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第二章

10-4 ☆

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 なにも話すことなくただ二人で歩き続ける。その静寂すら心地良いのは相手が朔弥だからだ。マンションから一番近いコンビニの自動ドアをくぐる前に手がするりと離れるのが少し寂しく感じられるが、それを堪える心の余裕があるのが不思議だ。たった数時間前まで焦燥で頭がおかしくなりそうだったというのに。

 雑貨が置かれたコーナーにペット用品が僅かに並べられ、朔弥が手に取るものすべて籠に入れていく。

「ご飯もある程度買っておいた方がいいのだろうか」

 いくつか並んでいる猫缶や固形フードを吟味するために顔を合わせる。高齢だという猫に何でも食べさせていいかが分からないから、どれを購入していいか悩むが、最低でもトイレをどうにかしなければ可哀想だという結論になり、食事は今日のように手作りすることにし、トイレ用品だけ確保する。

 聞けば半外飼いの猫で、朔弥自身もどう世話をしていいかが分かっていないようだ。携帯のサイトを見ながら必要最低限だけを買い求め、除夜の鐘も終わった静かな町の中を歩きながら大きな袋を抱えてマンションに戻れば猫はソファですでに眠っていた。そうっとトイレの用意だけをして二人でシーッと唇に人差し指を当てそっと寝室へと移動する。

 扉を閉め二人だけの世界で静寂が訪れれば、不思議と互いを意識してしまう。猫が鳴くまでそういう雰囲気だったこともあり、自然と相手の熱を求めてしまう。朔弥もだろうか。俯かれればその綺麗な顔を見ることができない。

「朔弥、触れてもいいかい?」

 雰囲気に流されるように彼を抱くことはできない。あれでトラウマになってしまったなら、側にいるだけで充分だと自分に言い聞かせなくてはならない。

 朔弥は俯いた頭を小さく上下に動かした。

 怖がらせないように頬に触れ、それをゆっくりと動かす。どこまで許してくれるのか、確かめるために。恐る恐る指先を動かしていけば、いつにないまだるっこしい動きに朔弥が笑った。

「大丈夫ですよ、いつもみたいにしてください」

「嫌、じゃないか? 私は君に酷いことをしてしまったんだ」

「平気です。柾人さんがどれだけオレを大切にしてくれてるか知ってますから」

「私はずるい大人だ……なにも知らなかった君に淫らなことを教え、辛い思いまでさせてしまった」

 感情をぶつけるようなセックス。何度も止めて欲しいと懇願した言葉すら耳を貸さず、苛立ちのまま傷つけるように抱いたあの日の自分が、未だに怖い。また同じことをするのではないかと。この愛しい存在に。

 それまでどうやって抱いていたのかも分からないほど怯える柾人に、朔弥は抱きつき、キスをねだるように顔を近づけてくる。僅かに触れ、すぐに離れれば背伸びをした朔弥が後を追いかけてくる。合わさる前に小さく呟きながら。

「愛してます」

 先ほどのキスを思い出させるように舌を伸ばしてきて柾人の唇を軽くノックしてくる。

 いつも柾人のすることを受け取るばかりの恥ずかしがり屋な恋人の、滅多にない積極的な仕草に、柾人の理性などあっという間に瓦解する。

 細い身体を抱きしめ、激しいと言うにふさわしいキスをする。隙間もないほど唇を重ね合わせ、口内でたっぷりと朔弥の舌を貪れば、自制は焼き切れ灰となって散っていった。もっと彼を味わいたくて舌を絡めては彼の口内を犯していく。朔弥も必死に応え自分から蹂躙する柾人に舌を差し出しては淫らに動いていく。

 そして立つのもやっとなほど蕩けた身体になるまで口づけで溶かし、シャツを握っていた手が縋り付くような動きに変わったのを合図にベッドへと、唇を合わせたまま倒れ込む。

 キスを止めず、朔弥の細い身体を自分の上に乗せ貪った。シャツをデニムから引き出し、服の下に潜り込ませた手で滑らかな身体に直に触れれば、柾人の欲望は一気に膨れ上がった。浮き上がった肩甲骨、一つ一つ確かめることのできる背骨、細いウエスト。すべてを掌で確かめながら彼を煽っていけば、快楽に弱い愛しい恋人は我慢できないとばかりに腰をもじつかせ、自分からデニムの奥にある分身を柾人の欲望へと擦り付け始めた。

 口づけの合間に甘い声が零れ、舌で拾い上げ唾液と一緒に飲み込む。

 上体を支えるために突いた腕が震え、そして力を失うように崩れた。

 柾人は愛しく甘い唇を追いかければ自然と朔弥に覆い被さる形となる。器用に片手でシャツとデニムのボタンを外しファスナーを下ろせば、また朔弥から期待の甘い声が上がる。あんなに乱暴にされたというのに求められているのが嬉しくて、柾人の動きは大胆になった。下着ごとデニムを下げれば、柾人とのセックスに慣れた身体は自分から腰を上げもじつかせながら下ろす手伝いをした。膝まで下ろせば朔弥が自分で足を抜き取りベッドの下へと重いデニムを落としていく。

 ピンと天を突くように勃った分身を優しく撫でた。

「んんっ!」

 もしこの家から出ても自分へ気持ちがあったなら、朔弥のそこはこの一月足らずずっと刺激を受けていないことになる。付き合ったばかりにした約束を律儀な彼は守っていたのだろう、そんな些細なタッチでブルリと震えパンパンに張った先端から透明な蜜を垂らし始めた。

 チュッと口づけを終わらせると、柾人はすぐさま身体をずらし震える分身を口に含んだ。

「ぁっ……それ!」

 巧みに朔弥が感じる場所を舌でくすぐりながら吸い上げれば、我慢できなかった分身から濃い蜜が吐き出された。

「やぁぁぁっ……だめっだめぇぇ」

 必死に堪えようとする朔弥に反して、腰が何度が突き上げて最後の一滴までもを柾人の口内へと注がれた芳醇な酒のように飲み干してから、力を失った分身を解放した。

「ぁ……」

 あまりにもあっけない遂情に恥ずかしくなったのか、余韻に酔いながらも罪悪感が表情へと表れる。今にも泣き出しそうな面が男の嗜虐性を煽るのだ。もっと苛めもっと泣かせ支配したくなる。

 だが柾人が見たいのは悦びに咽ぶ恍惚とした朔弥だ。

 上気した頬にキスをし、弛緩した身体を抱きしめた。

「約束を守ってくれたんだね。嬉しいよ、朔弥」

「ま……さとさん、おれ……」

「もっと気持ちよくなろう、二人で」

 もう一度唇に音を立ててキスをし、彼が身につけているものをすべて脱がしていく。そして柾人も細い足を跨ぎながら見せつけるように服を一枚一枚と脱いでいった。トラウザーズのファスナーを下ろしいきり勃った欲望を現せば、白い朔弥の肌が一層赤くなって恥ずかしそうにそれを見つめた。もう何度も肌を重ねてきたというのに初々しい反応にまた力が増し、すぐにでもその裡へと打ち付けたくなる。

 だがまだだ。もっと朔弥の身体を溶かし欲しがってくるまで耐えろと自分に言い聞かせながら、サイドテーブルから二人が繋がるためのアイテムを取り出す。

 透明のトロリとしたローションをたっぷりと掌に落とせば、細い足が自ら開いた。
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