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番外編
分裂と過剰と悦びと(遥人が二人になりました!?) 2
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背中を冷たい汗が流れるのを隠し、固まった笑いを貼り付かせる。
「でもこういうネタ、結構ありますよね。ノラえもんでも複数にコピーを出すことができる機械がありましたし」
「遥人でもノラえもんを観るんだ、意外だなぁ」
「そりゃ国民的アニメですから。でもあの機械の方が良いな……あれだったら無限に隆則さん増やせますし、仕事用隆則さんと俺用の隆則さんが必要だから……ざっと五人いれば充分か」
「五人!?」
さすがに多すぎるだろう。仕事用に二人と遥人用の一人で充分と考える隆則だが、遥人はニヤリと笑って細い腰を抱きしめてきた。
「まあ、全員俺用ですけど」
「ひぃっ! ……もしかして、満足してない、のか?」
そりゃ、仕事に入れば平気で終わるまでは相手ができないが、月に相応の回数は相手をしていると思っているし、荒れで満足しないとなるとどれだけ絶倫なんだと思わずにいられない。
確かに遥人はまだ二十代だ……もう後半だが。
「その……飽きないのか?」
彼と最初に関係を持ってもう七年だ。普通なら互いが空気になってもおかしくないのに、遥人は未だに貪るように抱いてくる。
「飽きる? そんなにしてないじゃないですか」
嘘だ。月に数度は意識をなくすくらいしているじゃないか。
そう叫びたくてぐっと堪える。もしここでそんな話をしてしまったら「では実戦しましょう」とか言い始めて仕事があるのに雪崩れ込んでしまう。
五年も一緒に住んでいれば彼が何を言い出すのか予測できるようになった隆則は、すぐさま「そ……そうだな」と言ってその手から逃れようとした。
とてもじゃないが、まだ仕事が残っている。締め切りには余裕で間に合う内容なので切迫はしていないが、今日はこの後仕事をすると決めているのだ。
「では、仕事が終わったら証明しますね、楽しみにしていてください」
格好いい顔を妖しく歪め、遥人の手が離れた。
(助かった……のか?)
なんか、仕事が終わったら大変なことになりそうだが、逃げ出すという選択をしていないことに気付かないまま、隆則は仕事部屋に逃げ込んだ。
「そういや、今月はまだやってなかったな……」
仕事用の机に向かった途端、自分が犯した罪を思い出す。カレンダーを見ればもうすぐ下旬だ。それくらい速人を放置していたことを意味している。
「あーー、あれって……やばいな」
淋しさの裏返しだったのかもと思い直し、実はあんな雰囲気を出しておきながら逃げる道をちゃんと作る優しさに申し訳なさが湧きあがる。
「この仕事、早く終わらせよう」
明後日までに作り上げれば一週間は遥人のために時間を充てられる。それで罪滅ぼしになると良いのだが……。
「よし、やるぞ!」
そうと決まればぼんやりしている暇はない。
隆則はキーボードに手を乗せると、脳内にあるプログラミングコードを一気に叩き始めた。
「こんなところで寝ていたら、風邪を引いちゃいますよ」
うつらうつら仕事用の椅子に腰掛けたまま眠気と闘っていると、甘い声が頭上から聞こえてきた。
――ごめん、ちょっと仕事を詰め込みすぎた。
言いたいのに疲弊しきった身体は眼球を動かすので精一杯だ。
「仕事は終わったんですか?」
頷く代わりに視線で返事をする。長い付き合いで、それだけで遥人の顔がふわりと柔らかくなった。
「ずっと詰め込んでたので疲れたでしょう。寝る前に風呂に入りましょう。俺、運びますから」
――いい、臭いし重いし。起きたら自分で入るから。
「ダメですよ。本当はご飯も食べさせたいところを我慢しているんですから、せめて風呂だけは入ってください」
軽々と隆則の身体を抱き上げた遥人は、いつものように悠々とバスルームまで運んでいく。バスタブの横に下ろし、着衣を剥がすのもお手の物だ。なんせ仕事が終わる度に遥人の手を煩わせてしまっている。
――面倒をかけてごめん。
すぐに倒れてしまいそうな身体を支えながらの作業は骨が折れるはずなのに、遥人は嬉々としてシャツを脱がしていく。慣れた手つきで裸に剥かれた隆則の身体をもう一度抱き上げると湯船にゆっくりと下ろした。
――気持ちいい。
筋肉が解れるのがわかる。ずっと同じ姿勢のまま動かなかったせいで身体は凝り固まってしまったが、血が巡るのと同時に筋肉が弛緩していくのを感じる。
仕事をしている間、風呂どころか寝食まで忘れてしまう隆則にとって、この瞬間が一番安らげる。掬ったお湯を遥人が肩にかけてくれるから、全身に力が入らなくなっていく。
――このまま、寝てしまう。
重くなる瞼が落ちる前に視線で告げれば、精悍な顔が蕩けたような笑みを浮かべた。
「全部俺がやりますから安心してください……寝られるかどうかわかりませんけど」
不穏な単語が耳を過ったが、疲れて死にそうな頭にまで届かない。
湯船に浸かったまま頭を洗われ、引きずり出されて身体中を綺麗にされた。そこまでは隆則も心地よい手つきにうっとりとして、本当に寝てしまいそうになった、のに。
「でもこういうネタ、結構ありますよね。ノラえもんでも複数にコピーを出すことができる機械がありましたし」
「遥人でもノラえもんを観るんだ、意外だなぁ」
「そりゃ国民的アニメですから。でもあの機械の方が良いな……あれだったら無限に隆則さん増やせますし、仕事用隆則さんと俺用の隆則さんが必要だから……ざっと五人いれば充分か」
「五人!?」
さすがに多すぎるだろう。仕事用に二人と遥人用の一人で充分と考える隆則だが、遥人はニヤリと笑って細い腰を抱きしめてきた。
「まあ、全員俺用ですけど」
「ひぃっ! ……もしかして、満足してない、のか?」
そりゃ、仕事に入れば平気で終わるまでは相手ができないが、月に相応の回数は相手をしていると思っているし、荒れで満足しないとなるとどれだけ絶倫なんだと思わずにいられない。
確かに遥人はまだ二十代だ……もう後半だが。
「その……飽きないのか?」
彼と最初に関係を持ってもう七年だ。普通なら互いが空気になってもおかしくないのに、遥人は未だに貪るように抱いてくる。
「飽きる? そんなにしてないじゃないですか」
嘘だ。月に数度は意識をなくすくらいしているじゃないか。
そう叫びたくてぐっと堪える。もしここでそんな話をしてしまったら「では実戦しましょう」とか言い始めて仕事があるのに雪崩れ込んでしまう。
五年も一緒に住んでいれば彼が何を言い出すのか予測できるようになった隆則は、すぐさま「そ……そうだな」と言ってその手から逃れようとした。
とてもじゃないが、まだ仕事が残っている。締め切りには余裕で間に合う内容なので切迫はしていないが、今日はこの後仕事をすると決めているのだ。
「では、仕事が終わったら証明しますね、楽しみにしていてください」
格好いい顔を妖しく歪め、遥人の手が離れた。
(助かった……のか?)
なんか、仕事が終わったら大変なことになりそうだが、逃げ出すという選択をしていないことに気付かないまま、隆則は仕事部屋に逃げ込んだ。
「そういや、今月はまだやってなかったな……」
仕事用の机に向かった途端、自分が犯した罪を思い出す。カレンダーを見ればもうすぐ下旬だ。それくらい速人を放置していたことを意味している。
「あーー、あれって……やばいな」
淋しさの裏返しだったのかもと思い直し、実はあんな雰囲気を出しておきながら逃げる道をちゃんと作る優しさに申し訳なさが湧きあがる。
「この仕事、早く終わらせよう」
明後日までに作り上げれば一週間は遥人のために時間を充てられる。それで罪滅ぼしになると良いのだが……。
「よし、やるぞ!」
そうと決まればぼんやりしている暇はない。
隆則はキーボードに手を乗せると、脳内にあるプログラミングコードを一気に叩き始めた。
「こんなところで寝ていたら、風邪を引いちゃいますよ」
うつらうつら仕事用の椅子に腰掛けたまま眠気と闘っていると、甘い声が頭上から聞こえてきた。
――ごめん、ちょっと仕事を詰め込みすぎた。
言いたいのに疲弊しきった身体は眼球を動かすので精一杯だ。
「仕事は終わったんですか?」
頷く代わりに視線で返事をする。長い付き合いで、それだけで遥人の顔がふわりと柔らかくなった。
「ずっと詰め込んでたので疲れたでしょう。寝る前に風呂に入りましょう。俺、運びますから」
――いい、臭いし重いし。起きたら自分で入るから。
「ダメですよ。本当はご飯も食べさせたいところを我慢しているんですから、せめて風呂だけは入ってください」
軽々と隆則の身体を抱き上げた遥人は、いつものように悠々とバスルームまで運んでいく。バスタブの横に下ろし、着衣を剥がすのもお手の物だ。なんせ仕事が終わる度に遥人の手を煩わせてしまっている。
――面倒をかけてごめん。
すぐに倒れてしまいそうな身体を支えながらの作業は骨が折れるはずなのに、遥人は嬉々としてシャツを脱がしていく。慣れた手つきで裸に剥かれた隆則の身体をもう一度抱き上げると湯船にゆっくりと下ろした。
――気持ちいい。
筋肉が解れるのがわかる。ずっと同じ姿勢のまま動かなかったせいで身体は凝り固まってしまったが、血が巡るのと同時に筋肉が弛緩していくのを感じる。
仕事をしている間、風呂どころか寝食まで忘れてしまう隆則にとって、この瞬間が一番安らげる。掬ったお湯を遥人が肩にかけてくれるから、全身に力が入らなくなっていく。
――このまま、寝てしまう。
重くなる瞼が落ちる前に視線で告げれば、精悍な顔が蕩けたような笑みを浮かべた。
「全部俺がやりますから安心してください……寝られるかどうかわかりませんけど」
不穏な単語が耳を過ったが、疲れて死にそうな頭にまで届かない。
湯船に浸かったまま頭を洗われ、引きずり出されて身体中を綺麗にされた。そこまでは隆則も心地よい手つきにうっとりとして、本当に寝てしまいそうになった、のに。
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