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 朦朧とした意識の中で、玄は何度目かわからない絶頂を味わいながら、背後から桐生に犯されていた。

 なぜこんなことになったのか……。

 自分に問いかけても答えは出ない。まさかこの男が自分に邪な感情を抱いていたなど、この20年気付きもしなかった。ただ親しかった中高生時代の先輩と後輩、そう思っていた。

 まさか、初めて呑んだその夜にこれほどまでに犯されるなんて……。

 何度も何度も果てた分身は力をなくし、蜜を零しながら腰を打ち付けられるたびに揺れるだけで、反して桐生の欲望は固いまま最奥を嬲り続けている。もうそれが動くたびに濡れた音が部屋いっぱいに響くほどの精液を裡に受け止めた玄は、力なく男のなすがままになっていた。前立腺を何度も擦られ、男に犯されているというのに悦ぶ身体が憎らしい。今だってもう感じすぎておかしくなっているのに、またそこを擦られながら深い場所を突かれれば、母音ばかりの声を上げてしまう。

 玄が逃げないよう、繋がったまま膝立ちにさせ、後ろから両腕を掴んで犯す桐生は、呪文のように何度も何度も「孕め」と囁きかける。

「ぃゃ……ぁぁぁっもだめぇぇ」

 まただ。また遂情しないまま絶頂がやってくる。これがさっきから繰り返されている。

 欲望を咥えたまま身体が跳ね、下肢が痙攣する。

 セックスは……感じるというのはこういうことなのだろうか。

 生まれてからずっと、己の右手しか知らない玄はあまりにも激しすぎる快感に、理性を保つことができなかった。他人の手と舌で分身を刺激されるのも、中を刺激されながら扱かれるのも、すべて初めてでただただ翻弄されるしかなかった。

 最奥にまた、熱い迸りを感じる。

 桐生も達ったのか……。

 朦朧とした意識でその熱を感じながら、玄は自分がどうなってしまったのかという漠然とした不安を感じた。何度も何度もアルファのオーラが自分を包んでいるのを感じていたのに、いつからかそれを感じなくなっているのだ。

 アルファは相手のオーラに敏感だ。相手は放てばすぐにわかるはずなのに、今は全くと言っていいほど分からなくなっている。代わりにどうしようもなく犯されるのが心地いい。口には出さないがもっと犯して欲しいと願ってしまう。

 なぜだ。

 まとまりのない頭で理由を考えても、またすぐに桐生が動けばもう快楽を得ることしか考えられなくなる。

 腕が解放され、玄はそのまま上質なマットレスに倒れ込んだ。つるりと欲望が抜けていく。

「ぁ…………」

 何度も何度も放たれた桐生の精液が、たらりと流れ下肢を濡らすのを感じる。

「玄………玄っ!」

 後ろから桐生が抱きしめてくる。同じアルファなのに、自分よりもずっと逞しい腕が汗に濡れた身体を本当に愛おしそうに抱きしめる。繋がっている間は狂うほどの激しさをぶつけてきたのに。

「愛してる……愛しているんだ…」

 首筋に、うなじにキスを落としていく。そして……。

「ぃっ!」

 うなじに強い痛みを感じた。

「これで玄は私の番だ」

 何を言っているのだ。アルファがアルファを噛んだところで番になるはずがない。真似事か。

 だがもう快楽に溺れ切った玄は何も言えず、ただただ熱い吐息を吐き出すので精いっぱいだ。胸を激しく上下させ、体内の熱と愉悦を逃がす。

 桐生は噛みついた跡に舌を這わせると、玄の身体を仰向けに転がし、また足を大きく開かせた。

(まだ……やるんだ…)

 もう無理なのに、どうしてだろう身体が悦んでいる。またあの激しい快楽を味わえると。

 抵抗もないまま桐生の欲望が挿ってきた。

「私のは気持ちいいかい、玄? あぁ……嬉しそうに飲みこんでいるね。今一杯あげるよ」

「ぁっ……ぁぁぁ」

 激しく揺すられ、何度も何度も感じる場所を擦りながら最奥を突かれる。

 きもち……いい。

 セックスなんて一生しないと思っていた。

 そんな野蛮で淫猥なことをしなくても、吐き出した精子を病院に持っていき、戸籍上の妻の卵子とともに専門家に預ければいいと思っていた。だから玄は自分から積極的に恋愛をすることもなければ、性行為をしようとも思わなかった。それが酷く野蛮なことに思えて、激しく嫌悪までしていた。

 そんな玄を理解し割り切った相手をそのうち母親が見繕ってくると信じていた。

 なのに。

 今はどこまでも激しく襲い掛かる愉悦の波に飲みこまれ溺れて深い場所まで沈んでいっている。抜け出そうと藻掻けば藻掻くほど水面から遠ざかっていく。深い深い、底のない海に沈み込んでいく。

「ぁぁぁぁっ」

「乳首を弄りながらは気持ちいいようだね」

「……ぃぃ……も、とぉ」

「っ! 淫らになった玄は本当に罪深い…」

 尖った胸の飾りを爪弾かれ、勝手に上体が跳ねる。

「ゃぁぁ、ぃぃ!」

「……くそっ!」

 桐生が胸の飾りに齧り付き歯列で刺激しながら中を激しく突いてくる。

「ぁぁぁぁぁ、も……またぃくぅ」

 玄は胸と中との刺激でまたあっという間に絶頂を迎え、そしてそのまま意識を飛ばした。

 ふわふわと心地よい眠りで、今までにないほど深い。

 真夜中に意識を飛ばした玄が再び目を覚ましたのはもう日も高くなってからだった。カーテンを開け放った窓からは夏の暑い日差しが降り注いでいる。

「ん……今何時だ」

 ベッドの枕元にいつも置いてある目覚まし時計を探して手を動かすが、どこにもない。代わりに、耳元に聞きなれない声が降り注ぐ。

「10時過ぎたが、まだ寝ていていい。昨夜は遅かったから」

 遅い……なにが?

 まだはっきりとしない意識で考える。声の主が顔を寄せて玄の頬にキスをする。

「え? なっなんだ! ……ぃたっ!」

 慌てて起き上がろうとして、下肢の奥からありえない鈍痛に、僅かに浮いた上半身がまたベッドに戻る。

「少しやりすぎたか……申し訳ない。だが上手くいったみたいだ」

「なにがだっ!」

 バッと押し寄せるように昨夜の記憶が蘇る。

 ここは菅原家にある自分の自室ではなく、桐生に連れ込まれたホテルの一室のベッドの上だ。しかも恥ずかしくて人には言えないようなことを気を失うまでしたのだ。いくら酔っていたとはいえ、何度も何度も桐生の欲望を咥え込んで悦がった自分がいる。

 恥ずかしいと思うよりも愕然とした。

 アルファの自分が……完璧なアルファを目指していた自分が、同じアルファの、男に犯されるなんて。

 信じたくないし、認めたくない。

 しかも相手はあの桐生だ。

「おはよう、玄。あぁ……甘い匂いがする」

 桐生が玄の首筋に鼻を寄せ何かをたっぷりと吸い込む。

「アルファを誘うフェロモンの匂いだ……」

 ぺろりと舐められる。

「んっ!」

 たったそれだけなのに、桐生に触れられただけで何度も彼を受け入れていた最奥が疼き始めた。

 キスをしながら何度も何度も舐められ、頭の中が身体が、段々と犯されたがりはじめる。

 早く桐生の逞しい熱で狂うほどにそこを突いて、中にいっぱい精液を吐き出して欲しい。

「な……なんでっ!」

 おかしい。自分が犯されたがっているなんて……しかも桐生のあの逞しいもので何度も何度も犯して欲しいと願うなんて。どうかしている、初めて他人から与えられる快感を知って、癖になってしまったのだろうか。

「オメガは発情すると、眠っている時以外はしたがると聞いたが、本当かどうか確かめようか、玄」

「何を言っているんですか……オメガなんていないでしょう」

 桐生はプレイの一環で発情しているオメガをここに寄越そうとしているのか。どんな変態プレイを指せようというのかとねめつけるために身体を返そうとした玄の唇に、桐生の厚いそれが重なる。

 僅かに開いた隙間から桐生の舌が潜り込み、玄の舌に絡みついてくる。

 気持ちいい……。唇同士が重なり、舌を擦り合わせるのがこんなにも気持ちいいと知らなかった。もっと欲しいとばかりに自分からも舌を伸ばす。

 角度を変え、どんどんと深くしていく。

「ぁ……んん」

 唇を合わさったまま自然と甘い声が零れる。

 キスをしながら、桐生の指が何度も犯された蕾の中へと潜り込む。

「ぁぁっ!」

「潤滑剤とは違うもので濡れている……ビッチングされたらすぐに発情期になるんだな」

「……な、に? ぁぁぁぁ!」

 桐生が嬉しそうに快楽で歪む玄の顔を見つめながら、中を掻き回していく。

「ビッチングが何かわかっているだろう玄」

 それは性的に支配されたアルファが後天的にオメガになる、滅多にない現象だ。自分よりも強いアルファに犯されると稀にそういう現象が起きると言われているが、まさかそれが自分に起きたというのか。

「ぅそ……だ」

「嘘じゃない。私を誘うフェロモンを撒き散らしていているのは紛れもない玄、君だ」

「ちがっ!」

「認めないというのなら、身体から教えよう」

 桐生は玄の手を掴み、蕾へと導く。

「分かるだろ、玄。ここがびしょびしょに濡れているのは……オメガの愛液だ。私を欲しがってこんなに濡らしている」

「ちがう!」

「違わない……今欲しいものを挿れるよ」

「ゃぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」

 ずるりと挿ってきた桐生の欲望に、衝撃を受けながらも悦び咥え込む自分の身体がそこにあった。

「私のためにオメガになってくれたんだね、玄。嬉しいよ……君の一生は私のものだ」

 狂ったように、桐生が何度も何度も玄の身体に精液を吐き出していく。そして玄は……それに震えながら悦ぶのだった。
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