ツイノベ置き場

椎名サクラ

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クラスメイトが好きだった受けの話

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受けは同級生の攻めが好きだった。

クラスの人気者で、バスケ部のキャプテンで、憧れるので精一杯だった。

男の自分に好意を寄せられてると知ったら嫌われそうで見てるだけだった。

2年最後のテスト結果が出た日、受けはいつものように机についていた。

廊下に順位が張り出されていたが気にしなかった。

それよりも読書のふりをして攻めを観察したかった。

声をかけられた。

知らない生徒だった。

そいつはおもむろに手を振り降ろした。

「危ない‼️」

教室獣に悲鳴が上がった。

だが受けの視界だけは真っ暗だった。

再び教室の光景が視界に写った時、受けは攻めの腕に顔を覆われたことを知った。

そして攻めの腕からは血が流れていた。

すぐに受けに声をかけた生徒はクラスメイトに取り押さえられ、その手にあるカッターが血で真っ赤に濡れてるのに気づいて、受けも悲鳴を上げた。

おびただしい量の血が机を濡らしていた。

すぐさま攻めは救急車で運ばれ受けも職員室で事情を聞かれたがなぜそうなったのかわからなかった。

あとで知ったことでは、指定校推薦を受けたかった生徒は学期末試験にすべてをかけていたが、目標順位にわずかに届かず、一位に常にいた受けを衝動的に排除しようとしてカッターで切りつけたのだ。

この件で受けは攻めに謝罪を繰り返したが、攻めは「被害者なんだからそんなに謝らなくていいから」と笑うばかりだった。

血は大量に出たが、筋肉のおかけで表面に傷ができただけだった。

それでも受けは申し訳なかった。

「じゃあ今度、勉強教えてくれよ。俺赤点ばっかでやばいんだ」

交換条件のように言う攻めに断れなかった。

自分の気持ちが気づかれてからかわれてるのかと思った。

けれど攻めからはそんな素振りはなかった。

勉強を教え、何気ない会話を重ねるごとに好きだった気持ちがどんどんと膨れ上がった。

隠しきれなくて、受けは誰も行かないだろう難関校を受験し無事合格した。

そして逃げるように首都圏へ出た。

月日は経ち、受けは30になった。

大学を出て社会人になったが、攻めのことを忘れられなかった。

大人になっても好きで、彼のことを想像して自分を慰めていた。

ある日、他社とのプロジェクトが開始して相手会社の担当が攻めだった。

相変わらず場の雰囲気を盛り上げるのが上手な攻めに、懐かしさと後ろめたさが沸き起こった。

もう会うことはないからと安心して想いを募らせたのに目の前にいたらもっと好きになってしまう。

しかも昔と変わらない部分を見つけては気持ちに拍車が掛かる。

自分が怖かった、もっともっと好きになってしまいそうで。

隠し通す自信もなかった。

距離を置こうと思ったが、同級生だと攻めが公言すると連絡係にさせられた。

しかも攻めから二人で飲みにいこうと誘われる。

自分の性癖を隠すために人付き合いをあまりしてこなかった弊害で、断るセリフが思いつかなかった受けは渋々と了承した。

飲み屋の個室に入り適当に飲み物と料理を頼むと、攻めは腕をまくった。

くっきりとした傷が残ってる。

怯えた、12年経っても消えていなかったことに。

「ごめん」と謝れば、攻めは始め何を言われてるのかわからず、気づいて慌てて袖を降ろした。

「悪い変なもん見せちまって」

苦笑してすぐに話を変えられた。

仕事の話をされれば気まずさは消え、互いに夢中で意見交換する。

そんなことを何度も繰り返し、半年が過ぎた。

週末飲みに行くのが当たり前になり、やはり好きだという気持ちが大きくなった。

伝えてはいけないと自分を戒めていたのに、攻めが思い詰めた顔で言った。

「受けか好きだ」

驚いて夢じゃないかと疑った。

からかわれているのだろうかと疑ったが、攻めはとても真剣な顔だった。

だから頷いた。

攻めは喜んで抱きついた。

「高校のときからずっと好きだったんだ」という。

そのまま彼の家へと連れて行かれ抱かれた。

最後まではいかず、指を入れるだけだったが、それでも受けは嬉しかった。

それから週末ごとに会うのは変わらないが場所が彼の家に変わり、必ず肌を合わせた。

繫がるための場所を徐々に慣らされ、3ヶ月も経てば指を3本受け入れても痛みはなかった。

週末は同窓会があり、その後抱くと宣言された。

緊張した、最後の一線を超えたらもう後戻りはできない気がした。

ドキドキして久しぶりに田舎に帰った。

同窓会のあと、攻めが予約したホテルで抱かれると考えると落ち着かなかった。

同窓会の会場に向かっているとかつてのクラスメイトに会った。

攻めと同じバスケ部で仲の良かった人物だ。

思い出話に花を咲かせる彼がふと言い出した。

「攻めは来るかな、結婚式以来会ってないから楽しみだ」

結婚してるとは知らなかった受けはショックだった。

結婚相手がとても美人で羨ましいなんて話を聞いて、どうしていいかわからなくなった。

同窓会には行かずそのまま帰った。

次の日攻めが訪ねてきた。

泣きすぎた顔で扉をあけて、訊いた。

「結婚してたんだ」

攻めは頷いた。

話も聞かず扉を締めて泣いた。

ひたすら泣いた、大事な事実を隠されたのが悲しかった。

お前だけだと言い続けた攻め。

ずっと好きだったと言ってくれた攻め。

ぜんぶウソだったのが辛かった。

何度も電話は鳴り、インターフォンも鳴ったがどれも出なかった。

留守電に残る彼の声だけを何度も繰り返し聞いた。

そして泣いた。

週が明け、ボロボロの姿で出社した。

仕事なんてまともにできなかった。

だがこの数年有給消化しない受けにすぐ上長は休みを言い渡した。

遅い夏季休暇が突然やってきた。

引き継ぎ資料を作り会社を出たのは8時過ぎになっていた。

声をかけられた。

攻めだった。

体が震えて逃げようと走り出すより先に捕まった。

「話をしよう!」

「話すことはない。奥さんのところに帰れ」

感情のこもらない声だと自分でもわかった。

「やっぱりそこか」と攻めはつぶやき、強引にタクシーに押し込んだ。

到着したのは攻めの家。

リビングで戸籍謄本を渡された。

「結婚はしてた。でも離婚した」

戸籍謄本にも離婚と書かれていた、そしてその日付に目が行った。

「お前に似てたから付き合って、結婚した。でもお前じゃないんだって実感することのほうが多くて……」

ギクシャクしてたら浮気をされた。

原因は攻めにもあったから謝ったがしばらく別居していた。

けれど受けと再会して好きな気持ちが明確化して別れることを決意した。

離婚した日は攻めが告白してくれた日だった。

「我慢できなかった、どうしても受けを離したくなかった……だから嫌われるかもしれないから結婚のことは隠してた、ごめん」

妻に対して酷いことをしたのに、それが嬉しいと感じてしまった受けも同罪だ。

泣きすぎたひどい顔で受けは「好きだから結婚してるなら許せなかった」と告げた。

「許せないのに好きな気持ちが消えなかった」と続けるとすぐに抱きしめられた。

「お前から気持ちを聞くのは初めてだ」

付き合っていても受けは気持ちを伝えては来なかった。

「高校のときからから好きだった」

すぐにキスされて服を脱がされた。

「ばかッ!そんなこと聞いたら抑え聞かないぞ!明日会社行けなくても文句言うなよ」

「明日から夏期休暇だ」

もうクリスマスツリーが飾られる季節だが、攻めはまた「ばかッ」と言って受けを抱いた。

初めて体を繋げた受けは、痛みよりも嬉しさで泣き続けた。

本当に次の日ひどいことになった。

建てないどころか体を起こすことすらできなかった。

体調不良と勝手に休んだ攻めが甲斐甲斐しく世話をしてくれた。

嬉しさと恥ずかしさとでいたたまれなかった。

随分と遠回りして叶った初恋に心が追いつかなかったが幸せだと感じた。



おしまい
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