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 今だって濡れた下着を片足首に纏いながら、太ももは桐生の頭を挟み意味をなさない声を漏らしている。

 気持ちいい場所を舌が擦るたびに強く締め付け、もっととねだってしまう。そして桐生のあの指が最奥の蕾にかかる瞬間を待っている。玄はもうそこを弄られながらでなければ満たされない身体に変えられてしまった、桐生の指と欲望によって。

 中を擦られて得られる快楽の深さに、何度抗い続けても敗北を喫し自ら求めてしまうようになる。ベッドの上では抗うことも拒絶することもできないまま、受け入れて悦ぶしかなかった。

「はや……くっ」

「もう達きたい? それとも中をいっぱい擦って達きたい?」

「ぁぁっ……なかっ!」

「今、玄の好きなことをするから、少し待っているんだ」

 なんのために、なんて分かり切っている。

 桐生は玄が傷つかないようにたっぷりとローションをその指にまぶしているのだ。

「んっ……き、りゅ……」

「あつしげ、だ。私の名前を呼んで、玄」

 そうしないと気持ちいいことをしないと入り口をくすぐる指は入る気配を見せない。

 玄は自分から少しだけ腰を持ち上げ、刺激を求めている蕾をその眼前に晒しながら乾いた唇を舐めた。

「ぁ……っしげ……」

 早くそこをぐちゃぐちゃにしろと急かすように足を広げる。

「今すぐ玄の欲しいものをあげるから、ね」

 ゆっくりとローションの滑りを借りて指が入ってくる。

「ぁぁっ」

 それだけで玄は嬉しそうに身体を強張らせた。

 いつからか慣らされてしまった快楽に、期待した身体がもっと奥へと導こうと内壁を収縮させる。

「こら、そんなに締め付けたら動けないよ。もっと奥だろう、玄が好きな場所は」

 分かっている。でもこうなってしまったらもう自分の意志でどうこうできない。脳からの信号を拒否するだけではなく、脳自体が正常な判断を失い、ただただ快楽を求めるだけになってしまう。オメガだからか、それとも元から快楽に弱いのか判らないまま、ただただ溺れるしかない。

「すぐに気持ちよくしてあげるから、もっと足を開いて」

 言われるがままに期待を込めて大きく開けば、玄の身体をよく知っている指がもっとも感じる場所をくすぐってきた。

「ひぃっ!」

 ズンッと最近まで知らなかった痺れが身体を貫いていく。怖かったはずなのに、未知の感覚に囚われることに怯えていたはずなのに、今はもっとと腰を差し出してしまう。もっとぐちゃぐちゃにして、もっと気持ちいいことをしてとばかりに自分から指がいい場所に当たるように蠢いてしまう。

「ぁぁぁっ、そこぉ!」

「分かっているよ。いっぱいするから可愛い声を聴かせてくれ」

 軽くくすぐるだけだった指が大胆に動きはじめ、玄の蕾を二本の指で解していく。

「ゃぁぁぁぁ!」

 淫らな声が抑えられない。玄は髪を振り乱しながらシーツを掴み、押し寄せてくる快楽に流されないよう耐えるしかない。感じて乱れる玄を、桐生はとても愛おしそうに見つめては指の動きを激しくし、数を増やしてそこを広げていく。次の段階への準備のために。

 アルファなのに……アルファだったのに、同じアルファの男を受け入れて悦んでしまう自分を頑なに認めたくないのに、それでも指とは違う太くて熱い欲望に貫かれるのに期待してしまう。こんなのは駄目だと何度も脳に信号を送り続けているのに、グチュグチュと濡れた音が立ち始めれば、意味をなさない言葉の合間からもっとと自分からねだってしまう。

 認めるしかなかった。

 桐生とするこの行為に溺れていると。

 結婚してもセックスなんてしなくてもいいと思春期から思っていたはずなのに、こんな淫猥な行為などなくても子供ができるんだから無駄だと言い捨てていたはずなのに、妊娠してから募った性欲を桐生の欲望で満たして貰わなければ満足できなくなっている。

 玄の中を暴れまわった指が抜かれ、横臥のまま片足だけが桐生の肩に持ち上げられる。

「玄が一番好きなものを挿れるよ、いいね」

「は…ゃ……くっ!」

「いっぱいあげる、玄が好きなだけ……」

 桐生がその厚い唇を舐めながら腰を押し付けてくる。

「ぃっ……ぁぁぁぁぁぁあっ」

 指とは違う確かな熱が、玄の身体を満たしていく。太い先端が中をいっぱいに押し広げながら玄のもっとも感じる場所を擦り上げられるともう駄目だ。もっと激しくしてほしい、もっと沢山擦って欲しいとしか考えられなくなる。

 玄は潤んだ瞳で桐生を見つめた。僅かに開いた唇は熱い吐息を漏らすので精いっぱいで、意味を成す言葉を紡ぐことができない。だが桐生はそれだけで玄の気持ちを汲み取っていく。とても愛おしそうに微笑みかけてくると、容赦なく腰を動かし始めた。

「ひぁぁぁぁぁっ、ぁぁっ」

 力強い動きで絶え間なく刺激され、玄はもう目を開いていられず、きつくきつくシーツを握りしめながらひたすら悦びの音楽を奏でていく。背筋を何度も走り抜ける痺れに身体の中心が熱くなり、分身からはタラタラと透明な蜜が垂れていく。限界はすぐそこまで来ていた。

「も……ぃくっ」

「好きなだけ達けばいい……玄がなにも出せなくなるまでするから……」

 この絶倫がっと罵る言葉すら出ない。ただただ喘ぐばかりで、まるで了承を告げるかのように桐生の欲望を締め付けてしまう。

 短いスパンでもっとも感じる場所を擦られ続け、ついに堪えられなくなった玄は中の刺激だけで遂情した。

「ぁぁぁ……んんっ」

 きつく桐生の欲望を締め付けながらシーツに蜜を飛ばしていく。達ってしまえばしばらくは動けない。熱い呼吸を短く繰り返し、肺に酸素を送り込み、ゆっくりと強張った身体を弛緩させた。

 ずるりと欲望が抜き取られる。

「ぁ…………」

 どうしてだろう、名残惜しそうな声が漏れてしまう。まだその熱を中で味わっていたかったのか、それとももっと突いて欲しかったのか。分からないけれど、玄は快楽で蕩けた視線を向けた。

(あぁそうか……)

 桐生が慣れた手つきで欲望にコンドームを装着していく。同時に、残った着衣を脱ぎ捨て玄を後ろから抱きしめた。もう大きくなったお腹があるから、ベッドではいつもこうして抱き着いてくる。大きな掌が胸からゆっくりと腹部にかけて撫でていき、膨らみはとても慎重に、そして愛おしそうに触れてくる。

「んっ……」

 熱が伝わったのか、今まで大人しかった胎児が元気に動き始め胎動が伝わってくる。

「私と玄の子はとても元気だ」

 嬉しそうに耳元に囁きかけ、またずるりと欲望が挿ってきた。

「ゃぁぁっ」

 達ったばかりの内壁を長大な熱で犯されて、敏感な身体はまた嬉しそうに蠢き始める。まだ情欲の時間は終わりではないのだとばかりに大胆に腰を使い始める。

「ぁぁ……ぃっ!」

 肉のぶつかる音が響き渡り、淫らな声とともに部屋いっぱいに広がっていく。

「げんっ、きもちいいっ?」

「んっぁぁ……ぁぁっぃぃ! もっとぉ!」

「私のすべてを玄に注ぎ込むから……だから……私のことも好きになってくれっ」

 熱い囁きは、懇願であり、祈りでもあるようだ。

 愛がなにかわからないから玄は必死で考えようとするけれど、押し寄せる愉悦の波にすぐに霧散してしまう。ただただ刺激が欲しくて欲しくてたまらない。玄はシーツを握りしめた手を離し、桐生の腕を掴む。背後にいる彼に、自分の気持ちを伝えるため爪を立てた。

「分かってる、玄。これだけじゃたりないんだろっ」

「ゃぁぁぁぁぁぁっ」

「こうして少し乱暴にされたいんだ……分かってる」

 言わなくても理解してくれる。嬉しいのかどうかわからないが、身体は悦びに震えまた分身にたっぷりと蜜を溜め始める。同時に、発情してから射精を伴わない絶頂を何度も繰り返す。容赦ない突き上げに玄は翻弄されながら、ただただ悦びに啼くしかなかった。何度も体位を変えコンドームを換え、蹂躙してくる熱に浮かされながら、身体が満たされ、何もでなくなるまで犯され続けた。

 ぐったりとベッドに沈む玄の頬に、桐生はとても愛おしそうに優しく撫で口づける。

 そしてベッドから降りていく気配に、玄の意識はゆっくりゆっくりと深く心地よい海へと沈んでいこうとする。

 肌を温かいタオルで擦られる感触に少しだけ意識が浮上し、夢現の中で快楽で汚れた身体が清められているのだと認識する。丁寧に拭われる肌。それが終わると桐生はその大きな掌を玄の腹部へと当てた。

 胎動を感じようとしているのだろうか。

 ちゅっ。

 わざと音を立てて膨らみにキスをした桐生は、とても優しい声で囁いた。

「パパとママはちゃんと愛し合っている。大丈夫。だから元気に生まれてきなさい」

 何度も呪文のように胎児に言い聞かせる言葉が、ゆっくりと玄の心にも染み込んでいくのを感じながら、意識が再び心地よい眠りの底へと沈んでいった。
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