冴えない大学生はイケメン会社役員に溺愛される

書籍化記念

Happy Lovely Christmas 1

　年末の忙しない時期の最中に久しぶりに取れた休暇はインターフォンの音から始まった。パタパタと廊下を走る音が聞こえる。

　手を伸ばせばいつもの場所にあるはずの愛おしい身体はなく、僅かに残っている温もりだけが掌に伝わってくる。サイドチェストに置いてあるデジタル時計を手に取れば、間もなく昼になろう時間が表示されている。

「寝過ぎてしまったな」

　柾人はゆっくりと身体を起こすと、カーテンが引かれた窓を見た。隙間からは冬の柔らかい陽光が差し込んで、今日も冬晴れの空が広がっていることを教えてくれていた。ベッドから下り、カーテンを勢いよく開けたっぷりの日差しを室内に取り込んだ。

　リビングへと続くスライドドアが開く。

「あっ、起きたんですね」

　身なりを整えた朔弥がふわりと柔らかい笑みを浮かべた。それを目にしただけで柾人の表情も和らぐ。彼に向け両手を広げれば、少しはにかんだ笑みに変え近づいてきた。

「おはよう朔弥。随分と早起きだね」

「もうすぐ十一時ですよ。柾人さんがなかなか起きないので心配でした」

　抱きとめると恥ずかしそうに身体を寄せてきた。

　戸籍上、柾人の養子になってもうすぐ一年。この家で一緒に暮らすようになってかなり経つというのに、未だに恥ずかしさを取り払えない様が愛らしく、僅かに赤味を帯びた頬にキスを落とす。

　擽ったそうに首を竦めはにかんだ。恋人同士が抱き合っているというのに、細い手は背中に回ることはなく、柾人のパジャマを小さく握るに留まっている。

　物慣れない仕草がいつまで経っても柾人を夢中に、同時に焦燥を掻き立てるとも知らずに。その手が自然と背中に回り、強く抱きしめてくれるようにと願いながらも、気持ちは今日明日でも良いんだと急かしてしまいそうになる。

「柾人さんがオーダーしたオードブルが届きましたよ。凄い量ですけど、誰か招待しているんですか？」

「ん？　二人で食べようと思ってね。近頃忙しくてまた朔弥が食事を摂ってないようだから」

「……気付いてたんですね」

　わからないはずがない。

　忙しくなると自分のことを疎かにする朔弥は、すぐに食事を抜きがちになる。年末のこの時期、忙しないのはどこも同じだが、蕗谷社長の母がやっているNPO法人に出入りしている朔弥も大学と両立しながら経営を学び、資格の勉強もしている今の彼には寸暇すら惜しいのはわかる。柾人も学生時代同じように大学の課題と咲子からの課題、そして蕗谷立ちとやっていたシステム開発で寝る時間を削っていたから。けれど、自分ならばいいが、朔弥にはしっかりと食事と睡眠を取ってほしい。なにせ目を離すと倒れてしまうのではないかと心配になるくらいに細くなってしまうから。