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お稚児の話
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家が貧しくて、弟妹を助けるために金を借りている権力者の愛人になった受け。
男を喜ばす手ほどきはすべてその権力者から仕込まれ、月に数度抱かれてはその度に心が傷ついていく。
周囲も「稚児」と呼びいやらしい目で見てくるのでいつも身を縮こませて過ごしていた。
権力者には稚児よりも十歳上の息子がおり、帝都で学問を修めていた。
久方ぶりに田舎に帰った息子は時折権力者が家を空けるのを不審に思い後をつけ、ある古びた一軒家に入っていくのを確かめる。
しばらくして女とは違う啼き声が上がるのに驚き中を覗き見れば、権力者に辱められる稚児の姿があった。
慌てて家に戻り家に仕えるものに話を聞いた。
息子は、その日から稚児の艶姿が頭から離れない。
休暇の間、権力者が家を空けるたびに後を追い啼かされる稚児を見つめ続けた。
稚児になった経緯を知って憐れに思いながらも自分のものにしたいと欲が出る。
間もなく帝都に戻るある日、息子はその家を訪ねた。
ボロの服を纏い弟妹の世話をしている稚児の少し寂しそうな顔、無理矢理弟妹に笑いかける顔、全てが愛おしくなる。
だがまだ権力者に養われている存在である息子には何もできない。
息子にできたのは、夜中にふらりと家を出て月を眺めていた稚児を抱き「いつか助けてやる」と伝えることだった。
だが稚児は諦観しており、ただ首をゆるく振るだけ。
「貴方様が咎めを受けます、お放しください」と拒絶するのにカッとなり、無理矢理に抱いてしまう。
男を受け入れることに慣れた稚児から与えられる愉悦に溺れたまま、息子は帝都に戻り、学業に励む。
そして数年後、卒業し実家に戻った息子は、様々な事業を始め十年かけて力をつけ、権力者を無理矢理に隠居させた
息子は十二年ぶりに元稚児に会いに行った。
家は相変わらずボロで今にも倒れそうだが、弟妹は奉公に出たのかそこには大人になってなお細く、だが美しくなった稚児が一人でいた。
「貴方様が新たな主でございますか」
誰に躾けられたのか居住まいすら美しい稚児は深々と頭を下げた。
このままでは権力者と同じだと思った息子は必死で稚児を口説き始めた。
だが稚児は静かに首を振る。
「私など気にかけずお好きになさってくださいませ」とボロボロの着物を脱ぎ捨て身を投げ出してくる。
「これしか知らぬのです」。
体だけの繋がりを求めていたのではない息子も、稚児の巧みな性技に勝てずその体にのめり込む。
儚く今にも消えてしまいそうな稚児の姿にこのままではいけないと帝都へと連れて行き仕事をさせた。
息子が手がける事業の一つの雇い人として給金も支払った。
初めての労働に稚児も少しずつ心が変わっていく。
そしてあれ以来一度も寝所に呼ばずただ慈しんでこちらを見つめる息子の姿が日々鮮明に脳に映し出されるようになった。
今までは世界が霞んで見えていた稚児は驚いた。
権力者によってズタズタに傷つけられた心がゆっくりとかさぶたを纏い治っていくようだった。
だが息子が向けてくる眼差しは心地よくもあり恐ろしくもあった。
優しさなど弟妹以外から向けられたことのない稚児に、息子の感情は未知で理解のできないものだからだ。
物のように扱われるのに慣れた心は、慈しみの目を向けてくる息子にどうすればいいかわからない。
一時の戯れならばいっその事この身を弄ばれたほうが良いとすら思ってしまう。
雑用をこなしては息子に大切にされ戸惑う日々を過ごす稚児だが、ある日使いで出かけた帰りに権力者に捕まる。
「何をしている、お前はわしのものじゃろ」
無理矢理に連れ戻される稚児、抗うことなど思いつきもしないまま、また権力者に抱かれるだけの日々に戻される。
癒えた心は再び傷を増やしていき、慣れた権力者との交わりなのに、心では息子を思い浮かべて体を熱くする。
いつになく狂ったように悦ぶ稚児に権力者は「やはりこれが好きなのだろう」と犯し続ける。
だがそれも長くはなかった。
すぐに屋敷に息子が乗り込み、「この子を慰みに使わせない」と助けてくれた。
権力者は己に抱かれて悦ぶ稚児こそ我のものと吠え続けたがどこかへと連れて行かれる。
寝所に残された稚児は息子の腕から逃げようとするも、悦びの名残で動けるはずもなく蹲った。
「私など捨て置いてください。貴方様ならばと考え狂うこの卑しい身など」
「お前は卑しくなどない。あやつの息子であるのに好いてくれたのだろう。覚えているか、昔お前をいつか助けると誓った男のことを。もうお前は体を売るなどしなくていい」
初めてあの時の若者が息子だと知った稚児は一層体を丸めた。
「この身は卑しいのです、どうか捨て置きくださいませ」
素性も知らぬ男に抱かれても悦ぶ体を恥じる稚児に息子は着物を掛け抱きしめた。
「何を言っている、父の慰めに使われた時のお前はひどく悲しげだった、救いたいと思った。それが私でいいだろうか」
「もう助けていただいております」
「いつかでいい、私を慕ってくれるのを待っても良いか」
「もうお慕いしております」
気づかぬ間に稚児は優しく慈しんでくれる息子を欲している自分に気づいた。
「なら一層お前を手放せるはずがない」
息子は稚児を抱え己の屋敷に戻る。
綺麗に洗われた稚児は初めて男の寝所を訪れた。
息子は稚児を褥に招き入れるとただ抱きしめた。
「もう眠れ、明日も仕事だ」
二人横たわるだけ。
だが稚児は気づいていた、息子の下肢が滾っていることに。
慰めようと伸ばす手を遮り息子はきつく抱いてくる。
「それは気にするな」
慈しまれているのがくすぐったく身の置き場がないと同時に、初めて稚児は欲しいと思った。
今まで奪われるばかりの心が息子を欲して熱くなる。
はしたない己を隠すように身を捩っても逞しい腕に包まれていると体までもが熱くなる。
数刻前まで権力者に弄ばれていた場所が疼き出す稚児は、熱い吐息を漏らした。
さすがにこれには息子もじっとしていられない「どうしたのだ、これが嫌か」
「違います、はしたない私を見ないでくださいませ」
丸まろうとする稚児の肌が薄暗い部屋でもわかるほど赤くなっているのに気づいた息子は、たまらず顕わになった首筋に口づけた。
それだけで稚児から甘い吐息が漏れる。
「私を欲しているのか」
「申し訳ございません、申し訳ございません」
褥で体を丸める稚児に息子は優しく撫でていく。
浴衣の上からでも先程より熱くなっているのがわかる。
「何を謝る、私は嬉しいばかりだ。今宵はお前を怖がらせないようにと思ったが、耐えられそうもない」
息子は稚児をただただ慈しんでいく。
道具のように欲望をぶつけられることに慣れた稚児は初めての優しさに悶え、今まで感じたこともないほどの悦びに狂い続けた。
息子もそんな稚児に溺れ一層慈しみを強くしていくのだった。
************
こちらの話は同人誌「泥濘に愛を沈めて」となっております。
興味がありましたらTwitter及びホームページをご参照ください。
男を喜ばす手ほどきはすべてその権力者から仕込まれ、月に数度抱かれてはその度に心が傷ついていく。
周囲も「稚児」と呼びいやらしい目で見てくるのでいつも身を縮こませて過ごしていた。
権力者には稚児よりも十歳上の息子がおり、帝都で学問を修めていた。
久方ぶりに田舎に帰った息子は時折権力者が家を空けるのを不審に思い後をつけ、ある古びた一軒家に入っていくのを確かめる。
しばらくして女とは違う啼き声が上がるのに驚き中を覗き見れば、権力者に辱められる稚児の姿があった。
慌てて家に戻り家に仕えるものに話を聞いた。
息子は、その日から稚児の艶姿が頭から離れない。
休暇の間、権力者が家を空けるたびに後を追い啼かされる稚児を見つめ続けた。
稚児になった経緯を知って憐れに思いながらも自分のものにしたいと欲が出る。
間もなく帝都に戻るある日、息子はその家を訪ねた。
ボロの服を纏い弟妹の世話をしている稚児の少し寂しそうな顔、無理矢理弟妹に笑いかける顔、全てが愛おしくなる。
だがまだ権力者に養われている存在である息子には何もできない。
息子にできたのは、夜中にふらりと家を出て月を眺めていた稚児を抱き「いつか助けてやる」と伝えることだった。
だが稚児は諦観しており、ただ首をゆるく振るだけ。
「貴方様が咎めを受けます、お放しください」と拒絶するのにカッとなり、無理矢理に抱いてしまう。
男を受け入れることに慣れた稚児から与えられる愉悦に溺れたまま、息子は帝都に戻り、学業に励む。
そして数年後、卒業し実家に戻った息子は、様々な事業を始め十年かけて力をつけ、権力者を無理矢理に隠居させた
息子は十二年ぶりに元稚児に会いに行った。
家は相変わらずボロで今にも倒れそうだが、弟妹は奉公に出たのかそこには大人になってなお細く、だが美しくなった稚児が一人でいた。
「貴方様が新たな主でございますか」
誰に躾けられたのか居住まいすら美しい稚児は深々と頭を下げた。
このままでは権力者と同じだと思った息子は必死で稚児を口説き始めた。
だが稚児は静かに首を振る。
「私など気にかけずお好きになさってくださいませ」とボロボロの着物を脱ぎ捨て身を投げ出してくる。
「これしか知らぬのです」。
体だけの繋がりを求めていたのではない息子も、稚児の巧みな性技に勝てずその体にのめり込む。
儚く今にも消えてしまいそうな稚児の姿にこのままではいけないと帝都へと連れて行き仕事をさせた。
息子が手がける事業の一つの雇い人として給金も支払った。
初めての労働に稚児も少しずつ心が変わっていく。
そしてあれ以来一度も寝所に呼ばずただ慈しんでこちらを見つめる息子の姿が日々鮮明に脳に映し出されるようになった。
今までは世界が霞んで見えていた稚児は驚いた。
権力者によってズタズタに傷つけられた心がゆっくりとかさぶたを纏い治っていくようだった。
だが息子が向けてくる眼差しは心地よくもあり恐ろしくもあった。
優しさなど弟妹以外から向けられたことのない稚児に、息子の感情は未知で理解のできないものだからだ。
物のように扱われるのに慣れた心は、慈しみの目を向けてくる息子にどうすればいいかわからない。
一時の戯れならばいっその事この身を弄ばれたほうが良いとすら思ってしまう。
雑用をこなしては息子に大切にされ戸惑う日々を過ごす稚児だが、ある日使いで出かけた帰りに権力者に捕まる。
「何をしている、お前はわしのものじゃろ」
無理矢理に連れ戻される稚児、抗うことなど思いつきもしないまま、また権力者に抱かれるだけの日々に戻される。
癒えた心は再び傷を増やしていき、慣れた権力者との交わりなのに、心では息子を思い浮かべて体を熱くする。
いつになく狂ったように悦ぶ稚児に権力者は「やはりこれが好きなのだろう」と犯し続ける。
だがそれも長くはなかった。
すぐに屋敷に息子が乗り込み、「この子を慰みに使わせない」と助けてくれた。
権力者は己に抱かれて悦ぶ稚児こそ我のものと吠え続けたがどこかへと連れて行かれる。
寝所に残された稚児は息子の腕から逃げようとするも、悦びの名残で動けるはずもなく蹲った。
「私など捨て置いてください。貴方様ならばと考え狂うこの卑しい身など」
「お前は卑しくなどない。あやつの息子であるのに好いてくれたのだろう。覚えているか、昔お前をいつか助けると誓った男のことを。もうお前は体を売るなどしなくていい」
初めてあの時の若者が息子だと知った稚児は一層体を丸めた。
「この身は卑しいのです、どうか捨て置きくださいませ」
素性も知らぬ男に抱かれても悦ぶ体を恥じる稚児に息子は着物を掛け抱きしめた。
「何を言っている、父の慰めに使われた時のお前はひどく悲しげだった、救いたいと思った。それが私でいいだろうか」
「もう助けていただいております」
「いつかでいい、私を慕ってくれるのを待っても良いか」
「もうお慕いしております」
気づかぬ間に稚児は優しく慈しんでくれる息子を欲している自分に気づいた。
「なら一層お前を手放せるはずがない」
息子は稚児を抱え己の屋敷に戻る。
綺麗に洗われた稚児は初めて男の寝所を訪れた。
息子は稚児を褥に招き入れるとただ抱きしめた。
「もう眠れ、明日も仕事だ」
二人横たわるだけ。
だが稚児は気づいていた、息子の下肢が滾っていることに。
慰めようと伸ばす手を遮り息子はきつく抱いてくる。
「それは気にするな」
慈しまれているのがくすぐったく身の置き場がないと同時に、初めて稚児は欲しいと思った。
今まで奪われるばかりの心が息子を欲して熱くなる。
はしたない己を隠すように身を捩っても逞しい腕に包まれていると体までもが熱くなる。
数刻前まで権力者に弄ばれていた場所が疼き出す稚児は、熱い吐息を漏らした。
さすがにこれには息子もじっとしていられない「どうしたのだ、これが嫌か」
「違います、はしたない私を見ないでくださいませ」
丸まろうとする稚児の肌が薄暗い部屋でもわかるほど赤くなっているのに気づいた息子は、たまらず顕わになった首筋に口づけた。
それだけで稚児から甘い吐息が漏れる。
「私を欲しているのか」
「申し訳ございません、申し訳ございません」
褥で体を丸める稚児に息子は優しく撫でていく。
浴衣の上からでも先程より熱くなっているのがわかる。
「何を謝る、私は嬉しいばかりだ。今宵はお前を怖がらせないようにと思ったが、耐えられそうもない」
息子は稚児をただただ慈しんでいく。
道具のように欲望をぶつけられることに慣れた稚児は初めての優しさに悶え、今まで感じたこともないほどの悦びに狂い続けた。
息子もそんな稚児に溺れ一層慈しみを強くしていくのだった。
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