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第二章 番外編
番外編:ミーが死んだ日 1
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ミーが死んだ。
柾人が社長に就任して落ち着くのを見届けるかのように、休日の昼、晩年に可愛がってくれた人の腕の中でひっそりと息を引き取った。
「大丈夫ですか、柾人さん」
もう力が入ることがない身体を抱きしめたまま動かない柾人に声を掛けるが、深い悲しみの中にいる人には届かないようで、返事はない。ふぅと嘆息して朔弥は近くのペット斎場を探した。
一緒にいる時間は朔弥の方が長いが、ミーに心を砕いていたのは柾人の方だ。一緒に住んだのは五年と老猫になってからだが、どこまでもミーを優先した生活を続けただけにショックは大きいだろう。
(柾人さんはこういうの苦手だからな……)
両親を亡くしている柾人に家族を失うという瞬間は辛いだろう。それをまた味わわせてしまったのは、朔弥の我が儘だ。実家に置いておけずにミーを連れてきたのは他でもない朔弥なのだから。
短毛な毛が随分と抜けた身体が少し痛ましいが、年の割には毛艶が良いのは柾人が高級なキャットフードを与え続け、トリミングにも通い、少しの不調でも動物病院に連れて行ったからだ。
晩年は幸せだったと思う。
気に掛けてくれる家族がいて、自分の居場所を作って貰って。朔弥の実家なら死んだことすら気付かなかったかも知れないから。
朔弥はそっと艶やかさの残った毛を撫でた。いつもならしつこく構うとすぐに爪を立ててくるミーが何も反応を返してくれないのはやはり、寂しかった。だがそれよりもずっと柾人の様子が心配だ。獣医からのう長くないと告げられてから、できる限り早く帰ってきてはずっとミーの看病をしてきたのだ。その虚脱感は凄いものがあるだろう。
涙一つ流さないのが痛ましい。
朔弥にできることは何かを必死に考えたが、何も思いつかない。
ペット斎場の申し込みをした後、できることは何もなかった。柾人の手の中にあるまだ熱の残った身体を離すこともできない。
きっと誰よりも傷ついているだろう柾人を慰めたくても、今は朔弥の言葉も耳には届かない。
(柾人さんの心を癒やしてくれてありがとうね、ミー)
家の中ではいつも朔弥に纏わり付いていたミーも、この家に来てからチラリとも朔弥を見ずに柾人にばかり懐いていた。特に朔弥が入院した期間に絆を深めたようで、おもちゃやフードの量に比例して親密度も上がったように思える。
だから余計に柾人に何を言えば良いのか分からなかった。
(ここが気に入ったら、毛皮を替えてまた帰っておいで)
そうすれば柾人もまた癒やされるだろう。少し嫉妬はするが、柾人の日々の励みがある方が大事だ。
長い時間ミーを撫でた後、朔弥はお茶を入れながらこっそりと嘆息した。
「はぁ……こういうときオレって無力だな」
本当に何の役にも立てない。どうして慰めて良いのかも分からない。そっとしておくのが良いのかそれともミーの身体から離した方が良いのかも。湯飲みに入ったお茶をそっと柾人の前のテーブルに置き、少し距離を取る。
朔弥だって悲しくないわけではない。けれど田舎に行けばそれだけ死が近い。車にぶつかる野生動物や、畜産動物の出荷を間近で見てきたからだ。だからいつか死ぬだろうと頭のどこかで割り切って、柾人ほどの悲しみはない。
同じ部屋にいたら自分の無力感に苛まれるから、朔弥は自分の書斎にしている部屋へと籠もった。少しミーの写真を増やせば慰めになるのではと、柾人と暮らすようになってから撮ったデータを漁ってみたが、家でスマホのカメラを構える機会がないせいか、ミーが映っているものが一枚もない。仕事の書類を撮影したものばかりが列挙していて、頭を抱えた。
「オレ、ペット飼うのに不適合なのかも」
SNSに投稿するためにペットの写真を大量に撮る人もいるのに、朔弥のデータには一枚もない。
「ごめんな、ミー」
生まれ育ったところから離しただけでなく、遺影すら残してやることができない飼い主で。
ペット斎場には明日予約したので、それまでの時間は別れを惜しもう。
仕事の書類を見つめ続けながら、幼い頃に軒下に現れたミーの姿を記憶を頼りに思い出すしかなかった。
*****
ペット斎場から戻ってきたミーは小さな骨壺に入れられていた。柾人はそれをリビングの隅に置かれたミーが愛用していたペットタワーに置いた。そこしか置き場がなかった。最低限の家具しかないこの部屋で他に丁度良い場所を作ることができなかった。
「仏壇を買わないとな」
しっかりと戒名まで貰ったミーが生前のように静かに横たわっている姿にも似て、朔弥もそのままにしておきたかった。
「良いですね、ちょっと調べてみましょうか」
つい仕事の時の言葉遣いになってしまう。
「助かる。あとは何を供えれば良いんだろうね、ミーはどれが好きだったかな」
大量に残っているおやつのボックスを開け物色する。その姿に少しホッとしながらも少しだけ心配が残る。昨日の今日で柾人が酷く無理をしているのではないかと。
普段あまり負の感情を露わにしない彼のことだ、必死で悲しみを押し殺しているのではないだろうか。
朔弥は骨壺をそっと撫でた。
「また毛皮を着替えて帰っておいで」
優しく撫でれば、名前の由来にもなった鳴き声が聞こえてくるようだ。
「それはなんだ?」
「ペットを飼っている人たちの間でよく使われる言葉です。亡くなったペットがまた新しい姿になって戻ってくることを願うものです」
「そうか……毛皮を着替えて……」
その言葉が気に入ったのか、何度も何度も口の中で繰り返して、それから柾人は同じように骨壺を撫でた。
「是非とも着替えて帰ってきなさい、待っているから」
長い指先が小さな骨壺をミーを撫でるときのように辿っていった。
この人は本当に愛情深いなと思いながら、そこまで想われたミーが幸せだったことを確信する。山村の家にいたなら、こんな言葉を贈って貰えなかっただろう。
「良かったね、ミー」
これで一つの区切りとなるだろう、そう思っていたが柾人はいつになってもミーのために用意したキャットタワーもドーム型のベッドも片付けようとはしなかった。朔弥も何も言えず、結局そのまま置いておくしかなく、埃が被らないように丁寧に掃除をしながらミーがいたときと変わらないままにしていた。
異変はいつからだろう。
仕事が終わり、朔弥が残務処理をするようになって一ヶ月経過した頃、先に帰ったはずの柾人が、朔弥よりもほんの少し前に帰宅することがしばしば起きた。
何があったのだろうかと心配しても、笑って交わされるばかりだ。
朔弥はなんとも言えない不安を抱えながらしょんぼりと会社を歩き回った。普段秘書の仕事はあまりない。会社にいることが多い柾人のサポートが業務内容で、朔弥は率先して他部署の仕事の調整をしたり決算を促したりと間に入るようにしていた。
「どうしたの、山村くん。なんか元気ないみたいだけど」
開発部は元々アルバイトしていたこともあり、知己の社員が多い。一部では保護者のように気に掛けてくれるので、朔弥もつい気を許して色々と話してしまう。
「最近社長が家に着くのが遅いんです……私より先に社を出ているはずなのに同じ頃に帰ってくるんです」
気落ちした朔弥の言葉に周囲にいた社員が一気に気色ばんだ。
「えっ、もしかして社長浮気しているの?」
「うそー、あの社長が!?」
「あー……でも最近妙に浮かれてない? ペットが亡くなったときは地球の裏側まで沈み込む勢いだったのにさ」
女性社員を中心に憶測が一気に広まっていく。その中で部長補佐を務める徳島が女性達の隙間から顔を出してきた。
「どうしたんだい?」
「ちょっと聞いてくださいよ、社長がね!」
朔弥が口を開く前に女性社員が徳島へと訴状した。ほんの少し口を開くと過保護な彼女たちが代弁するのは、家族と縁を切っている朔弥への思いやりだ。今の保護者は戸籍上柾人になっているため、朔弥の立場が悪くなるとすぐに助けようとしているのだろう。
「あの、そんなに話を大きくしないでください」
「だって、養子縁組してるのに朔弥くんにできない話なんてないでしょ! 何考えてるのあの変態社長は」
相変わらず変態呼ばわりだ。朔弥のスマホのGPSを監視しているのが前社長より周知されてからと言うもの、風当たりが強くなっている。いくら恋人や家族でも位置情報を駆使して行動を把握するのはやり過ぎだと言われ、朔弥が入社してすぐに監視ソフトを女性陣の前でアンインストールする羽目になった。
「こうなったら社長のスマホに位置情報監視ツール入れてやるわっ!」
「そこまでしなくても……」
「でも朔弥くんだって気になってるから相談したんでしょ? あっ、部長が来た。ちょっとぶちょー!」
相変わらず経営よりも現場の仕事に集中するためと開発部長にとどまっている和紗を捕まえて、女子社員達が訴状を訴え始めた。
「あの、本当に大丈夫ですから……社長が話してくれるまで待ちますから」
「なるほど。では実験台になって貰いましょう。徳島、丁度今開発中のアプリがあったわよね。アレを社長の端末に仕込んで頂戴」
「開発中のアプリ?」
聞けば、友達同士が今どこにいて誰が遊べるのかを瞬時で分かるようにするためのアプリの開発をしているそうだ。まだ社長報告は行われていない、開発部が遊びで作っているものがあるらしい。あまりにもプライベート過ぎて法に抵触するかを確認しているところだ。
「新しいアプリなら社長も気付かないわ。しかもアプリ自体の容量は軽くしたからバッテリーの減りも少ないし、丁度良い実験体ね」
楽しそうに話しながら和紗はすぐにアプリを実験用の社内サーバーに移し始める。
柾人が社長に就任して落ち着くのを見届けるかのように、休日の昼、晩年に可愛がってくれた人の腕の中でひっそりと息を引き取った。
「大丈夫ですか、柾人さん」
もう力が入ることがない身体を抱きしめたまま動かない柾人に声を掛けるが、深い悲しみの中にいる人には届かないようで、返事はない。ふぅと嘆息して朔弥は近くのペット斎場を探した。
一緒にいる時間は朔弥の方が長いが、ミーに心を砕いていたのは柾人の方だ。一緒に住んだのは五年と老猫になってからだが、どこまでもミーを優先した生活を続けただけにショックは大きいだろう。
(柾人さんはこういうの苦手だからな……)
両親を亡くしている柾人に家族を失うという瞬間は辛いだろう。それをまた味わわせてしまったのは、朔弥の我が儘だ。実家に置いておけずにミーを連れてきたのは他でもない朔弥なのだから。
短毛な毛が随分と抜けた身体が少し痛ましいが、年の割には毛艶が良いのは柾人が高級なキャットフードを与え続け、トリミングにも通い、少しの不調でも動物病院に連れて行ったからだ。
晩年は幸せだったと思う。
気に掛けてくれる家族がいて、自分の居場所を作って貰って。朔弥の実家なら死んだことすら気付かなかったかも知れないから。
朔弥はそっと艶やかさの残った毛を撫でた。いつもならしつこく構うとすぐに爪を立ててくるミーが何も反応を返してくれないのはやはり、寂しかった。だがそれよりもずっと柾人の様子が心配だ。獣医からのう長くないと告げられてから、できる限り早く帰ってきてはずっとミーの看病をしてきたのだ。その虚脱感は凄いものがあるだろう。
涙一つ流さないのが痛ましい。
朔弥にできることは何かを必死に考えたが、何も思いつかない。
ペット斎場の申し込みをした後、できることは何もなかった。柾人の手の中にあるまだ熱の残った身体を離すこともできない。
きっと誰よりも傷ついているだろう柾人を慰めたくても、今は朔弥の言葉も耳には届かない。
(柾人さんの心を癒やしてくれてありがとうね、ミー)
家の中ではいつも朔弥に纏わり付いていたミーも、この家に来てからチラリとも朔弥を見ずに柾人にばかり懐いていた。特に朔弥が入院した期間に絆を深めたようで、おもちゃやフードの量に比例して親密度も上がったように思える。
だから余計に柾人に何を言えば良いのか分からなかった。
(ここが気に入ったら、毛皮を替えてまた帰っておいで)
そうすれば柾人もまた癒やされるだろう。少し嫉妬はするが、柾人の日々の励みがある方が大事だ。
長い時間ミーを撫でた後、朔弥はお茶を入れながらこっそりと嘆息した。
「はぁ……こういうときオレって無力だな」
本当に何の役にも立てない。どうして慰めて良いのかも分からない。そっとしておくのが良いのかそれともミーの身体から離した方が良いのかも。湯飲みに入ったお茶をそっと柾人の前のテーブルに置き、少し距離を取る。
朔弥だって悲しくないわけではない。けれど田舎に行けばそれだけ死が近い。車にぶつかる野生動物や、畜産動物の出荷を間近で見てきたからだ。だからいつか死ぬだろうと頭のどこかで割り切って、柾人ほどの悲しみはない。
同じ部屋にいたら自分の無力感に苛まれるから、朔弥は自分の書斎にしている部屋へと籠もった。少しミーの写真を増やせば慰めになるのではと、柾人と暮らすようになってから撮ったデータを漁ってみたが、家でスマホのカメラを構える機会がないせいか、ミーが映っているものが一枚もない。仕事の書類を撮影したものばかりが列挙していて、頭を抱えた。
「オレ、ペット飼うのに不適合なのかも」
SNSに投稿するためにペットの写真を大量に撮る人もいるのに、朔弥のデータには一枚もない。
「ごめんな、ミー」
生まれ育ったところから離しただけでなく、遺影すら残してやることができない飼い主で。
ペット斎場には明日予約したので、それまでの時間は別れを惜しもう。
仕事の書類を見つめ続けながら、幼い頃に軒下に現れたミーの姿を記憶を頼りに思い出すしかなかった。
*****
ペット斎場から戻ってきたミーは小さな骨壺に入れられていた。柾人はそれをリビングの隅に置かれたミーが愛用していたペットタワーに置いた。そこしか置き場がなかった。最低限の家具しかないこの部屋で他に丁度良い場所を作ることができなかった。
「仏壇を買わないとな」
しっかりと戒名まで貰ったミーが生前のように静かに横たわっている姿にも似て、朔弥もそのままにしておきたかった。
「良いですね、ちょっと調べてみましょうか」
つい仕事の時の言葉遣いになってしまう。
「助かる。あとは何を供えれば良いんだろうね、ミーはどれが好きだったかな」
大量に残っているおやつのボックスを開け物色する。その姿に少しホッとしながらも少しだけ心配が残る。昨日の今日で柾人が酷く無理をしているのではないかと。
普段あまり負の感情を露わにしない彼のことだ、必死で悲しみを押し殺しているのではないだろうか。
朔弥は骨壺をそっと撫でた。
「また毛皮を着替えて帰っておいで」
優しく撫でれば、名前の由来にもなった鳴き声が聞こえてくるようだ。
「それはなんだ?」
「ペットを飼っている人たちの間でよく使われる言葉です。亡くなったペットがまた新しい姿になって戻ってくることを願うものです」
「そうか……毛皮を着替えて……」
その言葉が気に入ったのか、何度も何度も口の中で繰り返して、それから柾人は同じように骨壺を撫でた。
「是非とも着替えて帰ってきなさい、待っているから」
長い指先が小さな骨壺をミーを撫でるときのように辿っていった。
この人は本当に愛情深いなと思いながら、そこまで想われたミーが幸せだったことを確信する。山村の家にいたなら、こんな言葉を贈って貰えなかっただろう。
「良かったね、ミー」
これで一つの区切りとなるだろう、そう思っていたが柾人はいつになってもミーのために用意したキャットタワーもドーム型のベッドも片付けようとはしなかった。朔弥も何も言えず、結局そのまま置いておくしかなく、埃が被らないように丁寧に掃除をしながらミーがいたときと変わらないままにしていた。
異変はいつからだろう。
仕事が終わり、朔弥が残務処理をするようになって一ヶ月経過した頃、先に帰ったはずの柾人が、朔弥よりもほんの少し前に帰宅することがしばしば起きた。
何があったのだろうかと心配しても、笑って交わされるばかりだ。
朔弥はなんとも言えない不安を抱えながらしょんぼりと会社を歩き回った。普段秘書の仕事はあまりない。会社にいることが多い柾人のサポートが業務内容で、朔弥は率先して他部署の仕事の調整をしたり決算を促したりと間に入るようにしていた。
「どうしたの、山村くん。なんか元気ないみたいだけど」
開発部は元々アルバイトしていたこともあり、知己の社員が多い。一部では保護者のように気に掛けてくれるので、朔弥もつい気を許して色々と話してしまう。
「最近社長が家に着くのが遅いんです……私より先に社を出ているはずなのに同じ頃に帰ってくるんです」
気落ちした朔弥の言葉に周囲にいた社員が一気に気色ばんだ。
「えっ、もしかして社長浮気しているの?」
「うそー、あの社長が!?」
「あー……でも最近妙に浮かれてない? ペットが亡くなったときは地球の裏側まで沈み込む勢いだったのにさ」
女性社員を中心に憶測が一気に広まっていく。その中で部長補佐を務める徳島が女性達の隙間から顔を出してきた。
「どうしたんだい?」
「ちょっと聞いてくださいよ、社長がね!」
朔弥が口を開く前に女性社員が徳島へと訴状した。ほんの少し口を開くと過保護な彼女たちが代弁するのは、家族と縁を切っている朔弥への思いやりだ。今の保護者は戸籍上柾人になっているため、朔弥の立場が悪くなるとすぐに助けようとしているのだろう。
「あの、そんなに話を大きくしないでください」
「だって、養子縁組してるのに朔弥くんにできない話なんてないでしょ! 何考えてるのあの変態社長は」
相変わらず変態呼ばわりだ。朔弥のスマホのGPSを監視しているのが前社長より周知されてからと言うもの、風当たりが強くなっている。いくら恋人や家族でも位置情報を駆使して行動を把握するのはやり過ぎだと言われ、朔弥が入社してすぐに監視ソフトを女性陣の前でアンインストールする羽目になった。
「こうなったら社長のスマホに位置情報監視ツール入れてやるわっ!」
「そこまでしなくても……」
「でも朔弥くんだって気になってるから相談したんでしょ? あっ、部長が来た。ちょっとぶちょー!」
相変わらず経営よりも現場の仕事に集中するためと開発部長にとどまっている和紗を捕まえて、女子社員達が訴状を訴え始めた。
「あの、本当に大丈夫ですから……社長が話してくれるまで待ちますから」
「なるほど。では実験台になって貰いましょう。徳島、丁度今開発中のアプリがあったわよね。アレを社長の端末に仕込んで頂戴」
「開発中のアプリ?」
聞けば、友達同士が今どこにいて誰が遊べるのかを瞬時で分かるようにするためのアプリの開発をしているそうだ。まだ社長報告は行われていない、開発部が遊びで作っているものがあるらしい。あまりにもプライベート過ぎて法に抵触するかを確認しているところだ。
「新しいアプリなら社長も気付かないわ。しかもアプリ自体の容量は軽くしたからバッテリーの減りも少ないし、丁度良い実験体ね」
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