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書籍化記念
柾人が嫉妬をした夜は3
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これが怒らずにいられようか。
「何もされませんでしたよ」
「当たり前だ、何かしていたら今頃半殺しになっている」
「また笑えない冗談を……」
「冗談じゃないっ!」
そうでなくとも、朔弥は魅力的だ。大学生の頃ですら柾人を魅了してやまない雰囲気を纏っていたが、社会に出て自信が付いたのか、余裕を含んだことによってさらに人目を惹くようになった。本人曰く大人っぽさを演出するために掛けるようになった眼鏡も、彼の線の細さと顔の美しさを強調している。
だがそのすべては柾人のものだ。
柾人だけのものだ。
パジャマに包まれた細い腰を抱く。今回の出張のために残業が続いたせいか、また痩せてしまったようだ。
「朔弥に触る人間がいるような会社なんて信頼できない」
「女性社員じゃないんです。ちょっと触られたくらいどうってことないですよ」
全く自覚がないのがまた問題だ。
朔弥は特種な性癖の人間を引き寄せる素地があるとちっとも理解していない。
初めて話したときだって、新宿二丁目のバーにはすでに彼を狙って舌なめずりをしていた人間が多くいた。
細い身体を組み敷き泣かせようと腕を撫していたに違いない。もしあの日、柾人があの場にいなければ、今頃朔弥はどうなっていたか。相手を痛めつけて楽しむような趣味の人間に持ち帰られ、誰にも会うことを許されず閉じ込められていたかもしれない。
もしくは、多数に弄ばれ性欲発散の道具にされていただろう。
澄ました顔を歪ませ泣かせたいと思わせるのだ、朔弥は。
そうとわかっていてずっと守りたいと願い、今も彼を守り続けていると自負している柾人には、今日の宴席は許せなかった。大切な朔弥を穢されたように思えるからだ。
「駄目だっ」
「怒らないでください、オレは気にしてませんから」
「私が気にするんだ……だから取引はっ」
「私情を挟まないでください、柾人さんらしくないですよ」
細い指が頬を辿り、掌が包み込む。
「そんなことをしても、私は絆されないぞ」
「絆されてください。オレのことは大丈夫です、いざというときは咲子様に連絡しますから」
「……」
柾人も頭が上がらない人間の名を口にされては噤むしかない。
確かに、大財閥の総帥夫人である咲子は可愛がっている朔弥が今晩のようなことをされたと耳にしたら、その者が地獄に落ちるまで許しはしないだろう。嫋やかな容姿に反して容赦ない判断を下す咲子ならば、柾人が手を下すよりもずっと哀れな目に遭うだろう。
「何もされませんでしたよ」
「当たり前だ、何かしていたら今頃半殺しになっている」
「また笑えない冗談を……」
「冗談じゃないっ!」
そうでなくとも、朔弥は魅力的だ。大学生の頃ですら柾人を魅了してやまない雰囲気を纏っていたが、社会に出て自信が付いたのか、余裕を含んだことによってさらに人目を惹くようになった。本人曰く大人っぽさを演出するために掛けるようになった眼鏡も、彼の線の細さと顔の美しさを強調している。
だがそのすべては柾人のものだ。
柾人だけのものだ。
パジャマに包まれた細い腰を抱く。今回の出張のために残業が続いたせいか、また痩せてしまったようだ。
「朔弥に触る人間がいるような会社なんて信頼できない」
「女性社員じゃないんです。ちょっと触られたくらいどうってことないですよ」
全く自覚がないのがまた問題だ。
朔弥は特種な性癖の人間を引き寄せる素地があるとちっとも理解していない。
初めて話したときだって、新宿二丁目のバーにはすでに彼を狙って舌なめずりをしていた人間が多くいた。
細い身体を組み敷き泣かせようと腕を撫していたに違いない。もしあの日、柾人があの場にいなければ、今頃朔弥はどうなっていたか。相手を痛めつけて楽しむような趣味の人間に持ち帰られ、誰にも会うことを許されず閉じ込められていたかもしれない。
もしくは、多数に弄ばれ性欲発散の道具にされていただろう。
澄ました顔を歪ませ泣かせたいと思わせるのだ、朔弥は。
そうとわかっていてずっと守りたいと願い、今も彼を守り続けていると自負している柾人には、今日の宴席は許せなかった。大切な朔弥を穢されたように思えるからだ。
「駄目だっ」
「怒らないでください、オレは気にしてませんから」
「私が気にするんだ……だから取引はっ」
「私情を挟まないでください、柾人さんらしくないですよ」
細い指が頬を辿り、掌が包み込む。
「そんなことをしても、私は絆されないぞ」
「絆されてください。オレのことは大丈夫です、いざというときは咲子様に連絡しますから」
「……」
柾人も頭が上がらない人間の名を口にされては噤むしかない。
確かに、大財閥の総帥夫人である咲子は可愛がっている朔弥が今晩のようなことをされたと耳にしたら、その者が地獄に落ちるまで許しはしないだろう。嫋やかな容姿に反して容赦ない判断を下す咲子ならば、柾人が手を下すよりもずっと哀れな目に遭うだろう。
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