあれからパタリとなくなった。

やはり顔がぐちゃぐちゃになるぐらい殴られた相手なんてもう興味をなくしたのかなと少し寂しくなった。

金を使わない受けは、働けばその分貯まり、また預金が増えていったが虚しさもまた増えていった。

もうこんな仕事辞めようかとも思ったが、している間は必要とされているような気持ちになって、孤独を慰められていた。

辞めるきっかけがないままだらだらと続けていると、一月ぶりに常連が指名してくれた。

胸が高鳴った。

指定されたシティホテルに行くと、ルームサービスを取ろうと言ってくれた。

「そんな、大丈夫です」

「ゆっくり話がしたくてね」

テーブルに並んだ食事を食べながら常連が訊いてきた。

「この仕事を辞めて、付き合ってくれないか?」

「えっ、でもそれは……」

客と付き合うのはタブーだった。

それだけは絶対にしてはいけないと教え込まれた受けは当然のように断った。

「彼氏を養わなくても良くなったんだろう。ならこの仕事を辞めて付き合おう。受けくんのことがとても気に入っているんだ」

その言葉だけで受けは縋り付きそうになった。

何度も熱く説得され、頷いた。

この人なら大事に思ってくれるかもしれない、そう信じたくなったからだ。

その夜、前回と同じように受けは絶頂を味わい、立てないほど極まってまた意識を飛ばした。

けれど次の日、隣に常連がいてくれて、店を辞めたらここに電話してくれと携帯の番号を書いて渡してくれた。

受けはすぐに店に連絡して退店すると、言われたとおり常連に電話した。

常連はすぐに受けの家まで車で迎えに来てくれて、アパートも引き払うように言い、別の場所に連れて行った。

このままではみっともないと身なりを整えられ、そこそこの見栄えになると、とても広いマンションの一室へと入った。

「この部屋を君にあげるよ、時々しか訪ねてこれないけれど、待っていてくれると嬉しいな」

気付かなかったがその左手には結婚指輪が付けられていた。

自分は愛人になったんだと理解したが、それでも時折訪ねてくる常連に抱かれ続けた。

常連は次第に本性を現した。

「受けの泣く顔は可愛いな。私にも殴らせてくれ」

キャスト時代はあんなにも優しく抱いてくれたのに、愛人になってからは鞭で打ったり拘束されたり。

プレイはどんどんとエスカレートしていった。

痛いのに苦しいのに、それでも頑張って耐えた後に優しくして貰うとどうしようもない気持ちになる。

「私のために頑張ってくれてありがとう。愛しているよ、受け」

身体中に痣を作り、座ることができないくらい尻を叩かれても、逃げようとは思わなかった。

その日も常連はやってきた。

さんざん受けを苛めて中の刺激だけで何度も絶頂を味わった後、よく頑張ってくれたと抱きしめてくれた。

「本当はこういうのが嫌なんだろう。けれどね、私は好きになってしまった相手にこういうことをしたくて堪らなくなるんだ」

「……奥さんにもこういうこと、してるんですか?」

初めて家族のことを訪ねる受けに驚いた常連だが、「妻とは家の付き合いで結婚しただけだ。愛しているのは君だけだ」と教えてくれた。

その言葉を信じていいのかわからない。

けれど愛情に飢えた受けは信じたくて縋り付いてしまった。

「本当に君は可愛いね。可愛くて、苛めて泣かせてしまいたくなる」

今日のプレイは終わったのに、また常連は受けの身体を縛り付け泣かせ続けた。

「ねぇ、もっと酷いことをしても、君は許してくれるかな」

受けは何度も何度も頷いた。

愛してくれるなら、彼の性癖をすべて受け入れるつもりだった。

「嬉しいよ、愛している受け」

そう言って抱きしめてくれると胸が締め付けられるようだった。

だが常連がしたい酷いことは、受けの想像を遙かに超えるものだった。

何人もの男に嬲られている所をじっと見るだけなのだ。

助けを求めるように常連に目を向けると、彼はとても悦んだ。

「そういう君を見たかったんだ」

嫌だと泣き叫び、けれど肉の悦びに抗えなくて感じて泣く受けを、常連はひたすら慈しんだ。

そして終わって男たちが帰った後、蜜で汚れた受けを抱きしめていつも以上に褒めてくれた。

「縋るように私を見る君の目が堪らなかった。私のためにこんなに汚れてしまえるんだね。可愛いよ、受け」

陶酔したような言葉に、彼が狂っていると理解しても、受けは抱きしめてくれる腕を振り払えなかった。

月に一度、受けは名も知らぬ男たちに抱かれおかしくなる。

それを常連がただ見つめてる。

そして受けもまたじっと彼だけを見つめ、彼だけを求めた。

どんなことをされても、どれほど蜜を浴びても、彼だけを。

「どうしてだろうね、君が私のために堪えるのを見ると、心が満たされて君への愛情が増すんだ」

狂っていると常連自身もわかっていた。

けれどすべてを受け止める受けに我慢が限界になったという。

欲望のまま穢しても真っ直ぐに見つめてくれるその目が嬉しいという。

受けはどんどんと複数でのプレイに慣れていった。

挿れられるだけで悦ぶようになった。

そうなるとどんなに彼を見つめても、常連は悦んではくれなくなった。

苦しそうに、悔しそうに受けが抱かれるのを見るようになるが、それでも止めようとはしなかった。

あれほど褒めてくれたのに、一年後には金で雇った男たちが帰ると受けを叱責するようになった。

どうしてあれほど感じるのか、なぜ自分のもの以外で感じるのかと怒っては、受けを縛り折檻してきた。

そのたびに「ごめんなさいっごめんなさい許してっ」と常連に縋り泣いた顔のまま彼を慰め、蜜で汚れた身体を洗う余裕もなく彼の上に跨がって慰めた。

「君を見ていると正気を失ってしまう。君はきっと人を狂わすんだ」

そうして次第に常連は狂っていった。

彼の妻によって受けはマンションから放り出された。

行く当てはない。ぶらりぶらりとさまよい歩いてはなぜ自分は愛されないのだろうと悲しくなる。

いつもみんな自分が愛すと狂うかダメになってしまうのだ。

悲しくて涙をボロボロと流していると、優しげなサラリーマンが声を掛けてきた。

「行くところがないのか?可哀想だね。いいよ、僕のうちにおいで」

今度こそ、愛して貰えるだろうか。

それとも彼も壊れてしまうのだろうか。

そんなことをぼんやりと考えて、受けはサラリーマンについて行くのだった。


おしまい
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