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書籍化記念
Happy Lovely Christmas 8
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「せっかくだから、ワイシャツとネクタイも揃えた方が良いな」
サーシングのパーティの時に用意したドレスシャツと、大学の入学式に身につけたという既製品のワイシャツがあるが、このスーツを身につけるなら、彼の身体に合った物の方が良いだろう。
柾人は控えていたスタッフを呼び、ワイシャツとカラーシャツを追加でオーダーし、慣れた店内の入り口付近に置かれたネクタイコーナーで、朔弥に似合いそうなものを数本選び、店員に渡していく。
同時に靴もオーダーするかと形を眺めていると、いつの間にか採寸を終えた朔弥が厳しい声を掛けてきた。
「これ以上はダメですよ」
「……なにがだい?」
「今、靴もと考えてませんか? 以前に柾人さんに買って頂いた靴がたくさんあるんです、これ以上は必要ありませんから」
先手を打たれ、柾人はそっと先の尖った革靴を棚に戻した。ここで無理にでも一足注文すれば、次の計画が頓挫しかねない。ワイシャツとネクタイのことは伏せて諦めるポーズを取った。
「わかった。スーツだけにするよ、なにせ朔弥の誕生日と就職の祝いだから」
「え? あ……そうだったんですね」
「当たり前だろう。こういう特別なこともなければ贈り物を断るからね、朔弥は」
本当に欲がない。もっと贅沢をしようとは考えず身の丈に合った生活を心がける彼に、好感を抱く一方でもどかしさも強くなる。もっと求めてほしいし甘えてほしいのだが、そんな目の前の欲に囚われないからこそ、のめり込んでしまうのだ。もっと彼の歓心を得ようと様々な手を講じて。
「仕事で着るのだから三着はあった方が良いだろう。同じ色合いでトーンを変えてほしいのですが」
後半はオーナーに向けて言えば、変わらぬ笑みのまま小さく頷いた。
「そんなっ一着で充分です!」
「そういうわけにはいかない。これからスーツが朔弥の制服になるんだ。私も大学を卒業する際に、咲子様にここで同じ数を買って頂いたが、実際着るようになって過不足を感じなかった」
「……そう、なんですね」
咲子の名前を出すと途端に朔弥が諦めた表情になった。さては、冬期休暇が終わったらスーツを見に行こうと彼女に声を掛けられていたのだろう。先手を打って正解だ。出し抜かれたと帰国後にクレームの電話を覚悟して、だがどうしても譲れない。朔弥が身につけるのはどれだって自分が贈った物であってほしい。
男のささやかな独占欲だ。
敬愛する咲子であってもこればかりは譲れない。
オーナーが新たに、先程選んだものより少しばかり濃い色と淡い色の生地を手に朔弥の身体にかけていく。どれも彼の繊細さを強調して良い塩梅だ。
サーシングのパーティの時に用意したドレスシャツと、大学の入学式に身につけたという既製品のワイシャツがあるが、このスーツを身につけるなら、彼の身体に合った物の方が良いだろう。
柾人は控えていたスタッフを呼び、ワイシャツとカラーシャツを追加でオーダーし、慣れた店内の入り口付近に置かれたネクタイコーナーで、朔弥に似合いそうなものを数本選び、店員に渡していく。
同時に靴もオーダーするかと形を眺めていると、いつの間にか採寸を終えた朔弥が厳しい声を掛けてきた。
「これ以上はダメですよ」
「……なにがだい?」
「今、靴もと考えてませんか? 以前に柾人さんに買って頂いた靴がたくさんあるんです、これ以上は必要ありませんから」
先手を打たれ、柾人はそっと先の尖った革靴を棚に戻した。ここで無理にでも一足注文すれば、次の計画が頓挫しかねない。ワイシャツとネクタイのことは伏せて諦めるポーズを取った。
「わかった。スーツだけにするよ、なにせ朔弥の誕生日と就職の祝いだから」
「え? あ……そうだったんですね」
「当たり前だろう。こういう特別なこともなければ贈り物を断るからね、朔弥は」
本当に欲がない。もっと贅沢をしようとは考えず身の丈に合った生活を心がける彼に、好感を抱く一方でもどかしさも強くなる。もっと求めてほしいし甘えてほしいのだが、そんな目の前の欲に囚われないからこそ、のめり込んでしまうのだ。もっと彼の歓心を得ようと様々な手を講じて。
「仕事で着るのだから三着はあった方が良いだろう。同じ色合いでトーンを変えてほしいのですが」
後半はオーナーに向けて言えば、変わらぬ笑みのまま小さく頷いた。
「そんなっ一着で充分です!」
「そういうわけにはいかない。これからスーツが朔弥の制服になるんだ。私も大学を卒業する際に、咲子様にここで同じ数を買って頂いたが、実際着るようになって過不足を感じなかった」
「……そう、なんですね」
咲子の名前を出すと途端に朔弥が諦めた表情になった。さては、冬期休暇が終わったらスーツを見に行こうと彼女に声を掛けられていたのだろう。先手を打って正解だ。出し抜かれたと帰国後にクレームの電話を覚悟して、だがどうしても譲れない。朔弥が身につけるのはどれだって自分が贈った物であってほしい。
男のささやかな独占欲だ。
敬愛する咲子であってもこればかりは譲れない。
オーナーが新たに、先程選んだものより少しばかり濃い色と淡い色の生地を手に朔弥の身体にかけていく。どれも彼の繊細さを強調して良い塩梅だ。
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