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番外編
世界で一番君が好き6
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先程まで打ち込んでいたコマンドが頭の中に浮き上がり、あれが正しかったのかもう一度脳内で確認をしていく。
(大丈夫、クライアントが求めてる動きをしてくれる)
実装したときの動きまで計算して過不足がないかも組み込んで自分でゴーサインを出す。
機械的に箸だけを動かし、食べ慣れたさっぱり味のご飯を口に運んでいく。
あまりにも口に馴染みすぎてもぐもぐと咀嚼して思考が遠くにいってしまう。
その間に手の動きが止まってしまったことにも気付かなくなる。遥人の狙いがそうだとも知らずに。
(待てよ、やっぱりあそこは別のコマンドを置いて動きを加速させた方が……でもそうしたら他の場所でバグを起こす可能性が出るから……やっぱり一番最初に組み立てた内容が一番いいか……)
箸の先が唇に当たると自動的に口を開き、入ってきたものを咀嚼していく。あれやこれやと本当に確信が持てるまで頭の中を仕事モードだけにして確信が持てた時、隆則は顔を上げ、口の中にあるものを吹き出す勢いで驚いた。
目の前に遥人がいて、ごま豆腐を摘まんだ箸が近づいてきている。反射的に口が開き、香ばしい豆腐が舌に乗った。
「なっ……なんで!? 奏人くんは?」
近頃、隆則の給仕に嵌まっている遥人は、甲斐甲斐しく隆則の食事の世話までしてくれるようになり、今みたいに動かなくなるとこうして口まで食事を運ぶのが当たり前になっていた。
何度か拒んだし抗議もしたが、どうしてもぼんやりとしてしまう間に食事を運ばれ、介護して貰っているような気持ちになる。
「隆則さんが動かなくなったので」
にこやかに笑ってまた箸で揚げ茄子の煮浸しを摘まみ上げた。遥人特製のタレの甘い香りに釣られまた口を開こうとして慌てて周囲を見た。
だって今日から二人暮らしではないのだ。奏人がどんな思いで見ているのか気になって視線をいつも遥人が座っている席の隣に向け、そこがもぬけの空になっているのに再び驚く。しかもテーブルに乗っていたはずの奏人の食器までがなくなっている。
「えっ、もしかしてもう食べ終わって……」
「奏人ですか? 早々とかっ込んで明日の準備しに部屋に戻りましたよ」
「あ……そうか、ごめん」
きっと遥人の弟だからしっかりと挨拶して席を立ったに決まっている。なのにッ全く返事をしなかったどころか、食べ始めてからその存在すら頭の外に追いやってしまった。
「謝る事なんて何もありませんよ。はい、あーん」
煮浸しが唇に当たってまた反射的に口を開いて慌てて首を振った。
「自分で食べる、食べられるから!」
ちょっとの隙を見つけては自分を甘やかそうとする遥人に必死の抵抗を試みる。
「これで最後なので、遠慮しないでください」
「うそだろっ!」
慌てて目を向ければ、遥人の言葉に偽りはなかった。自分の皿に残っているのは汁ばかりで、そこにあったはずの夏にぴったりな食材たちが消え失せている。残るは本当に遥人の箸に摘まみ上げられた茄子だけだ。
「俺は隆則さんに嘘なんて吐きませんよ。はい、あーん」
条件反射でまた口を開いて、しっかりと出汁の味を茄子の甘みを舌で堪能した。
同時に後悔もする。あんなに手を掛けて作ってくれた食事なのにちゃんと味わえなかった。
「……ごめん」
「だから謝ることはありませんよ。俺は好きでやっているんですから」
いつもの自分を甘やかすときの遥人の笑みを目にすれば、じわりと身体の奥が疼いた。だって、この顔でいつもドロドロに甘やかして身体を溶かして、最後に気が狂うぐらい気持ちよくさせては同時に意地悪をするのだ。
その時の感覚が身体に蘇り、ギュッと蕾を窄めた。
(そういえば忙しくて最近していない……)
でも今は奏人が来ているからできない。
思い出した欲望が意識を浸食し始めそれでいっぱいになっていく。できないとわかると余計に加速して。太腿をこっそりともじつかせ、ちらりと遥人を見た。いつもと変わらない余裕のある笑みが余計に憎たらしい。
「……ごちそうさまでした」
少し唇を尖らせる子どもっぽい表情をして挨拶すれば、そこに当たり前のように唇を押しつけてから「お粗末様でした」と返事をして笑みを深くしていった。
(……ったく、そういう顔が格好いいんだよっ!)
もう五年も一緒に暮らしているのに、未だに落ち着かない。本当にこの目の前にいる格好いい男が自分の恋人なのかと信じられない気持ちになる。見た目だけではない、性格までも最高で、どこまでも深く愛してくれるなんて……。
最初に二人が関係を持った頃は信じられなくてずっと不安だった。
遥人が自分にすぐ飽きると決めつけたのも、この容姿があったからだ。誰もが好印象を受ける物腰の柔らかさにしっかりとした体躯、モデルでも通用するこの顔だ。一度も交際経験のなかった隆則でなくても本当に愛されているのか不安になる。
(大丈夫、クライアントが求めてる動きをしてくれる)
実装したときの動きまで計算して過不足がないかも組み込んで自分でゴーサインを出す。
機械的に箸だけを動かし、食べ慣れたさっぱり味のご飯を口に運んでいく。
あまりにも口に馴染みすぎてもぐもぐと咀嚼して思考が遠くにいってしまう。
その間に手の動きが止まってしまったことにも気付かなくなる。遥人の狙いがそうだとも知らずに。
(待てよ、やっぱりあそこは別のコマンドを置いて動きを加速させた方が……でもそうしたら他の場所でバグを起こす可能性が出るから……やっぱり一番最初に組み立てた内容が一番いいか……)
箸の先が唇に当たると自動的に口を開き、入ってきたものを咀嚼していく。あれやこれやと本当に確信が持てるまで頭の中を仕事モードだけにして確信が持てた時、隆則は顔を上げ、口の中にあるものを吹き出す勢いで驚いた。
目の前に遥人がいて、ごま豆腐を摘まんだ箸が近づいてきている。反射的に口が開き、香ばしい豆腐が舌に乗った。
「なっ……なんで!? 奏人くんは?」
近頃、隆則の給仕に嵌まっている遥人は、甲斐甲斐しく隆則の食事の世話までしてくれるようになり、今みたいに動かなくなるとこうして口まで食事を運ぶのが当たり前になっていた。
何度か拒んだし抗議もしたが、どうしてもぼんやりとしてしまう間に食事を運ばれ、介護して貰っているような気持ちになる。
「隆則さんが動かなくなったので」
にこやかに笑ってまた箸で揚げ茄子の煮浸しを摘まみ上げた。遥人特製のタレの甘い香りに釣られまた口を開こうとして慌てて周囲を見た。
だって今日から二人暮らしではないのだ。奏人がどんな思いで見ているのか気になって視線をいつも遥人が座っている席の隣に向け、そこがもぬけの空になっているのに再び驚く。しかもテーブルに乗っていたはずの奏人の食器までがなくなっている。
「えっ、もしかしてもう食べ終わって……」
「奏人ですか? 早々とかっ込んで明日の準備しに部屋に戻りましたよ」
「あ……そうか、ごめん」
きっと遥人の弟だからしっかりと挨拶して席を立ったに決まっている。なのにッ全く返事をしなかったどころか、食べ始めてからその存在すら頭の外に追いやってしまった。
「謝る事なんて何もありませんよ。はい、あーん」
煮浸しが唇に当たってまた反射的に口を開いて慌てて首を振った。
「自分で食べる、食べられるから!」
ちょっとの隙を見つけては自分を甘やかそうとする遥人に必死の抵抗を試みる。
「これで最後なので、遠慮しないでください」
「うそだろっ!」
慌てて目を向ければ、遥人の言葉に偽りはなかった。自分の皿に残っているのは汁ばかりで、そこにあったはずの夏にぴったりな食材たちが消え失せている。残るは本当に遥人の箸に摘まみ上げられた茄子だけだ。
「俺は隆則さんに嘘なんて吐きませんよ。はい、あーん」
条件反射でまた口を開いて、しっかりと出汁の味を茄子の甘みを舌で堪能した。
同時に後悔もする。あんなに手を掛けて作ってくれた食事なのにちゃんと味わえなかった。
「……ごめん」
「だから謝ることはありませんよ。俺は好きでやっているんですから」
いつもの自分を甘やかすときの遥人の笑みを目にすれば、じわりと身体の奥が疼いた。だって、この顔でいつもドロドロに甘やかして身体を溶かして、最後に気が狂うぐらい気持ちよくさせては同時に意地悪をするのだ。
その時の感覚が身体に蘇り、ギュッと蕾を窄めた。
(そういえば忙しくて最近していない……)
でも今は奏人が来ているからできない。
思い出した欲望が意識を浸食し始めそれでいっぱいになっていく。できないとわかると余計に加速して。太腿をこっそりともじつかせ、ちらりと遥人を見た。いつもと変わらない余裕のある笑みが余計に憎たらしい。
「……ごちそうさまでした」
少し唇を尖らせる子どもっぽい表情をして挨拶すれば、そこに当たり前のように唇を押しつけてから「お粗末様でした」と返事をして笑みを深くしていった。
(……ったく、そういう顔が格好いいんだよっ!)
もう五年も一緒に暮らしているのに、未だに落ち着かない。本当にこの目の前にいる格好いい男が自分の恋人なのかと信じられない気持ちになる。見た目だけではない、性格までも最高で、どこまでも深く愛してくれるなんて……。
最初に二人が関係を持った頃は信じられなくてずっと不安だった。
遥人が自分にすぐ飽きると決めつけたのも、この容姿があったからだ。誰もが好印象を受ける物腰の柔らかさにしっかりとした体躯、モデルでも通用するこの顔だ。一度も交際経験のなかった隆則でなくても本当に愛されているのか不安になる。
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