おじさんの恋

椎名サクラ

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番外編

分裂と過剰と悦びと(遥人が二人になりました!?) 8

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 その心地よさに、頑なな心が溶かされていく。男だとか年上だとかが些末事になり、愛情の業火に焼き尽くされていった。

 残ったのは消えない愛情と純粋な快楽。

 わだかまりをなくせば、求めるのに躊躇いはなかった。

「もっと奥……めちゃくちゃにして、くれ……」

 何度目かの蜜を吐き出して離れたのが寂しくて、戦慄いたまま閉じることができなくなった両足を投げ出し、開いたままになった蕾から二人に注がれた白濁を零しながら、ねだった。

「……結腸責め、して欲しいんですか?」

「いつもは怖くて嫌だって泣くじゃないですか」

「して……」

 手を伸ばすこともできない。もっと足を開いて誘うこともできない。けれど、まだ欲しい。

「すき……だから……はるとに、なにされてもいい……」

 真っ直ぐに向かう愛情に応えられる方法なんて、自分にはない。この身を捧げる以外は。

「……またそんなことを言うんですね。本当に何をされても文句言えませんよ」

「いい、から……」

「それは、今日だけ? でもきっと俺、それだけじゃ満足できませんよ」

「隆則さんが起き上がれなくても、明日も抱きますよ。明日だけじゃない、明後日もその次の日も。それでも?」

 そんなにこの身が欲しいなら、いくらでも奪えば良い。そのたびに隆則の中に残るのは愉悦と幸福感だけだから。

「……いい……うれしいから……」

 嘆息する二人。その顔は嬉しそうに輝いている。

「愛してます、隆則さん」

「ずっと貴方だけ、愛してます」

 二つの顔が口付けを求めて近づいてくる。その一つずつにキスをして、でももっとしたくて、伸ばした三つの舌が絡み合う。淫らなキスを続けたまま、四つの手に昂ぶらされる。

 ああ、ずっとこうしていたい。遥人のためだけの存在になりこの身すべてを委ねたい。

 その先に何があっても、ただ愉悦と愛だけを貪っていきたい。

「おれも……あいしてるっ」

 愛してる。そうだ、初めて会ったあの瞬間からこの気持ちは芽生え育ち、何度枯れそうになっても抜くことができない程、心の奥深くに根を張り巡らせてしまった。そして今、相愛という養分を得ることで花を咲かせ種を落としては、その想いをいくつもの株にわけて心の中を埋め尽くしている。

 いつか、隆則の心は彼への愛情だけで埋め尽くされるだろう。

 それでいい。

 彼に愛されることが隆則の、幸福なのだから。

 僅かな休憩の後、再び二人の情愛を受け止め、自らも悦びに身体を震わせ、最後には二人を同時に受け挿れ、気持ちいいと何度も震えながら熱い蜜の迸りに愉悦の頂点に達し、意識を手放した。



「……うそだろ」

 隆則は座り心地の良いゲーミングチェアに腰掛けたまま動けなかった。

 仕事に集中したときによくあることで、椅子に座ったまま寝てしまったらしい。いや、ただ寝ただけだったら良かった。

(なんであんな夢見ちゃったんだろう……)

 ちらりと自分の股間を見ては、すぐに視線を逸らしクローゼットへと移す。

「下着……遥人の部屋だよな……」

 仕事部屋のクローゼットにはシーズンオフの服が収納されているだけで、すぐに使う服は、ない。

「どうしよう……」

 ちらりと見れば燦々と太陽が輝いている。

 納品した安心感で寝落ちしたようで、モニターにはメーラーが表示され、クライアントの担当者からは早い納品に感謝するメールがいつのまにか届いていた。

 時間を見れば朝というには遅い時間だ。

「遥人……仕事だよな」

 いそいそとトレーナーのズボンを下着と一緒に脱いだ。ねっとりとした白濁が糸を引くのを見て、眉をしかめた。

「夢精とか何年ぶりだよ……」

 少なくとも遥人と一緒に住むようになってからは初めてだ。すぐさまティッシュで拭い、そーっと部屋を出た。

 遥人に見つかる前に綺麗に洗って洗濯機に放り込まないと。

 家事を一手に担っている遥人には、どうしても知られたくない。

(ついでに風呂入ろうかな。そうだ、そうしよう。寝たからすっきりしてるし、今日の夕食は俺が作って遥人の帰りを待とう!)

 何度もキッチンに立ってはフライパンを焦がして廃棄処分にしているのに、遥人の役に立ちたいと過去の自分がしたことをすぐに忘れてしまう。

 下半身剥き出しのままバスルームに向かった隆則だが……。

「何やってるんですか、隆則さん」

 突然の声に身体を強張らせた。

「はっ……な、なっ」

 遥人、なんでいるんだ。と言いたいのにあまりの驚きに声が詰まる。恐る恐る後ろを向けば、普段着姿だというのにモデルのように様になっている愛しい人がキョトンとした顔をして立っていた。

 その手には洗濯物かご……ベランダに洗濯物を干した後というのが一目で分かる。

 スッと綺麗な目が細められた。カゴを床に放り投げ、近づいてくる。

「ど……どうして……?」

「今日は土曜日ですよ。相変わらず曜日感覚ないですね。で、その手のものはなんですか? なんで下半身が素っ裸なんですか?」

 ……訊かないでくれ。いとやんごとなき事情があるんだ。
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