ツイノベ置き場

椎名サクラ

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【オメガバース】不幸すぎるオメガの話

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オメガには幼馴染がいた。

密かに好きだった。

バース診断の結果でオメガだと知って期待した、幼馴染がアルファなら番にしてもらえるかもと。

けれど幼馴染はベータだった。

気落ちした、そしてオメガだということを隠した。

必死にベータのふりをした、幼馴染は気づきもしない。

発情抑制剤を服用して高校、大学と幼馴染と同じところを受けた。

けれど社会に出るとき、どんなに頑張っても幼馴染と同じ会社に入れなかった。

オメガはどんなに努力しても内定は貰えなかった。

世の中どんなに平等だと口では言っても差別は残っていた。

派遣登録もさせてもらえずバイトも雇って貰えなくて、オメガは悲しくてはじめて自分がオメガだということを呪った。

どんどんと幼馴染との間に距離はでき、会うこともなくなった。

そんなオメガに仕事が舞い込んだ。

ある企業の社長秘書だという。

内容も聞かずにオメガは飛びついた。

まともに働けるのが嬉しかった、ようやく幼馴染と同じステージに立てた気がした。

けれど秘書は表向き、実際は取引先の玩具になるのが仕事だった。

契約書にもそう書かれていた。

空っぽの心がポロポロと壊れていこうとしていた。

ある日専務に連れて行かれた料亭で、随分と若い実業家がいた。

今日はその人の相手をするよう言われた。

一目でアルファだとわかった。

大事な取引先だから粗相はするなときつく言われた。

心が枯れたオメガは体を差し出した。

けれど、アルファは抱こうとはしなかった、むしろ逃げるように言った。

「自分を粗末にするんじゃない」

「……俺が就けたのこの仕事だけなんです」

口にすると心に影が落ちた。

もうその頃には幼馴染のことを思い出すこともなかった。

なぜ自分がここにいるのすらわからなくなった。

「抱いてくれないと、会社を首になってしまいます」

オメガは服を脱ぎアルファに跨った。

自分から腰を振った。

今までにないくらい気持ちよくて、途中から抗えなくなったアルファに抱かれてよがり狂った。

けれど心は空っぽのままだった。

それから数日後、会社が倒産した。

オメガは呆然とした。

「お前がちゃんと接待しなかったからだ!」

専務はオメガを殴った。

それを止めてくれたのはあのアルファだった。

「違うでしょう、そういう接待自体が違法だと分かっていてやったのは貴方だ」

アルファはボロボロになったオメガを自宅に連れ帰った。

自分が告発したからオメガの会社は一斉検挙され営業停止になり倒産した責任のつもりだったが、手当の途中で発情したオメガに、オメガ対策の薬を服用したにも関わらず、ラット状態になり抱いて項を噛んでしまう。

正気に戻って何度も謝るが番を解消することはできない。

仕方なく一緒に住むのだが甲斐甲斐しく世話を焼くアルファに申し訳無さが募る。

そんな中、幼馴染の結婚式の招待状が実家経由で届いた。

儚い恋心が芽生え、だが目の前にはアルファがいる。

どうしたらいいかと悩んでいると、アルファが服を整えてくれた。

「祝い事なんだから行けばいい」

優しく言ってくれたアルファに従って結婚式に参加した。

幼馴染は喜んでくれ二次会のあと話があると言ってきた。

学生時代の友人たちにも会って、幸せそうな幼馴染の姿を見て、寂しさよりも純粋に喜ぶ自分がいるのに気づいた。

この恋は終わってたんだと知った。

2次会の後幼馴染みに着いていった先は古いビルだった。

中には人相の悪い男がたくさんいた。

「俺、ギャンブルにハマって借金あるんだよ、ここの人に。お前、俺のことが好きだろう、ならちょっとだけ俺のためにこの人たちの言う事聞いてくれよ」

それだけ言って幼馴染は逃げるように部屋から出た。

オメガは自分が幼馴染によって売られたのを知った。

絶望して落ち込む間もなかった。

すぐにオメガを買いたい人がいると連れて行かれた先は、大きな屋敷だった。

そこにはかつての会社の取引先の社長がいた。

「これで君は私のものだ」

オメガの体を気に入った社長の乱暴に必死で抵抗したなんどもアルファの名を呼んで、必死で抗った。

部屋に押し入って助けてくれたのはアルファだった。

助かったという事実よりアルファの顔を見てオメガは泣き出した。

もう何も信じられなくなった。

しばらく自宅で療養したほうがいいと帰されたが一歩も家から出たかなかった。

玄関が騒がしかった。

幼馴染の母親が乗り込んできて「お前のせいで息子が大変なことになった、オメガのくせに役に立とうって気がないのか」と大声で叫んだ。

近所の人が出てきて、色物を見るようにオメガを見た。

すぐに両親がアルファに連絡してくれまたアルファのマンションへと連れて行かれた。

自分は疫病神なんだと落ち込んで投げやりになるオメガはこのまま死んでしまおうと思った。

何もかもに疲れていた。

心残りがあるとすれば、アルファに傾きかけたこの心だけだが、いなくなったほうがアルファは幸せだろうと非常階段から下を見た。

目を閉じ、作を乗り越えようとするところをアルファに捕まった。

「何をしてるんだ!」

「何もかも嫌になりました、楽になりたい」

噛んでしまった義務で優しくしないでくれと言った。

「義務じゃない、義務で君のことを気にかけてるんじゃない!」

一目惚れだとアルファは言った。

だからオメガを助けたくて動いていたという。

番になったのは計画外だが、これから好きになってくれと訴えてきた。

「好きになっていいんですか?俺が好きになったから幼馴染は人生が狂ったのに」

「好きになってくれ、頼む。君の幼馴染は自業自得だ、自分でなんとかしなければならないことを君に押し付けようとしたんだから」

そうなのだろうか。

重荷ではないだろうか。

オメガは疲れた心に僅かな期待が芽生えるのを感じた。

アルファの胸に顔を寄せた。

まだこの気持ちに名前をつけることができない、それでもいいかと訊いた。

「それでもいい。少しずつ好きになってくれ」

いいのだろうか。

不安をまとったオメガの心をアルファはゆっくりと溶かしていった。体と一緒にそして二人は幸せに暮らしましたとさ。

幼馴染と専務と社長のその後は知らん、きっと不幸な未来があるはずだけど、オメガが知ることはなかった。



おしまい
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