7 / 100
本編1
4
しおりを挟む
隆則が辞表を提出した瞬間、社内は上を下への大騒ぎとなった。
直前までやっていた仕事のメンバーが全員集められ原因究明で誰がどう負担をかけたかを聴収される事態にまで発展した。複数のメンバーからの証言で営業担当と直属の上司がやり玉に上がったのは、当然と言えば当然だ。
難しいシステム開発はすべて隆則の手に委ねて乗り切った会社である。主力であるプログラマーが抜けるのはこの上ない大打撃だ。しかも隆則ほど文句を言わないプログラマーは少なく、会社としては彼ほど使い勝手の良い人材はいないし、コミュニケーション能力が多少低くてもそれを上回る能力で会社に貢献し続けてきた彼を喜んで手放すなど経営陣にはできるはずがなかった。
社長の怒号が鳴り響く中、上司と営業担当者が小さくなりながら頭を垂れている姿を見ても、勤務状況面・給与面すべてで改善を提示されても、一度折れてしまった心が元に戻ることはなかった。
「なんで俺が怒られなきゃなんねーんだよっ!」
トイレから自分の席に戻ろうとしたとき、フロアの一番隅にある給湯室から苛立った声が隆則の耳に飛び込んできた。男にしては少し高めの声は件の営業担当だろう。
(なんだあいつ、まだ社内にいるのかよ)
営業は朝のミーティングを終えると部長の方針で全員社内から放り出されるのが常で、就業間近まで帰ってくることはない。なのに、11時を前にして給湯室で喋っているのはさぼりかと呆れていると、叫びには続きがあった。
「アイツただのプログラマーじゃんか! SEでもないくせになんであんなに騒いでんだよ、所詮IT土方だろうがっ!」
(あぁ、なるほど)
こいつは肩書だけでしか物を見ていないのか。偉い奴にはヘコヘコして見下した人間にはとことんまで偉そうにするタイプかと納得しながら、だから自分に対してあれほどまでの無茶を通してきたのかと納得した。
クライアントから直接ヒアリングして仕様をまとめシステムの全体設計から進行管理までを統括して行うSEよりも、与えられた仕様書のプログラミングだけを行うプログラマーの方が格が下なのは確かだ。
「お前バカか? 五十嵐さんがただのプログラマーじゃないっての、社内で知らない人いないんだぞ。プログラミングする時間がなくなるからってSEになるの蹴ってるだけだし」
他に誰かいるのだろう、営業を嗜めるために情報を与えているようだ。
「あの人の仕事で営業利益の三割は持ってるようなもんだからな、その人辞めさせちゃった責任はデカいぞー」
情報を与えるだけではなく失敗を揶揄するなと諭したいが、ここで隆則が顔を出せば相手もいたたまれないだろうと、そ知らぬふりで通り過ぎようとした。
「そんなこと誰も教えてくれなかったっ!」
「お前がバカみたいにプログラマー見下してるからだろー、ざまぁ」
煽られてムキになったのか、営業が「言いつけてやるっ!」と叫び始めた。
「誰に? そういや、お前を必死でかばってた開発部の課長、降格だってな可哀想に。あの滅茶苦茶な変更をSE通さずに五十嵐さんに流したってだけでも大ブーイングなのに、仕様と出来上がりが別物レベルの変更させたなんてマジありえねーだろ。なんで変更にSE同行させなかったんだ?」
「俺だってあれくらいの変更仕様まとめられるっ!」
「それで大赤字だして五十嵐さん辞めさせるきっかけ作るとか、どんだけ無能なんだよ」
盛大に笑われた営業が顔を真っ赤にして給湯室から飛び出してきた。隆則の存在を確認するとギッと睨みつけてきたが何も言わずに営業部があるフロアへと走っていく。その後をゆっくりと新人時代に指導してきた後輩が出てきた。
「あ、五十嵐さんお疲れ様です!」
快活な彼のほうが営業やSEに向いているだろう、少なくともアイツよりはと思いながら片手をあげて返答する。
「……課長が降格って本当か?」
「相変わらず社内ゴシップに疎すぎ、五十嵐さん。降格だけで済んで御の字ぐらいに思ってもらわないとやってらんないですよ」
別の開発系部署に異動した彼には影響は少ないだろうが、それでも自分が辞めることでこんなにも大騒ぎになるとは思いもしなかった。
「迷惑かけて悪かったな」
「なに言ってるんですか。あんな仕様変更、普通ありえないっすよ。それを通したのは五十嵐さんの上司とアイツがデキてるからだしな」
アイツと先ほどの営業が走り去った後を顎で指した。
「は?」
「これも有名ですよ。可愛い恋人の営業成績をあげさせるために五十嵐さんに無理させたらしいって」
「ほんとかよっ!」
「五十嵐さん相手に冗談言ってもしょうがないでしょうが。それと、サーシングに引き抜かれたって噂もありますよ」
「なんだよそれ」
最近台頭してきたライバル企業の名前に思わず苦虫を噛み潰したような顔になる。会社の優秀なSEやプログラマーも引き抜かれそのしわ寄せが隆則に降りかかっていたのを嫌でも思い出す。過去に何度かヘッドハンティングの誘いを受けていたが、あのいかにもインテリですという若い社長の余裕ぶった態度が気に食わず、誘いを袖にし続けてきた。
「あ、違うんですね良かった! 辞めた後、どっかにいくんですか?」
「……フリーでやる」
元々趣味でやり続けてきたプログラミングまで嫌いになったわけではないし、独り身の身軽な立場だから無駄遣いさえしなければ月に2~3件の依頼で充分に食べていけると試算し、フリーになる決意をした。
「だったら辞める五十嵐さんから可愛い後輩の俺のお願い聞いてくださいよぉ」
自分よりもずっと上背のある後輩が可愛いとは思わないが、頼まれると断れない性分でつい「なんだ」と言ってしまう。
「俺の依頼は最優先に引き受けてくださいっ! 無茶な仕様変更なんてしないですし五十嵐さんのスケジュール最優先にしますから!」
「お前、まだSEにもなってないだろ」
「来年にはなる予定なので。俺の持ち駒の一つになってくださいお願いします!」
どれだけ優秀なプログラマーを抱えているかもSEにとって大事なことだ。だが会社という枠の中にいるなら必要ないだろう。この会社にだってたくさんプログラマーがいるのだから、元先輩に頼らなくてもと思ってしまう。
人の感情を読み取るのに長けている後輩は瞬時に言葉を並べた。
「五十嵐さんが抜けた開発部は人材かっすかすになるの目に見えてます。俺レベルが10人育つまで難しい案件はある程度外部委託になるはずなんです。だから頼んます!」
なるほど、と会得した。むしろ、今までバランスが悪かった部分が露呈したともいえるだろう。隆則一人にかかる負荷が大きすぎて後進を充分に育てきれなかった指導不足を今後どう改善させるかが課題になるだろう。すぐにレベルアップなんてできないから、後輩の言うように、彼らが育つまで一部を外注しなければ今の受注量をこなすことはできないだろう。
(こいつ、いいSEになりそうだな)
自分が育てた後輩が、これからどう育つのか楽しみだが、近くでその成長が見れないのは残念でもあった。
「わかった。最優先かどうかはわからないが、困ったときはいつでも連絡しろ」
「ありがとうございます! 頼りにしてますから」
「……まさか辞めた直後に仕事寄越すのだけは勘弁だからな。少しは休ませてくれ」
「あー、じゃあ辞めた二週間後から解禁ということで」
元気よく答える後輩に苦笑して、了承の意味を込めて手をあげながら彼に背中を向け自分の自分のデスクのあるフロアへと入っていった。席に着けば、少し離れた場所から上司が恨みがましい目で見てくるが、気にしないで今抱えている仕事を終わらせていく。さすがに途中まで組んだシステムを放棄して会社を辞めるわけにはいかないし、今後運用するためのマニュアルの作成もある。個人的恨みを相手にする暇はなかった。
何よりも。
(今日はなるべく早く帰ろう)
そしてあの牛丼屋に行くんだ。もしかしたら彼に会えるかもしれないし、会えたら気持ちに整理が付けたお礼も言いたい。
いや、九にお礼を言われるのは彼も困るだろう、なにせ味噌汁飲んで急に泣き出した客だ、気持ち悪がられるのは必須で、とてもじゃないが自分でも気持ち悪いとしか言いようがない。
でもどうしてか、彼に無性に会いたい。
「……別に好きとかそういうんじゃなくて……」
パソコンに向かいキーボードを叩きながらぼそりと呟く。
確かに自分はゲイだ。恋愛対象が異性に向かないのは多感な高校生の時に気がつき、それ以降も女性に興味を持たず彼のような綺麗な男に見惚れてしまう自分を自覚して、時間のある時は新宿二丁目に通ったりしていた。だがヒョロヒョロで顔もパッとしないプログラミングが唯一の趣味である隆則は、モテなかった。悲しいくらいにモテず、未だ恋人を持てたためしはないし、童貞(バージン)卒業できたのもプロに金を払ってである。
そんな隆則が好意を抱くには、牛丼屋の彼は上質すぎた。
(あれはどう見たってノーマルだから、俺なんかまず眼中にないか)
カチャカチャコマンドを打ち続けながら、頭の片隅で彼のことを考えてしまう。
誰からも好感を抱かせる雰囲気の良い笑顔に整った顔立ちそして180cmの長身、これだけでも異性にはモテるだろうが、しっかりと付いた筋肉は同性にも人気はあるだろう。なにせ二丁目には逞しい筋肉隆々のごつい男を啼かせたくて仕方ない人間が多く存在している。
彼の性癖がどちらに転ぼうが、自分が相手にされることはないと隆則自身が一番よく分かっている。
だから、あくまでも鑑賞するだけ、ちょっと親しくなれたならラッキーだ。
(でもあの顔と腕は理想だな……)
少し甘さのある優しい表情に見つめられるだけで隆則の下肢は疼いてしまう。その上少し筋肉の浮き出た腕に抱かれたならと夢想してしまうほどの逞しさはただただ羨ましい。どんなに運動しても、その後仕事で削げ落ちてしまう隆則はただただ憧れるだけだ。
(憧れるのは勝手だよな)
自分よりもずっと年若い男が自分の恋人になればなどと夢見ることなど最初から放棄している。
それより少しでも話す機会があれば、それだけで充分だ。むしろ、柱の陰から時々見れれば満足。下半身の処理はプロか自分の手ですればいいだけだ。
(そういえば最近抜いてないな……)
今夜あたりちょっとエロサイト観ながら自己発電でもするかとぼんやり考えながら、着々と難しい言語を入力していった。
直前までやっていた仕事のメンバーが全員集められ原因究明で誰がどう負担をかけたかを聴収される事態にまで発展した。複数のメンバーからの証言で営業担当と直属の上司がやり玉に上がったのは、当然と言えば当然だ。
難しいシステム開発はすべて隆則の手に委ねて乗り切った会社である。主力であるプログラマーが抜けるのはこの上ない大打撃だ。しかも隆則ほど文句を言わないプログラマーは少なく、会社としては彼ほど使い勝手の良い人材はいないし、コミュニケーション能力が多少低くてもそれを上回る能力で会社に貢献し続けてきた彼を喜んで手放すなど経営陣にはできるはずがなかった。
社長の怒号が鳴り響く中、上司と営業担当者が小さくなりながら頭を垂れている姿を見ても、勤務状況面・給与面すべてで改善を提示されても、一度折れてしまった心が元に戻ることはなかった。
「なんで俺が怒られなきゃなんねーんだよっ!」
トイレから自分の席に戻ろうとしたとき、フロアの一番隅にある給湯室から苛立った声が隆則の耳に飛び込んできた。男にしては少し高めの声は件の営業担当だろう。
(なんだあいつ、まだ社内にいるのかよ)
営業は朝のミーティングを終えると部長の方針で全員社内から放り出されるのが常で、就業間近まで帰ってくることはない。なのに、11時を前にして給湯室で喋っているのはさぼりかと呆れていると、叫びには続きがあった。
「アイツただのプログラマーじゃんか! SEでもないくせになんであんなに騒いでんだよ、所詮IT土方だろうがっ!」
(あぁ、なるほど)
こいつは肩書だけでしか物を見ていないのか。偉い奴にはヘコヘコして見下した人間にはとことんまで偉そうにするタイプかと納得しながら、だから自分に対してあれほどまでの無茶を通してきたのかと納得した。
クライアントから直接ヒアリングして仕様をまとめシステムの全体設計から進行管理までを統括して行うSEよりも、与えられた仕様書のプログラミングだけを行うプログラマーの方が格が下なのは確かだ。
「お前バカか? 五十嵐さんがただのプログラマーじゃないっての、社内で知らない人いないんだぞ。プログラミングする時間がなくなるからってSEになるの蹴ってるだけだし」
他に誰かいるのだろう、営業を嗜めるために情報を与えているようだ。
「あの人の仕事で営業利益の三割は持ってるようなもんだからな、その人辞めさせちゃった責任はデカいぞー」
情報を与えるだけではなく失敗を揶揄するなと諭したいが、ここで隆則が顔を出せば相手もいたたまれないだろうと、そ知らぬふりで通り過ぎようとした。
「そんなこと誰も教えてくれなかったっ!」
「お前がバカみたいにプログラマー見下してるからだろー、ざまぁ」
煽られてムキになったのか、営業が「言いつけてやるっ!」と叫び始めた。
「誰に? そういや、お前を必死でかばってた開発部の課長、降格だってな可哀想に。あの滅茶苦茶な変更をSE通さずに五十嵐さんに流したってだけでも大ブーイングなのに、仕様と出来上がりが別物レベルの変更させたなんてマジありえねーだろ。なんで変更にSE同行させなかったんだ?」
「俺だってあれくらいの変更仕様まとめられるっ!」
「それで大赤字だして五十嵐さん辞めさせるきっかけ作るとか、どんだけ無能なんだよ」
盛大に笑われた営業が顔を真っ赤にして給湯室から飛び出してきた。隆則の存在を確認するとギッと睨みつけてきたが何も言わずに営業部があるフロアへと走っていく。その後をゆっくりと新人時代に指導してきた後輩が出てきた。
「あ、五十嵐さんお疲れ様です!」
快活な彼のほうが営業やSEに向いているだろう、少なくともアイツよりはと思いながら片手をあげて返答する。
「……課長が降格って本当か?」
「相変わらず社内ゴシップに疎すぎ、五十嵐さん。降格だけで済んで御の字ぐらいに思ってもらわないとやってらんないですよ」
別の開発系部署に異動した彼には影響は少ないだろうが、それでも自分が辞めることでこんなにも大騒ぎになるとは思いもしなかった。
「迷惑かけて悪かったな」
「なに言ってるんですか。あんな仕様変更、普通ありえないっすよ。それを通したのは五十嵐さんの上司とアイツがデキてるからだしな」
アイツと先ほどの営業が走り去った後を顎で指した。
「は?」
「これも有名ですよ。可愛い恋人の営業成績をあげさせるために五十嵐さんに無理させたらしいって」
「ほんとかよっ!」
「五十嵐さん相手に冗談言ってもしょうがないでしょうが。それと、サーシングに引き抜かれたって噂もありますよ」
「なんだよそれ」
最近台頭してきたライバル企業の名前に思わず苦虫を噛み潰したような顔になる。会社の優秀なSEやプログラマーも引き抜かれそのしわ寄せが隆則に降りかかっていたのを嫌でも思い出す。過去に何度かヘッドハンティングの誘いを受けていたが、あのいかにもインテリですという若い社長の余裕ぶった態度が気に食わず、誘いを袖にし続けてきた。
「あ、違うんですね良かった! 辞めた後、どっかにいくんですか?」
「……フリーでやる」
元々趣味でやり続けてきたプログラミングまで嫌いになったわけではないし、独り身の身軽な立場だから無駄遣いさえしなければ月に2~3件の依頼で充分に食べていけると試算し、フリーになる決意をした。
「だったら辞める五十嵐さんから可愛い後輩の俺のお願い聞いてくださいよぉ」
自分よりもずっと上背のある後輩が可愛いとは思わないが、頼まれると断れない性分でつい「なんだ」と言ってしまう。
「俺の依頼は最優先に引き受けてくださいっ! 無茶な仕様変更なんてしないですし五十嵐さんのスケジュール最優先にしますから!」
「お前、まだSEにもなってないだろ」
「来年にはなる予定なので。俺の持ち駒の一つになってくださいお願いします!」
どれだけ優秀なプログラマーを抱えているかもSEにとって大事なことだ。だが会社という枠の中にいるなら必要ないだろう。この会社にだってたくさんプログラマーがいるのだから、元先輩に頼らなくてもと思ってしまう。
人の感情を読み取るのに長けている後輩は瞬時に言葉を並べた。
「五十嵐さんが抜けた開発部は人材かっすかすになるの目に見えてます。俺レベルが10人育つまで難しい案件はある程度外部委託になるはずなんです。だから頼んます!」
なるほど、と会得した。むしろ、今までバランスが悪かった部分が露呈したともいえるだろう。隆則一人にかかる負荷が大きすぎて後進を充分に育てきれなかった指導不足を今後どう改善させるかが課題になるだろう。すぐにレベルアップなんてできないから、後輩の言うように、彼らが育つまで一部を外注しなければ今の受注量をこなすことはできないだろう。
(こいつ、いいSEになりそうだな)
自分が育てた後輩が、これからどう育つのか楽しみだが、近くでその成長が見れないのは残念でもあった。
「わかった。最優先かどうかはわからないが、困ったときはいつでも連絡しろ」
「ありがとうございます! 頼りにしてますから」
「……まさか辞めた直後に仕事寄越すのだけは勘弁だからな。少しは休ませてくれ」
「あー、じゃあ辞めた二週間後から解禁ということで」
元気よく答える後輩に苦笑して、了承の意味を込めて手をあげながら彼に背中を向け自分の自分のデスクのあるフロアへと入っていった。席に着けば、少し離れた場所から上司が恨みがましい目で見てくるが、気にしないで今抱えている仕事を終わらせていく。さすがに途中まで組んだシステムを放棄して会社を辞めるわけにはいかないし、今後運用するためのマニュアルの作成もある。個人的恨みを相手にする暇はなかった。
何よりも。
(今日はなるべく早く帰ろう)
そしてあの牛丼屋に行くんだ。もしかしたら彼に会えるかもしれないし、会えたら気持ちに整理が付けたお礼も言いたい。
いや、九にお礼を言われるのは彼も困るだろう、なにせ味噌汁飲んで急に泣き出した客だ、気持ち悪がられるのは必須で、とてもじゃないが自分でも気持ち悪いとしか言いようがない。
でもどうしてか、彼に無性に会いたい。
「……別に好きとかそういうんじゃなくて……」
パソコンに向かいキーボードを叩きながらぼそりと呟く。
確かに自分はゲイだ。恋愛対象が異性に向かないのは多感な高校生の時に気がつき、それ以降も女性に興味を持たず彼のような綺麗な男に見惚れてしまう自分を自覚して、時間のある時は新宿二丁目に通ったりしていた。だがヒョロヒョロで顔もパッとしないプログラミングが唯一の趣味である隆則は、モテなかった。悲しいくらいにモテず、未だ恋人を持てたためしはないし、童貞(バージン)卒業できたのもプロに金を払ってである。
そんな隆則が好意を抱くには、牛丼屋の彼は上質すぎた。
(あれはどう見たってノーマルだから、俺なんかまず眼中にないか)
カチャカチャコマンドを打ち続けながら、頭の片隅で彼のことを考えてしまう。
誰からも好感を抱かせる雰囲気の良い笑顔に整った顔立ちそして180cmの長身、これだけでも異性にはモテるだろうが、しっかりと付いた筋肉は同性にも人気はあるだろう。なにせ二丁目には逞しい筋肉隆々のごつい男を啼かせたくて仕方ない人間が多く存在している。
彼の性癖がどちらに転ぼうが、自分が相手にされることはないと隆則自身が一番よく分かっている。
だから、あくまでも鑑賞するだけ、ちょっと親しくなれたならラッキーだ。
(でもあの顔と腕は理想だな……)
少し甘さのある優しい表情に見つめられるだけで隆則の下肢は疼いてしまう。その上少し筋肉の浮き出た腕に抱かれたならと夢想してしまうほどの逞しさはただただ羨ましい。どんなに運動しても、その後仕事で削げ落ちてしまう隆則はただただ憧れるだけだ。
(憧れるのは勝手だよな)
自分よりもずっと年若い男が自分の恋人になればなどと夢見ることなど最初から放棄している。
それより少しでも話す機会があれば、それだけで充分だ。むしろ、柱の陰から時々見れれば満足。下半身の処理はプロか自分の手ですればいいだけだ。
(そういえば最近抜いてないな……)
今夜あたりちょっとエロサイト観ながら自己発電でもするかとぼんやり考えながら、着々と難しい言語を入力していった。
49
お気に入りに追加
792
あなたにおすすめの小説
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
いつの間にか後輩に外堀を埋められていました
雪
BL
2×××年。同性婚が認められて10年が経った現在。
後輩からいきなりプロポーズをされて....?
あれ、俺たち付き合ってなかったよね?
わんこ(を装った狼)イケメン×お人よし無自覚美人
続編更新中!
結婚して五年後のお話です。
妊娠、出産、育児。たくさん悩んでぶつかって、成長していく様子を見届けていただけたらと思います!
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
しっかり者で、泣き虫で、甘えん坊のユメ。
西友
BL
こぼれ話し、完結です。
ありがとうございました!
母子家庭で育った璃空(りく)は、年の離れた弟の面倒も見る、しっかり者。
でも、恋人の優斗(ゆうと)の前では、甘えん坊になってしまう。でも、いつまでもこんな幸せな日は続かないと、いつか終わる日が来ると、いつも心の片隅で覚悟はしていた。
だがいざ失ってみると、その辛さ、哀しみは想像を絶するもので……
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる