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第二章 番外編

番外編:ミーが死んだ日 5 ☆

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「ぁ……っ」

 僅かに離れた隙間から甘い声を零し、それを掬うように角度を変えてまた柾人の唇が合わさってくる。同時に大きな掌がスラックスの上から臀部を揉みしだかれ、一層と息が甘くなる。

 柾人はもう朔弥を抱くことに飽きたのだろうと勝手に結論づけていたが、想像よりもずっと重い熱量をぶつけられ、愛されているんだと実感する。こうして遮二無二に貪られるだけで興奮するほど柾人の愛情を感じられるのに、すぐに不安になる自分が馬鹿らしくなる。

「久しぶりだからね……このままここでするかい? それともベッドが良い?」

 唇を挟みながら訊ねられ、朔弥ははぁと熱い吐息を漏らしながらキスだけで堅くなった分身を柾人へと押しつけた。

「も……ほしぃ」

「いいこだ」

 三十後半になっても定期的にジムで身体を鍛えている柾人は、ひょいと相変わらず細い朔弥の身体を抱き上げると、しばらく二人で座ることのなかったソファへと腰掛けた。

 ミーが死んでからそこに座ると柾人が悲しい表情をするようになってから、なるべく腰掛けないようにしていた。そしてミーがいた頃は、見られるのが恥ずかしくてセックスはいつもベッドでしていたから、少し新鮮だ。

「こうして朔弥の服を脱がすのも久しぶりだ」

 スーツを落とされ、ワイシャツのボタンが一つ一つ外される。

「んっ……ぁぁ」

 偶然を装って長い指が胸の飾りを掠めると、敏感になったからだが跳ねた。

「久しぶりすぎて忘れてしまったな……朔弥はどこが感じるか私に教えてはくれないか」

 首筋を舐められながら、大きな掌が肌着の上から身体をまさぐってくる。だが知っているはずの感じる場所は微妙に外され、そのもどかしさに腰が揺れる。

「ここ……だったかな?」

「ちがぁっ……そこもっとぉ」

 自分から柾人の唇を胸の飾りに導いて、肌着の上から噛むようにねだる。少しの意地悪を何度かされて興奮し尖ったそれを噛まれ、朔弥は久しぶりに味わう背筋の痺れにドクンと分身を膨らませ身体を跳ねさせた。

「ぃいっ!」

「あぁここだったね、朔弥の感じやすい場所は。こうして噛まれるのが好きだったね」

「ひっ……そこっ」

「ああ分かっているよ。朔弥は少し乱暴に弄られるのが好きでここだけで達けるんだ」

「ぁっ……ま、さと……さんっ!」

 肌着の上から敏感な胸の飾りをグミのように噛み、ねっとりと舌で嬲ってから歯で引っ張られる。痛いはずなのに、柾人の愛撫に慣れた身体は、しばらくのブランクすらものともせずに快楽を全身に行き渡らせる。欲張りな腰がすぐに揺らめき、力を持った分身を柾人の身体に擦り付けていく。

「久しぶりにこのまま達こうか」

「ゃっ……だめっだめですぅ」

 柾人が意地悪になるとよく下着を着けたまま達かされていたことを思い出す。彼もこうしたかったのだろうか。ミーを亡くして朔弥が気落ちしていると考えてずっと我慢していたのだろうか。だとしたら、酷いことをしていたのは朔弥自身だ。平気だと思っていたミーの死を仕事で紛らわせていたのかも知れない。柾人はそれを感じ取ってそっとしてくれていたことすら気付かなかった自分の視野の狭さが憎くなる。

 柾人の手が触れればこんなにも簡単に昂ぶってしまう身体なのに。

 きっと自分の方が彼を求めていて、それが露わになるのが嫌だったのだ。最初にミーを見つけようとする柾人と同じように、何かにムキになっていたのだろう。

 二十代後半にさしかかってなお、愛されたがりの自分がいる。

 もうすぐ初めて会ったときの柾人と同じ歳になろうとしているのに、彼のような威厳も大人の余裕もない自分に焦っていたのかも知れない。

 比べるものでもないのに。

 執拗に胸を可愛がられ、すぐにでも柾人が欲しくなる。寝室ではなくリビングで求めてしまったとき、どうすべきかは分かっている。するりとソファから身体を下ろした。

「ん、どうしたんだい?」

 無言のまま柾人の足の間に入り、スラックスの前を寛げ少し下ろす。朔弥を可愛がっているだけで熱く堅くなっている欲望が飛び出し薄い唇を叩いた。

「ぁ……」

 久しぶりに目にするそれに、甘い吐息が漏れる。

 どこまでも朔弥を狂わす欲望に口づけを贈り、躊躇うことなく口内へと招き入れ、持ちうる限りのテクニックでさらに逞しくしていく。

「こんないやらしい朔弥を見るのは久しぶりだ……こういうことをしていても君は綺麗なままだね」

 違う、ちっとも綺麗じゃない。

 無意識に柾人に甘え、周囲に甘え、それに気付かずに利用までする自分は、少しも綺麗じゃない。むしろ捨てられたっておかしくない存在だ。なのに、柾人は本当に愛おしそうに欲望を咥えている朔弥の頬を撫でてくる。眦が、仔猫を見つめていたときよりもずっと下がり、興奮していることを教えてくれる赤味がさしている。

 もっと悦んで欲しくて舌技を施せば、柾人の吐息も少しずつ上がっていく。

「私にも朔弥を可愛がらせてくれ」

 導かれ、ソファに横たわった柾人の身体を跨ごうとする朔弥を手で押しとどめ、ベルトに手を掛ける。急いて自分がまだスラックスを纏っていることを忘れていた朔弥は頬を紅潮させた。

「ぁ……」

 下着ごと脱がされたスラックスはソファの下に丸まったままでも気にする余裕がなかった。早く柾人が欲しくて自分から彼を跨ぎ、またたっぷりと柾人を悦ばせることに専念する。だがすぐにそれができなくなった。

「ぃっ……ぁぁぁっ、それだめぇぇぇぇぇ」

「どうしてだい? 朔弥はこれが好きだっただろう……私の覚え違いかい?」

「ひっ!」

 分身を舐めながら蕾を擽られ、朔弥の腰が跳ねた。柾人の唾液で濡らしたのだろう二本の指は容赦なく受け入れることに慣れた身体を暴き、同時に分身を苛んでくる。

 胸への刺激だけでパンパンに張った朔弥にはそれが辛い。柾人と付き合うようになってから彼の目の前でしか達くことが許されないから、久しぶりすぎてより我慢が効かない。それが分かっているのに、容赦なく朔弥の快楽を引きずり出し溺れさせるのだ。

「だめっ……いっちゃ……っ」

「朔弥は敏感だからね、こうしたらもっと気持ちいいだろう」

 分身の根元を堰き止めながらチロチロと先端を舐める。最奥を苛む指の動きも激しくしていけば、もう柾人の欲望を煽る余裕はなくなっていく。

 いきり勃つ欲望を掴みながら、逞しい身体の上で啼き続けるしかなかった。

「わかるかい、朔弥のここがギュウギュウに私の指を締め付けてる」

「ひっいわな……ぁぁぁだめっそこばっかりぃぃ」

「ここだろう、朔弥が一番喜ぶ場所は……こうしてぐちゃぐちゃに掻き混ぜながら擦るともっと強く私を締め付けてくるんだ」

「ゃめてぇぇぇ、ぃく!ぃ……かせてぇぇぇぇ」

「久しぶりだからね……もっと朔弥を味わってからだ」

「ぁぁっ」

 巧みな指に翻弄されて柾人の上で喘ぐばかりとなっても、柾人は煽る手を緩めない。しばらく放っておかれた意趣返しのように執拗に苛んでくる。何度も何度も際どい刺激を与えられ、けれど根元を堰き止められているから達けなくて、朔弥は内腿の震えが止まらないほど感じさせられた。

「久しぶりに指だけで達ってみようか」

「それだめっ……やめっ……ぁぁぁ」

 カクンと腰が跳ね、朔弥は久しぶりの刺激に絶えきれず、遂情を伴わない絶頂を迎えた。そうなればもう自分で制御できなくなる。何度も腰を前後に振りながら、真っ白な頭で視界から得られる情報が理解できず、ただただ喘ぐしかない。

「ぁっ……ぁぁ……」

 自分が手に握っているものが何かも分からず冷めない絶頂を味わい、痙攣したままの足を震わせる。

 柾人が朔弥の下から抜け出した。前へと回り恍惚と愉悦を味わう表情を堪能する。

「この顔が見たかった……さぁ朔弥、どうやって一つになろうか」

 細い顎を持ち上げ、ねっとりと口づけしてくる。

 未だ絶頂の最中にいる朔弥に答えられるわけがないと分かっていて訊ね、自分のしたい方へと導く。

「久しぶりだから立ったまま後ろからしてあげようか……それともこのままの態勢でして欲しい?」

「ぁ……っ!」

「どちらも朔弥が好きな体位だ……どうしたい?」

 想像しただけでまた内股を震わせる朔弥に、柾人はとても嬉しそうに微笑む。精悍な顔が色に歪み、年を取って増した男の色気を放っていく。

「朔弥がしたい方を教えてくれないか」

「ぁ……ぜん……ぶ」

「どっちの方が感じるんだい」

「たって……ぁぁっ」

 手を引かれ立たされた朔弥はシャツを纏ったまま腰だけ捲られ、ソファの肘掛けに片足を乗せた態勢で後ろから柾人の欲望を迎えた。

「ひっ…………ぁぁぁ! またっぃ……ちゃ……」

「今日の朔弥はいつもよりもずっと敏感だ……でもダメだ、まだ達かせない」

 また分身の根元を堰き止めた柾人は、根元まで朔弥の中に収まると腰を動かし始めた。最初から激しい腰つきに肘掛けに足を乗せていられず、そこに両手を突きながら受け止めるしかない。
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