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書籍化記念

柾人が嫉妬をした夜は17

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「だから言っただろう、起き上がれなくなると」

 翌朝、突っ伏したまま動けずにいる朔弥に笑いかけて、柾人は久しぶりに腕枕をしたまま、筋肉がちっとも付かない身体を抱きしめた。

 こんな朝を迎えるのは本当に久しぶりで、何度も何度も朔弥の柔らかい髪にキスを落とす。

「……こんなになるなんて、思わなかったんです」

 柾人の首に顔を埋めた朔弥が恨みがましい声を上げる。足腰が立たなくなるまで抱くのは久しぶりだ。

 社会人になってからは仕事を覚えるのに必死な彼の邪魔にならないようずっとセーブし続けてきたし、自分の傍にいるために頑張るその姿を見るだけで心が満ちていた。

 愛しすぎて愛しい人を失う不安がなくなれば、あれほどまでに閉じ込め相手の世界を自分だけにしたいとがむしゃらになっていたのが嘘のように、心に余裕が生まれた。

 かつて和紗が口にした「扉を開けても戻ってくる関係」が成り立ったからだろうか。

 彼が自分の愛し方を受け入れ喜んでくれたから。

 柾人のために頑張りたいと言われれば嬉しくなり、どうすれば自分が彼の妨げにならないかと考えて、情欲をぶつけるのをセーブしてきた。

 しかし、元は自分の手で愛しい人をどこまでも悦ばせたい質は変わらない。

 昨夜のどこまでも自分への気持ちを伝えてくれた朔弥が愛おしくて、朔弥が気を失うまで止めることができなかった。久しぶりに腕の中で力を無くし寄りかかる朔弥を見たとき、どれほどの幸福を感じたか。

 身体中にキスマークと噛み跡を付けられているのに、それが嬉しいなんて言われて舞い上がらないわけがない。

 今も充足感が心に満ち溢れ、宴席で感じた怒りすら消え失せている。

「私の愛は重いと言っただろう」

 重すぎて裸足で逃げ出したかつての恋人たちの顔など、何一つ思い出せない。それくらい心は朔弥だけに占められている。

「それが嬉しいと言ってくれたのは、朔弥だろう」

「そうですけど。でも……」

「でも?」

「……まだ柾人さんが中にいるみたい……」

 腕の中で朔弥が細い身体を動かせずにいるのはそれが理由かと合点して、笑った。

 この子は未だに男の欲情をわかっていない。

 朝からそんな煽るような言葉を囁かれてどうしてじっとしていられようか。

 今日中に帰れないのは確定している。なにせ、乗る予定だった飛行機はもう東京に着いている時間なのに、未だに二人とも一糸まとわぬ姿のまま、ベッドに潜っている。

「朔弥はまだ愛され足りないようだね」

「え?」

 男の恋情に疎い恋人がキョトンとした顔を向けてきた。こういうときばかり昔と変わらない無垢で隙だらけだ。
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