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双子オメガ~side弟
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双子は同じ姿だが、兄は闊達で弟は大人しいと性格が全く違っていた。
弟は兄に憧れて必死に追いつこうとしたが、元来の引っ込み思案でいつも置いて行かれた。
二人ともオメガだと分かったのは中学の時。
兄はすぐに友達ができて陽気に騒いでいたが、自己主張が苦手な弟はいつも教室の隅で大人しくしていた。
兄みたいになりたい。
友達を作りたい。
けれどオメガであることを知られるのが恐くて誰かと話すことができなかった。
高校に進学しても、発情抑制剤を使ってベータのフリをして過ごした。
兄は変わらず派手に遊び、憧れると同時に双子なのに全く話さなくなったのが悲しかった。
こんな落ちこぼれが弟だと恥ずかしくて知られたくないのかと落ち込んで、弟は殻にこもった。
学校に行くのが嫌だと思うが、共働きの両親を困らせてはいけないと高校に行くフリをして、市立図書館に入り浸った。
そこでとても綺麗な人に声を掛けられる。
「学生だよね、今の時間は授業じゃないのか?」
「はい……すみません」
「高校生? 良かったら学校のことを教えてくれないか」
綺麗な人は静かに弟の話を聞いてくれた。
学校のこと、兄のこと、ポロポロと話した。
「そう、辛かったんだね。ここにはよく来るから、会ったらまた話をしよう」
綺麗な人はそれだけ言って怒りもしなければ注意もしなかった。
嬉しかった。
それから弟は学校をさぼっては市立図書館へ行き、綺麗な人に会うと話をするようになった。
優しいその人はいつも静かに話を聞いてくれた。
いつものように学校をさぼって市立図書館へと向かったが、途中で具合が悪くなって道の端でしゃがんで耐えた。
「大丈夫?」
声を掛けてくれたのは綺麗な人だった。
真っ青になっている弟を見るとすぐに病院に連れて行ってくれた。
ストレス性胃腸炎だった。
小心者の弟は学校をさぼることもまたストレスになっていたのだ。
「迷惑をかけてごめんなさい、ごめんなさい」
「気にしなくて良いよ。もし嫌じゃなかったら私の家で休んでいきなさい」
綺麗な人の家は図書館の傍にある高層マンションの一室だった。
そして本棚にはたくさんの本が並んでいる。
その中には弟が好きな小説家の作品も全部揃っていて、思わず手を伸ばして読みふけってしまう。
綺麗な人はそれを邪魔することなくパソコンで仕事を始めた。
カタカタカタカタ、キーボードを叩く音だけが静かに流れる空間は、弟の心を癒やしてくれた。
それからというもの、図書館で会っては時折彼の家に遊びに行くようになった。
「君だったらいつ来ても良いよ」
なんて優しく言ってくれるから休日は入り浸りになる。
それでも綺麗な人は迷惑に思うことなく迎え入れてくれた。
どことなく自分の居場所ができたような気がした。
なによりも本がたくさんあってそれを読んでいるだけで幸せになれた。
好きな作家の新刊がある日並んでいた、まだ発売前なのに。
弟は嬉しくてすぐに読んだ、そして固まった。
主人公がまるで自分のようで、主人公はある男と親しくなり閉じ込められそのまま番になる話になっていた。
狂愛をテーマにしたそれに身体が震え始めた。
「どうしたの? そんな恐い話じゃないはずなんだけどね」
綺麗な人は後ろから小説を覗き込んでパラパラとページをめくった。
そしてそこに書かれてあるセリフを口にする。
「可哀想にね、一人きりで。僕なら君だけを見てあげられる、君だけを見てあげることができる。この白い首筋に歯形を残してあげられるよ、だからオメガだと隠さなくていいんだ」
弟が一番恐怖したセリフだ。
顔を真っ青にして綺麗な人を振り向いた。
一度だってオメガだって教えたことはなかったのに、発情抑制剤でちゃんとフェロモンはコントロールしてるはずなのに。
綺麗な人を初めて恐いと思った。
そして自分がオメガだということを忘れて、素性も知らない人の家に入り浸っていることに初めて危機感を感じた。
綺麗な人がうなじに唇を寄せた。
噛まれる恐怖に身体が動かなかったが、残されたのは噛み跡ではなくキスマークだった。
「私なりの告白なんだけどね、どうかな?」
「こくはく?」
「そう、君に惹かれてどうしても閉じ込めておきたくてしょうがないんだ。私だけのオメガになってくれないか」
綺麗な人が憧れの作家だったと知り、どうしていいか分からなかった。
けれど、うなじに唇が当たったとき弟は震えて下肢を疼かせていた。
「ああ甘い匂いがするね。私のフェロモンに触発されたのかな」
「あ……からだ、あつい……」
ずっと医者の指示に従ってきた弟が初めて感じた発情だった。
下肢の疼きが強くなり、抑えられなくなる。
綺麗な人は弟をどこまでもドロドロに溶かすように優しく甘く抱いた。
弟も狂ったように求めた。
綺麗な人はうなじを噛まなかったが、代わりに肩や背中にたくさんの噛み跡を付け、収まった頃には身体中にキスマークと噛み跡が付けられていた。
「私だけのオメガになってくれるかい?」
「どうして僕、なんですか?」
「君がとても寂しそうで泣きそうで、泣き顔が見たくて狂いそうになったんだ」
恐いことを言われているのに弟は陶酔した。
「本当に僕だけを見てくれますか? ここに閉じ込めてくれますか?」
「君が望むなら永遠に」
「閉じ込めてください、ずっと」
綺麗な人にまた抱かれて弟は喜んだ。
こんな風に狂ったような愛し方に憧れていたからだ。
自分だけを見てくれる恋人を得て、ようやく学校での生活が苦にならなくなった弟はそれから通うようになり、週末は綺麗な人の家に泊まるようになった。
高校を卒業したら番になると約束を交わし、家族にも挨拶をしてくれた。
今日も綺麗な人の家に行って、ベッドに縛り付けられ狂ったように愛される。
自分の乱れた姿が今度の小説に書かれるのだと知りながら。
おしまい
弟は兄に憧れて必死に追いつこうとしたが、元来の引っ込み思案でいつも置いて行かれた。
二人ともオメガだと分かったのは中学の時。
兄はすぐに友達ができて陽気に騒いでいたが、自己主張が苦手な弟はいつも教室の隅で大人しくしていた。
兄みたいになりたい。
友達を作りたい。
けれどオメガであることを知られるのが恐くて誰かと話すことができなかった。
高校に進学しても、発情抑制剤を使ってベータのフリをして過ごした。
兄は変わらず派手に遊び、憧れると同時に双子なのに全く話さなくなったのが悲しかった。
こんな落ちこぼれが弟だと恥ずかしくて知られたくないのかと落ち込んで、弟は殻にこもった。
学校に行くのが嫌だと思うが、共働きの両親を困らせてはいけないと高校に行くフリをして、市立図書館に入り浸った。
そこでとても綺麗な人に声を掛けられる。
「学生だよね、今の時間は授業じゃないのか?」
「はい……すみません」
「高校生? 良かったら学校のことを教えてくれないか」
綺麗な人は静かに弟の話を聞いてくれた。
学校のこと、兄のこと、ポロポロと話した。
「そう、辛かったんだね。ここにはよく来るから、会ったらまた話をしよう」
綺麗な人はそれだけ言って怒りもしなければ注意もしなかった。
嬉しかった。
それから弟は学校をさぼっては市立図書館へ行き、綺麗な人に会うと話をするようになった。
優しいその人はいつも静かに話を聞いてくれた。
いつものように学校をさぼって市立図書館へと向かったが、途中で具合が悪くなって道の端でしゃがんで耐えた。
「大丈夫?」
声を掛けてくれたのは綺麗な人だった。
真っ青になっている弟を見るとすぐに病院に連れて行ってくれた。
ストレス性胃腸炎だった。
小心者の弟は学校をさぼることもまたストレスになっていたのだ。
「迷惑をかけてごめんなさい、ごめんなさい」
「気にしなくて良いよ。もし嫌じゃなかったら私の家で休んでいきなさい」
綺麗な人の家は図書館の傍にある高層マンションの一室だった。
そして本棚にはたくさんの本が並んでいる。
その中には弟が好きな小説家の作品も全部揃っていて、思わず手を伸ばして読みふけってしまう。
綺麗な人はそれを邪魔することなくパソコンで仕事を始めた。
カタカタカタカタ、キーボードを叩く音だけが静かに流れる空間は、弟の心を癒やしてくれた。
それからというもの、図書館で会っては時折彼の家に遊びに行くようになった。
「君だったらいつ来ても良いよ」
なんて優しく言ってくれるから休日は入り浸りになる。
それでも綺麗な人は迷惑に思うことなく迎え入れてくれた。
どことなく自分の居場所ができたような気がした。
なによりも本がたくさんあってそれを読んでいるだけで幸せになれた。
好きな作家の新刊がある日並んでいた、まだ発売前なのに。
弟は嬉しくてすぐに読んだ、そして固まった。
主人公がまるで自分のようで、主人公はある男と親しくなり閉じ込められそのまま番になる話になっていた。
狂愛をテーマにしたそれに身体が震え始めた。
「どうしたの? そんな恐い話じゃないはずなんだけどね」
綺麗な人は後ろから小説を覗き込んでパラパラとページをめくった。
そしてそこに書かれてあるセリフを口にする。
「可哀想にね、一人きりで。僕なら君だけを見てあげられる、君だけを見てあげることができる。この白い首筋に歯形を残してあげられるよ、だからオメガだと隠さなくていいんだ」
弟が一番恐怖したセリフだ。
顔を真っ青にして綺麗な人を振り向いた。
一度だってオメガだって教えたことはなかったのに、発情抑制剤でちゃんとフェロモンはコントロールしてるはずなのに。
綺麗な人を初めて恐いと思った。
そして自分がオメガだということを忘れて、素性も知らない人の家に入り浸っていることに初めて危機感を感じた。
綺麗な人がうなじに唇を寄せた。
噛まれる恐怖に身体が動かなかったが、残されたのは噛み跡ではなくキスマークだった。
「私なりの告白なんだけどね、どうかな?」
「こくはく?」
「そう、君に惹かれてどうしても閉じ込めておきたくてしょうがないんだ。私だけのオメガになってくれないか」
綺麗な人が憧れの作家だったと知り、どうしていいか分からなかった。
けれど、うなじに唇が当たったとき弟は震えて下肢を疼かせていた。
「ああ甘い匂いがするね。私のフェロモンに触発されたのかな」
「あ……からだ、あつい……」
ずっと医者の指示に従ってきた弟が初めて感じた発情だった。
下肢の疼きが強くなり、抑えられなくなる。
綺麗な人は弟をどこまでもドロドロに溶かすように優しく甘く抱いた。
弟も狂ったように求めた。
綺麗な人はうなじを噛まなかったが、代わりに肩や背中にたくさんの噛み跡を付け、収まった頃には身体中にキスマークと噛み跡が付けられていた。
「私だけのオメガになってくれるかい?」
「どうして僕、なんですか?」
「君がとても寂しそうで泣きそうで、泣き顔が見たくて狂いそうになったんだ」
恐いことを言われているのに弟は陶酔した。
「本当に僕だけを見てくれますか? ここに閉じ込めてくれますか?」
「君が望むなら永遠に」
「閉じ込めてください、ずっと」
綺麗な人にまた抱かれて弟は喜んだ。
こんな風に狂ったような愛し方に憧れていたからだ。
自分だけを見てくれる恋人を得て、ようやく学校での生活が苦にならなくなった弟はそれから通うようになり、週末は綺麗な人の家に泊まるようになった。
高校を卒業したら番になると約束を交わし、家族にも挨拶をしてくれた。
今日も綺麗な人の家に行って、ベッドに縛り付けられ狂ったように愛される。
自分の乱れた姿が今度の小説に書かれるのだと知りながら。
おしまい
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