おじさんの恋

椎名サクラ

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番外編

分裂と過剰と悦びと(遥人が二人になりました!?) 4

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 閉じた唇を舐めて開かせると、遥人は容赦なく舌を潜り込ませた。逃げようとする舌を追いかけて、濃厚に絡ませて擦りつけてくる。

「んっ」

 引きずり出そうとする動きに、次第に隆則ものめり込んでいく。頬を捕らえて逃げないようにされているのに、背中を撫でる手が遥人のそれと錯覚していく。

 肩甲骨の形を確かめ、へこみを押すようにスッと下へと下りていき、尾てい骨の先を擽る。

「んっ……ぁぁっ」

 甘い声がすぐに掬い取られ、唾液と一緒に飲み込まれた。そしてもっと寄越せとばかりに啜られ、一度背中へと移行した意識がまたキスの方へと戻される。すべてを奪い尽くそうとする遥人のキスは、すぐに隆則を夢中にさせ愉悦の海へと引きずり込む。自分としか付き合ったことがないというくせに、なぜこんなに巧いんだと憎たらしく思いながらも、容易に溺れていく。

「ぁ……んんっんんっ」

 鼻から甘い音ばかりが鳴り、もっとというように自分から遥人の首に手を回してキスを深くした。上顎を舐められズンッと腹の奥で熱が暴れて最奥の蕾を疼かせた。もう何度も味わっているのに、いつも仕事明けに味わうと初めてキスで快楽を得たかのように反応を大きくしてしまう。そして、溶けてしまう。グズグズに。

 隆則から発せられる音が甘くなるのを感じて、遥人もキスを深くしもっと溺れろと執拗にしていく。

 その間に背中の手は優しく、肉付きの悪い体で唯一形の良い臀部を撫でた。丸みを確かめ、弾力を味わう。いつも遥人がするのと同じ動きで。だからキスに溶けて上体から力がなくなり遥人に凭れかかるようになったのを見計らって指が蕾に挿ってきても、拒めなかった。それどころか、遥人の指と勘違いしてギュッと締め付けては甘い音を立てた。

(ぁ……指、解す動きだけする……また意地悪するんだ)

 すぐに隆則の感じる場所を弄らない時は、決まって焦らして啼かせようとする。隆則から何をして欲しいのか求めるまで欲しい愉悦は与えず、だからといって気持ちいいことすべてを取り上げるのではないから、決定的な快楽を与えられなくてひたすら燻って悶え続けるのだ。

 意地悪はしないでくれ。

 言葉にする代わりに必死にキスをしたまま、遥人の膝の上で腰を揺すった。

 淫らな仕草に、けれどダメとパンッと軽く臀部を叩かれる。きちんと言葉にしないと許さないとばかりに。

(恥ずかしくて言えないの、知ってるくせに……)

 おねだりなんてできない。自分の方が十五も年上で。年下の遥人に溺れていると言うだけでも恥ずかしいのに、その上淫らなおねだりなんてできるはずがない。というのに、遥人はいつだって求めるのだ、言葉にすることを。

 もう七年も攻防戦を繰り広げているのに、未だに互いに一歩も引かないから、仕事明けのセックスで隆則は前後不覚になるまで悶える羽目になる。

 分かっているから余計に、恥ずかしくて言葉になんてできない。

 淫らに腰を振って煽るが、気持ちの良い場所は巧妙にはぐらかす指は、何度も抜けてはローションを纏って挿っては、ぬめりを塗りつけるばかりだ。

「は……るとぉ」

 甘えるようにその名を呼ぶ。

「だーめ。隆則さんが明日も明後日も起き上がれないくらい、めちゃめちゃにするんですからすぐに達ったら大変なことになりますよ」

 酷い。じわりと眦に涙が滲むのに、遥人はクスリと笑うだけでまた唇を塞いできた。

 仕事で疲弊しきった脳は、もう一つの存在をすっかり忘れ、ただただ遥人から与えられる愉悦を貪るのに夢中になって自ら腰を差し出していく。臀部を揉まれながら蕾を解す動きにうっとりとし、気持ちいいと舌を絡ませることで遥人に伝える。

 大きな手が胸の尖りを抓むまで。

「ひっ……え……? あっあっ!」

 なんで? 遥人の手は確かに臀部を揉んで蕾を解しているのに……。

「やだっやだ!」

 思い出したもう一人の存在に隆則は慌てて抵抗を始めた。だがすでにキスで溶かされた身体ができたのは僅かに上体をひねることだけ。遥人の膝から下りることも、首に回った腕を外すこともできない。小さな抵抗に「やっと気付いたの?」と遥人は笑った。

「本当、隆則さんは気持ちいいことに弱すぎ。安心してって言ったでしょう。後ろのも、隆則さんをどうしたら気持ちよくなるか、よく知ってるから」

「な……んで……。もしかして、矢野さん?」

「……なんでここであの人の名前が出てくるんだ」

 遥人と付き合う前までお世話になっていたデリヘルのキャストの名前を出せば、一気に精悍な顔に不機嫌な皺が刻まれた。中の指が感じる場所を強く押してきた。

「いっ……それもっと……ああっ!」

「俺が隆則さんを抱くのに他の人間を呼ぶなんてできないってわかんないんですか?」

「そうですよ。こんなに色っぽい隆則さんを他の人間に見せるなんて、もったいなくてできません」

 同じ声が前と後ろからやってきて、余計に隆則は混乱した。ビクビクしながら後ろを振り向くと、見慣れた愛おしい顔が近づいてきた、後ろから。
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