冴えない大学生はイケメン会社役員に溺愛される

書籍化記念

柾人が嫉妬をした夜は19

「あの、真由里さんありがとうございます……でもそろそろ……」

　なんとか場を取り繕うと朔弥が声を掛け、持ってきたミーのための籐の籠を差し出すが、愛らしい仕草にメロメロになっている宮本はちっとも気付かない。

「こんなに懐く子めずらしいですぅ、もううちの子になろうよぉミーちゃん」

　顔を思いっきり擦り付ける宮本に言葉もなく睨み付けるが、柾人を煽るのが楽しいのか、それともミーの魅力に取り付かれて本当に気付かないのか、手放そうとしない。

「宮本、いい加減にしろっ！」

「やぁだー、飼い主怖ーい」

　柾人の怒声を意にも介さず美しい長毛を撫で始めた。柾人がしたなら確実にミーから猫パンチを食らうのに。

「あの、真由里さん。そろそろその辺で……」

「だぁってー、ミーちゃんが離れたくないって言ってますよー。どーせ社長が朔弥くんに意地悪したから帰りが遅くなったんですよねぇ」

「ちがっそういうわけじゃないですよ」

「えー、でも朔弥くん。へっぴり腰だよぉ」

　今朝帰ってきたばかりの朔弥の腰は、愛されすぎたせいで、確かに元通りと言うには程遠いが、すべて言い当てられているが、だからといってミーを手放さない理由にならない。

「うちの娘を返せ！」

「あー、しゃちょーがこわいですぅ。もう朔弥くんもミーちゃんと一緒にうちに避難しよう、それがいいよぉ」

　あまつさえ朔弥の腕を引っ張って室内に引きずり込もうとしている。

「いいかげんにしろーっ！」

「キャー、やっぱり怖いから避難しにおいで、朔弥くん」

　揶揄われているとわかっているが、大切な朔弥と二人の娘と位置づけているミーを取られそうになって大人な態度など取れるはずもなく。

　感情のままに怒鳴り声を上げた。

　そして宮本から引き離されたミーが数日、柾人に怒りの猫パンチを繰り広げるのだが、淋しくて怒っているのだと思い込んでいる柾人は、甘い声を上げニヤけた顔でおやつを与えては朔弥に叱られるのだった。