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第二章
17-4 ☆
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それを導き出すために自分がどうすれば良いのか、もう分かっている。
「美味しいですか?」
言葉をかけることをいつも躊躇って、与えてくれるまでただじっと待っているだけでは相手を知ることなんてできない。辛い身体をどうにかねじって柾人の表情を確認しようとしたが、腰を動かした途端に昨夜さんざん可愛がられた場所から怠い違和感が湧き上がった。
「んっ」
堪えようとしても声が上がってしまう。
チョコレートを含んだ柾人が口の端を上げながらこちらを見つめ、いたずら好きな子供のような表情になった。
朔弥の顎を掬うと僅かに開いた唇の隙間にまだ堅さの残るチョコレートを転げ落とした。
「ぁ……んっ」
それだけではない、朔弥の口内でねっとりと味わっていく。戸惑う舌と共に。
「んんっ……ん!」
キスをされているのか、それともただチョコレートを堪能しているのか分からなくて、どう動いて良いのか分からない朔弥は、溶けて流れてきたチョコレートを嚥下するしかない。舌に残ったシャンパンのジュレを柾人の舌が転がしていく。
「んっんっ……」
甘い声ばかりが鼻から抜け、これが性技なのかどうかも分からず戸惑うしかない。薄く目を開けばこちらの様子をつぶさに見ている眼差しにぶつかる。困っている朔弥を眺めて楽しんでいるのだろうか。
すべてのジェルが溶けそれを嚥下してやっと唇が離れた。
「なにするんですか……」
裸のままではアルコールとは関係ない原因で赤くなる頬を隠せない。それがもどかしくて恥ずかしくて俯こうとしても、柾人の手が邪魔をする。
「一緒に味わおうと思ってね。そのままでも美味しいが、朔弥の口の中で味わうと一層甘みが増すな」
「なっ!」
「これからチョコレートはこうして味わおう」
「……甘いのが嫌いじゃなかったんですか?」
「うん? 甘い物は嫌いではないが、朔弥に与える方が好きなんだ、来年は私も君に贈ろう」
大きな手がするりと滑り、まだ暴行の跡を残す腹を撫で始めた。
「ん……」
「酔ってしまったから責任を取ってくれるかい?」
「……柾人さんはほとんど食べてないのに?」
「充分味わったさ。美味しかったよ、ありがとう」
「んぁぁっ」
何度も腹部を往復していた掌が、昨夜可愛がられすぎて未だに尖っている胸の飾りを掠めた。それだけで朔弥の身体は跳ね最奥が物欲しそうに収縮を始める。
快楽に従順な反応を示す身体を堪能して、またチョコレートをつまみ上げると、柾人は躊躇いもなくそれを朔弥の口に咥えさせた。
「ん!」
これは柾人に味わって欲しくて買ったのだと抗議したくても、再び合わさった唇が、今度は最初から朔弥の口内で味わいたいと舌を伸ばし二人の間で大きな塊を転がし始めた。体温に溶けるチョコレートのように、柾人の舌と手で朔弥の身体も溶けていく。チョコレートがなくなりまたジェルだけになる頃には、彼の手に身体を預け自分から舌を伸ばし口づけを堪能していた。
紅潮した頬は朱を増し、大人しかったはずの分身はすっかりと形を変える。
そんな朔弥の様子を見て一層柾人の表情が綻ぶ。
「知ってるかい、昔チョコレートは媚薬にも使われていたんだ……これから君がこれを贈ってくれたら私を欲しいと思っても良いかい?」
「そ……んなぁ」
街中に溢れる菓子店だってそんな目的のためにチョコレートを売っているわけではない。ただ柾人にいつもの感謝と共に何かを贈りたかっただけだ。
また一つチョコレートがクレームを告げる口に放り込まれる。
もう何度したか分からないほど繰り返した口づけでも、いつも胸がざわめき身体が甘く溶かされる。このまま繋がったら本当に溶けて一つになるんじゃないかと思うほどに溶け、柾人にしがみついていなければ自分がなくなってしまいそうになる。
それでも、柾人とのキスを止めたくない。チョコレートがなくなった口内を擽ってくる舌に自分から絡ませ、自らも快楽を追っていく。ざわりと背筋を愉悦の痺れが走り抜け、奥が切なさを訴えてくる。何も出ないほど昨日も愛されたのに、快楽に弱い身体はすぐに柾人を欲しがって分身の形を変えていく。
「ぁ……」
あえかな声が勝手に漏れると、柾人は布団を剥ぎ取り紅潮した肌を朝日に晒した。
「また私を欲しがっているね……可愛いよ朔弥」
唇を舐められ大きな手が二人が繋がるための場所へと伸びていく。
「ゃっ……そこっ!」
柾人の蜜でまだぬめっている蕾に指を潜り込ませ、感じる場所をノックされれば、淫らな身体は欲しがって締め付けてしまう。
「このまま繋がろうか。この体位は久しぶりだが、朔弥は好きだろう」
腰を持ち上げられ、猛った柾人の欲望の上へと落とされる。
「ゃっ、ぁぁぁぁっ!」
まだ足腰に力が入らず自分で動けない朔弥の腰を巧みに前後して啼かせる。
「ぃぃっ! ぁんっ」
「この後一緒に風呂に入ろう。私が朔弥を隅々まで綺麗にする……だが今は存分に君を味わうのが先だ」
「ぁんっそこだめぇぇぇぇぇぇ」
チョコレートの効果なのかそれとも快楽に弱いだけなのか、僅かな刺激にもいつも以上に興奮してドロドロに溶け絶頂を迎えては、またチョコレートによって快楽のスイッチを入れられる。
高価なチョコレートは箱だけになりベッドに転がるまで朔弥は啼き続けるしかなかった。
+++
柾人の性技に翻弄されこのまま本当に溶けてしまうと思うほど可愛がられた朔弥は、その日一日自分で動くことができず、嬉しそうな柾人に甲斐甲斐しく世話をして貰うのだった。
そして、関東で桜の開花宣言が出される頃、新たな名前が加わった戸籍謄本が大事に大事にベッド横のチェストにしまわれるのだった。
-END-
「美味しいですか?」
言葉をかけることをいつも躊躇って、与えてくれるまでただじっと待っているだけでは相手を知ることなんてできない。辛い身体をどうにかねじって柾人の表情を確認しようとしたが、腰を動かした途端に昨夜さんざん可愛がられた場所から怠い違和感が湧き上がった。
「んっ」
堪えようとしても声が上がってしまう。
チョコレートを含んだ柾人が口の端を上げながらこちらを見つめ、いたずら好きな子供のような表情になった。
朔弥の顎を掬うと僅かに開いた唇の隙間にまだ堅さの残るチョコレートを転げ落とした。
「ぁ……んっ」
それだけではない、朔弥の口内でねっとりと味わっていく。戸惑う舌と共に。
「んんっ……ん!」
キスをされているのか、それともただチョコレートを堪能しているのか分からなくて、どう動いて良いのか分からない朔弥は、溶けて流れてきたチョコレートを嚥下するしかない。舌に残ったシャンパンのジュレを柾人の舌が転がしていく。
「んっんっ……」
甘い声ばかりが鼻から抜け、これが性技なのかどうかも分からず戸惑うしかない。薄く目を開けばこちらの様子をつぶさに見ている眼差しにぶつかる。困っている朔弥を眺めて楽しんでいるのだろうか。
すべてのジェルが溶けそれを嚥下してやっと唇が離れた。
「なにするんですか……」
裸のままではアルコールとは関係ない原因で赤くなる頬を隠せない。それがもどかしくて恥ずかしくて俯こうとしても、柾人の手が邪魔をする。
「一緒に味わおうと思ってね。そのままでも美味しいが、朔弥の口の中で味わうと一層甘みが増すな」
「なっ!」
「これからチョコレートはこうして味わおう」
「……甘いのが嫌いじゃなかったんですか?」
「うん? 甘い物は嫌いではないが、朔弥に与える方が好きなんだ、来年は私も君に贈ろう」
大きな手がするりと滑り、まだ暴行の跡を残す腹を撫で始めた。
「ん……」
「酔ってしまったから責任を取ってくれるかい?」
「……柾人さんはほとんど食べてないのに?」
「充分味わったさ。美味しかったよ、ありがとう」
「んぁぁっ」
何度も腹部を往復していた掌が、昨夜可愛がられすぎて未だに尖っている胸の飾りを掠めた。それだけで朔弥の身体は跳ね最奥が物欲しそうに収縮を始める。
快楽に従順な反応を示す身体を堪能して、またチョコレートをつまみ上げると、柾人は躊躇いもなくそれを朔弥の口に咥えさせた。
「ん!」
これは柾人に味わって欲しくて買ったのだと抗議したくても、再び合わさった唇が、今度は最初から朔弥の口内で味わいたいと舌を伸ばし二人の間で大きな塊を転がし始めた。体温に溶けるチョコレートのように、柾人の舌と手で朔弥の身体も溶けていく。チョコレートがなくなりまたジェルだけになる頃には、彼の手に身体を預け自分から舌を伸ばし口づけを堪能していた。
紅潮した頬は朱を増し、大人しかったはずの分身はすっかりと形を変える。
そんな朔弥の様子を見て一層柾人の表情が綻ぶ。
「知ってるかい、昔チョコレートは媚薬にも使われていたんだ……これから君がこれを贈ってくれたら私を欲しいと思っても良いかい?」
「そ……んなぁ」
街中に溢れる菓子店だってそんな目的のためにチョコレートを売っているわけではない。ただ柾人にいつもの感謝と共に何かを贈りたかっただけだ。
また一つチョコレートがクレームを告げる口に放り込まれる。
もう何度したか分からないほど繰り返した口づけでも、いつも胸がざわめき身体が甘く溶かされる。このまま繋がったら本当に溶けて一つになるんじゃないかと思うほどに溶け、柾人にしがみついていなければ自分がなくなってしまいそうになる。
それでも、柾人とのキスを止めたくない。チョコレートがなくなった口内を擽ってくる舌に自分から絡ませ、自らも快楽を追っていく。ざわりと背筋を愉悦の痺れが走り抜け、奥が切なさを訴えてくる。何も出ないほど昨日も愛されたのに、快楽に弱い身体はすぐに柾人を欲しがって分身の形を変えていく。
「ぁ……」
あえかな声が勝手に漏れると、柾人は布団を剥ぎ取り紅潮した肌を朝日に晒した。
「また私を欲しがっているね……可愛いよ朔弥」
唇を舐められ大きな手が二人が繋がるための場所へと伸びていく。
「ゃっ……そこっ!」
柾人の蜜でまだぬめっている蕾に指を潜り込ませ、感じる場所をノックされれば、淫らな身体は欲しがって締め付けてしまう。
「このまま繋がろうか。この体位は久しぶりだが、朔弥は好きだろう」
腰を持ち上げられ、猛った柾人の欲望の上へと落とされる。
「ゃっ、ぁぁぁぁっ!」
まだ足腰に力が入らず自分で動けない朔弥の腰を巧みに前後して啼かせる。
「ぃぃっ! ぁんっ」
「この後一緒に風呂に入ろう。私が朔弥を隅々まで綺麗にする……だが今は存分に君を味わうのが先だ」
「ぁんっそこだめぇぇぇぇぇぇ」
チョコレートの効果なのかそれとも快楽に弱いだけなのか、僅かな刺激にもいつも以上に興奮してドロドロに溶け絶頂を迎えては、またチョコレートによって快楽のスイッチを入れられる。
高価なチョコレートは箱だけになりベッドに転がるまで朔弥は啼き続けるしかなかった。
+++
柾人の性技に翻弄されこのまま本当に溶けてしまうと思うほど可愛がられた朔弥は、その日一日自分で動くことができず、嬉しそうな柾人に甲斐甲斐しく世話をして貰うのだった。
そして、関東で桜の開花宣言が出される頃、新たな名前が加わった戸籍謄本が大事に大事にベッド横のチェストにしまわれるのだった。
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