冴えない大学生はイケメン会社役員に溺愛される

書籍化記念

柾人が嫉妬をした夜は10

　柾人がこんな風に自分の想いを曝け出すのはいつの頃からだろうか。

　彼は気付いているのか、本音を見せる相手が限られていることに。

　会社では常に仮面を被り鷹揚に振る舞っており、時折弱さを見せる場面もあるがそれだって計算ずくだ。相手の心を和らげるためだけで、その心の内は知己である数人にしか見せてはいない。

　蕗谷と和紗だけに見せていたその顔を、近頃は朔弥にも見せてくれるようになった。

　それが嬉しいと口にしたら、きっと彼は元の態度に戻るだろう。

　自分のことには頓着しない人だから。

　朔弥に心を許してくれているが、どこかで庇護対象だから頑張らなければならないと常に気を張っているところがある。

　昔はそうだっただろう、何も力を持たなかった朔弥は守られなければ自分のしたいこと言いたいこと一つできない子供だった。

　けれど今は違う。

　柾人の背中を追いかけ、彼の隣に立つために頑張ってきた。

　今回だって新規販路の獲得の道筋を着けるために、会長である蕗谷の母堂である咲子に教わったマーケティング術で新たにサーシングのシステムを望む会社を導きだし、機会を覗っていた。経済誌に新システムが取り上げられたタイミングでアプローチを掛ければ、いち早く担当が食いついてくれた。

　嬉しかった、自分が少しでも柾人の役に立てているのが。

　本来は営業部が行うことだが、元々ＳＥをしていた人間を集めて営業部という形を取っただけで、営業のノウハウはない。これから規模を拡大していくための足がかりとして、この案件は何よりも大切だった。

　柾人の怒りはわかる。

　誰よりも大事にされているからこそ、彼が許せないのも。

　けれど、自分だってもう流されるばかりの子供じゃない。

　柾人を守れるほどではないが、自分の身は守れるほどに強くなっている。

　もし、取引先の重役が境界線を踏み越えたなら、自力でどうにかできるほどには計算高くなっている。

　けれど、柾人にとって自分はまだ、五年前の利用されて捨てられた子供のままのようだ。もうそんなに弱くはないと何度伝えてもわかって貰えない。

　今回の仕事ぶりで彼からその評価を得ようと思ったが、怒りに囚われた今、どうやって落ち着かせるか……。柾人のしたいようにさせてたら、自分が狂ってしまう。

　朔弥は愛しい身体を跨ぎ、二人が繋がるための蕾に指を含ませている。

　すべてを見られ恥ずかしいけれど、止めるなんてできない。

　胸への愛撫だけで遂情した身体はもう収まりが付かなかった。

　これでまたそこばかりを刺激され煽られては本当におかしくなってしまう。