おじさんの恋

椎名サクラ

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本編1

10-3

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 きっとこれは神が哀れな自分にくれた奇跡なのだろう。好きになった相手にたった一回だけ抱かれるという、甘くて優しくてこの上なく残酷な奇跡を。

 この温もりはもう二度と味わうことはないんだ。遥人が達った後にようやく解放された手を動かし、これからやってくる辛い瞬間に備えるように破けるほどきつくシーツを掴んだ。

「ねぇ五十嵐さん」

 賢者タイムが終わったのだろう、隆則の耳元で遥人が囁いた。

「俺のこと、好きでいいんですよね」

「ごめっ」

 好きになってごめん。本当は好きになんてなりたくなかった。一秒でも長く側にいたいから。一瞬でも長く一緒に暮らしたかったから。彼と住む心地よさをもっともっと味わいたかった。

 でもそれも今日で終わりだ。

「謝って欲しいんじゃないです……なんで言ってくれなかったんですか」

 言えるわけがない。気持ち悪がられて汚物を見るような目で蔑まれると分かっているからひたすら隠し続けようとしたのだ。

「嫌われて……出ていかれたくなくて……」

 言葉を濁す。好きになってもらえない前提だから、心がどこまでも小さくなる。予想通り彼に罵倒されたら、これから自分は恋どころか人に何かの感情を抱くことすら恐怖するのだろう。仕事を介してでしかきっと人と会うことができないほどの傷を残すだろう。

 思い出すのは初めて牛丼屋で彼が向けてくれたあの暖かな笑み。客向けの言葉でも自分にはこの上なく救いとなった言葉。

 それだけを胸に残そう。

「はぁ。嫌う前提ですか……、俺がもしって考えないんですか?」

「だって君ノンケだろ、ゲイと一緒に住むとか気持ち悪いじゃないかっ」

「ゲイがどうのってわかりませんが、俺、五十嵐さんのこと嫌いじゃないです……むしろ気になってます」

「…………は?」

「気になってる、じゃないな。うん、多分守りたいんです。五十嵐さんが他のやつに何かされてるんだって考えるだけで凄く嫌な気分になります。こういうこともしたいなら、俺がします……風呂も飯も何もかも、俺がしたいんです」

 蕾が開こうとするのを感じて慌てた。

 上手く動かない頭で内容を精査する。

 何もかもしたい。それはどんな感情なのだろうか。理解できずじっと遥人を見つめた。様々なシステムを瞬時に組み立てられるはずの脳内が、相手の求めている内容を瞬時に把握して仕様書を作り込める脳内が、全く働かない。

 ただ分かるのは、「何か違う」ということだ。

「それって……愛情じゃない」

「そうですか? ……俺、恋愛とかってよくわかってないから。でもさっきみたいなこと、五十嵐さんが他のヤツとするの、許せないんです。俺の名前呼びながらシコってるのだって、嫌というよりはむしろ当然ぐらいにしか思ってなかったし」

「シコってって……」

 その通りだが、言語化して欲しくない。

「なんで飛び出したかもわかんないです。俺がいるんだから言ってくれればいいのにって……そしたらこれ、するのに……」

 これ、と言いながら二人の身体に挟まれ小さくなったままの分身を摘まんできた。

「ゃっ!」

「俺の手で達ってくれたらって想像したら、嫌どころか嬉しいなって思ったんです」

「ゃめっ……さわっ」

 刺激しないで欲しいのに、僅かに腰を浮かせて隙間を作ると敏感なくびれを優しくさすってくる。まだ挿ったままの欲望が動き、無意識にまた締め付けてしまうが、それよりも意識がすべて遥人の手の動きに集中してしまう。

 達って濡れているのに、気持ち悪がるどころか当たり前のようにまた育てようとしている。

 遥人のあの多いな手が自分のあれを触ってる。その事実だけで頭が沸騰しそうなほど血が上り、何を言えばいいのかわからなくなるほどのパニックに陥る。止めろが正しいのか、もっととねだるのが正解なのかわからない。

 けれど与えられる刺激に身体は素直に反応して、気持ちいいと中の欲望を締め付け感じていることを教えてしまう。

「ぁぁっ……」

「同じ男でも感じる場所って違うんですね。五十嵐さん、結構ここ弱いですね」

 くびれから先端までの間を擦られるたびに隆則は落ち着いたはずの呼吸を乱した。力一杯に握ったままのシーツを引っ張ってぐちゃぐちゃにしていく。

「あ……そういう顔するんですね……さっきはよく見てなかったから今度はじっくり見せてください」

「なっ……ぁぁぁっ」

 抜かないままの欲望が身体の中で跳ねた。同時に蕾を押し広げる。

「ぉ……きくっ」

「なんか五十嵐さんが感じてるの見たらその気になりました……硬くなったらまたあそこ擦りますね」

 そうして欲しかったんですよね。耳元に囁きを残して温もりが突然離れた。本格的に分身を可愛がるために上体を起こし、両手で分身を包み込み扱き始めた。当然繋がったまま隆則に締め付けられるたび欲望を太く大きくしていく。

「あれ? これ以上は硬くならないのか? ねぇ五十嵐さん」

「むりっ……も……むりっ」

「じゃあ中のほうも一緒にしましょうか」

 硬くなった欲望が知られたばかりの場所を容赦なく擦ってくる。

「ひっぁぁぁ」

「あれ、硬くならない」

 不満げな声が落としながら、それでも手も腰も動きを止めない。

「いっぱい……ぃったからむりっ」

 だからもうやめて欲しい。これ以上は経験がなくて怖い。思春期の頃だって半日の間にこんなにも達ったことはない。何度達けば許されるのだろうか。

「え、でもさっき一回しか……あぁそういうことですか」

 ギュッと分身を掴まれ悲鳴を上げた。

「そいつにされて何回達ったんですか」

「しらっなっ!」

「覚えてないくらい達かされたんですか……腹立つな」

 腰の動きが小刻みになる。

「ぁぁぁぁっむりっ!」

「ねぇ五十嵐さん、もうこういうこと俺とだけにしてください……でないとこれ、潰しますよ」

「ぃたっ……する、するからもう痛いのやっ」

 痛みと快楽にまた涙が零れてくる。整理できない頭のまま、言われた通りの言葉を返すしかなく、与えられ続ける快楽にまた頭がおかしくなっていく。もう遥人が何を言っているか、なんと返しているのかもわからないまま、過ぎる快楽に押し流され沈んでいく。

「もうそいつに会わないでくださいよっこうして良いの、俺だけっなんですからね」

「うん、うんっきみだぇっ」

「他のもっ全部っ俺にだけっ……わかりますかっ」

「わかっ……ぁぁぁぁっ」

 そしてどのように終わったのかもわからないまま、意識を飛ばすのだった。
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