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書籍化記念
柾人が嫉妬をした夜は5
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切り落とされた爪の先まで愛おしくて狂いそうだというのに、欲望の対象に見られるなど許せるはずがない。
「仕事なんかさせなければ良かった……」
苛立ちが収まらず、思わず本音が漏れるのは、きっと注がれるがままに流し込んだアルコールのせいだ。朔弥と付き合い始めてから規則正しい生活を送っていたおかげで病気とは無縁になったが、アルコールに弱くなってしまった。
高揚した心は負の感情まで膨張させ、本音を抑えきれなかった。
決して口にしてはいけない言葉。
頭ではわかっていても、感情が止まらなかった。
「それは、言わないでください」
「だが、朔弥があんなことをされるとわかってるならっ!」
「言わないでください」
朔弥がその指で柾人の唇を撫でた。厚みのある肉を摘まみ、玩び始める。こんなことは初めてで、柾人は噤むしかない。じっと横たわる朔弥を見つめた。
「何の目標も持たなかったオレが、やっと見付けた大事な仕事なんです。やらせてください」
「……」
「柾人さんと出会ったから、オレは初めて自分から何かをしようと思ったんですよ。柾人さんがいなかったら今頃何をしていたかすらわからないんです……助けられたんですよ、オレ」
昔のように小首を傾げる仕草に、ドキリとする。あの頃は愛らしく感じたのに、同じ事をしているはずなのになぜこれ程までに妖艶なんだ。
赤味の強い唇も大きな目も変わっていないはずなのに、五年も彼を見続けた柾人ですらドキリとするほどの色香が纏わり付いては柾人の理性を絡め取ろうとする。僅かに上目遣いなのもずるい。
「今のオレの生きる希望なんです、公私ともに柾人さんの隣にいるのは……だから続けたいんです。わがまま、きいてくれますか」
指がするりと柾人の口内に入り舌の上をなぞった。去って行こうとする爪を甘噛みし、腹を舐めてから解放する。
「そうやって言うのは、卑怯だ」
「いつも柾人さんがオレに言っていることですよ」
自覚は、ある。自分の希望を朔弥に通すためにこんな言い方を繰り返しては、優しい朔弥が否と言えないようにしていた。こんなにずるい言葉だったとは気づきもせず。
「……もう使えなくなってしまうだろう」
「使ってくれていいんですよ。オレも使いますから」
いたずらが成功した子供のように笑って、朔弥が柾人の肩に顔を寄せてくる。甘い香りが鼻腔を擽った。同じシャンプーを使っているのになぜ朔弥だと薫香へと変わるのだろう。柔らかい髪に顔を埋め、肺いっぱいにそれを吸い込む。
「仕事なんかさせなければ良かった……」
苛立ちが収まらず、思わず本音が漏れるのは、きっと注がれるがままに流し込んだアルコールのせいだ。朔弥と付き合い始めてから規則正しい生活を送っていたおかげで病気とは無縁になったが、アルコールに弱くなってしまった。
高揚した心は負の感情まで膨張させ、本音を抑えきれなかった。
決して口にしてはいけない言葉。
頭ではわかっていても、感情が止まらなかった。
「それは、言わないでください」
「だが、朔弥があんなことをされるとわかってるならっ!」
「言わないでください」
朔弥がその指で柾人の唇を撫でた。厚みのある肉を摘まみ、玩び始める。こんなことは初めてで、柾人は噤むしかない。じっと横たわる朔弥を見つめた。
「何の目標も持たなかったオレが、やっと見付けた大事な仕事なんです。やらせてください」
「……」
「柾人さんと出会ったから、オレは初めて自分から何かをしようと思ったんですよ。柾人さんがいなかったら今頃何をしていたかすらわからないんです……助けられたんですよ、オレ」
昔のように小首を傾げる仕草に、ドキリとする。あの頃は愛らしく感じたのに、同じ事をしているはずなのになぜこれ程までに妖艶なんだ。
赤味の強い唇も大きな目も変わっていないはずなのに、五年も彼を見続けた柾人ですらドキリとするほどの色香が纏わり付いては柾人の理性を絡め取ろうとする。僅かに上目遣いなのもずるい。
「今のオレの生きる希望なんです、公私ともに柾人さんの隣にいるのは……だから続けたいんです。わがまま、きいてくれますか」
指がするりと柾人の口内に入り舌の上をなぞった。去って行こうとする爪を甘噛みし、腹を舐めてから解放する。
「そうやって言うのは、卑怯だ」
「いつも柾人さんがオレに言っていることですよ」
自覚は、ある。自分の希望を朔弥に通すためにこんな言い方を繰り返しては、優しい朔弥が否と言えないようにしていた。こんなにずるい言葉だったとは気づきもせず。
「……もう使えなくなってしまうだろう」
「使ってくれていいんですよ。オレも使いますから」
いたずらが成功した子供のように笑って、朔弥が柾人の肩に顔を寄せてくる。甘い香りが鼻腔を擽った。同じシャンプーを使っているのになぜ朔弥だと薫香へと変わるのだろう。柔らかい髪に顔を埋め、肺いっぱいにそれを吸い込む。
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