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第五章 クロムクドリが鳴くまでは 2
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彼が持つ僅かな柔らかい部位の感触を楽しみ、次第に興奮していく。あれほど貪ったというのに、また元気になろうとする下肢を叱りつけ、伝わる体温を記憶に刻む。それを繰り返し、何度かメイドや執事がやってきたがエドゼルが起きるまではと下がらせた。
愛しい人が目を覚ましたのは昼食の時間を過ぎてからだった。
うっすらと現れる印象的な青い瞳に、ゆっくりと自分の顔が映し出された。
「おはよう、エドゼル」
当たり前の挨拶をぼんやりと聞いたエドゼルは再び瞼を閉じ、それから勢いよく開いた。
「えっ……あぁそうか」
すぐに昨夜のことを思い出し頬を赤く染める彼が愛おしくて、白い肌に口づけを落とす。新たな花弁を尖った肩に刻んで、ヒルドブランドはずっと撫でていた頬をもう一度ゆっくりと掌で覆う。
「大丈夫か?」
「っ! ……大丈夫だ、気にしないでくれ」
頬の紅色が濃さを増し香り立つ色気を放ってくる。このまままた彼を貪りたくなるのを抑え、寝台から起き上がった。上掛けが肌を滑り落ちたのを見て息を詰める音が聞こえた。
脇腹の大きくえぐれた傷跡だけでなく、大小の細かい傷跡も残る身体に驚いたのだろう。ヒルドブランドはすぐさま床に落ちていたシャツに袖を通し隠した。
「醜いものを見せて済まない」
長い戦いの間にできた傷跡は無数にあり、騎士の間では勲章となっていても他者には直視できないだろう。エドゼルはすぐさま「違う!」と叫んだ。
「醜くかったから変な声が出たんじゃない……私のせいでこんな傷跡をお前に残してしまったことを、初めて知ったからだ」
「気にしないでくれ。騎士なら当たり前だ」
大小の違いはあれど、無傷のままいる騎士などそういない。どれほど鎧が頑丈に出来ても魔族や魔獣との戦いで怪我をしないなどあるはずがない。
「……知らなかった」
そうだろう。彼が唯一知っている騎士の肌には傷一つなかっただろうから。
「大丈夫だ、もう治っている。むしろ俺の命を救ってくれたことに感謝しているくらいだ、ありがとう」
僅かに残る魔力全てを使って自分を助けてくれたエドゼルにやっと感謝の言葉を伝える。昨夜は余裕がなくそれすら出来なかった。
「当たり前だ……自分から死のうとしていた私を助けてくれたのはヒルドだ」
今でも覚えている、自ら手を伸ばしケルベロスにその身を捧げようとするエドゼルの姿を。全てを失った絶望で自暴自棄になった彼は何度も死にたいと口にした。自分の傲慢さでそれを叶えてやらなかった。
死ぬなら、自分を想って死んでくれと暗い感情すらあった。
今のヒルドブランドはエドゼルによって生かされている。魔法での攻撃法を教えてくれなければ、彼が移動魔法を使わなければ、確実に死んでいた。
「怖い思いをさせてすまない」
あの日を思い出した繊細な人は震える指を必死にヒルドブランドから隠すように握り絞めた。それでも震えを止められずにいる。シャツのボタンを半端に留め、その手を剣だこが取れない手で握った。
「エドゼルが助けてくれたから、今の俺がいるんだ」
それを誇りに思って欲しい。決して悲しい記憶にしないで欲しい。
「……お前は昔から優しすぎるんだ」
絞り出すような声に涙の要素が混じる。堪らなくなって抱きしめた。
「エドゼルのせいではない。早かれ遅かれ退治しなければならない相手だ」
気にしないでくれと伝えても、エドゼルは顔に影を落としたままだ。
「エドゼルが助けてくれたから俺は生きている。安心してくれ……そんなに心配だというなら、もうなんともないと教えるために、また貴方の中に生きてる証を注ぎ込もうか」
何を意味するのかすぐにわからなかったエドゼルが察した次の瞬間、細い両腕を突っぱねた。
「それはっ……昨夜充分味わった、から……」
また頬が紅潮していく。心配し落ち込む顔よりも、照れて怒る顔の方がずっといい。
「貴方が望むなら、何度でも注ぐがどうだ?」
揶揄えば枕が飛んできた。痛みを与えない攻撃に笑い、ベッドを降りる。衣服を整えてから執事を呼んだ。エドゼルが顔色を変え、慌てて上掛けの中へと潜り込む。生娘が初めての朝を迎えたようなその仕草に、再び彼を欲する感情が芽生え始める。だが今はそれよりも重要なことはあった。
「昼食の準備をしてくれ、エドゼルの分も。食堂で食べる」
「畏まりました」
すぐに来た執事は言葉少なに部屋を出る。彼が何を思っているかわからないが、主に忠実な仕事をするだろう。
ヒルドブランドは未だ上掛けの中にいるエドゼルへと近づいた。
「着替えを手伝おう……私のシャツでは大きいが、新しいのを買うまで我慢してくれ」
愛しい人が目を覚ましたのは昼食の時間を過ぎてからだった。
うっすらと現れる印象的な青い瞳に、ゆっくりと自分の顔が映し出された。
「おはよう、エドゼル」
当たり前の挨拶をぼんやりと聞いたエドゼルは再び瞼を閉じ、それから勢いよく開いた。
「えっ……あぁそうか」
すぐに昨夜のことを思い出し頬を赤く染める彼が愛おしくて、白い肌に口づけを落とす。新たな花弁を尖った肩に刻んで、ヒルドブランドはずっと撫でていた頬をもう一度ゆっくりと掌で覆う。
「大丈夫か?」
「っ! ……大丈夫だ、気にしないでくれ」
頬の紅色が濃さを増し香り立つ色気を放ってくる。このまままた彼を貪りたくなるのを抑え、寝台から起き上がった。上掛けが肌を滑り落ちたのを見て息を詰める音が聞こえた。
脇腹の大きくえぐれた傷跡だけでなく、大小の細かい傷跡も残る身体に驚いたのだろう。ヒルドブランドはすぐさま床に落ちていたシャツに袖を通し隠した。
「醜いものを見せて済まない」
長い戦いの間にできた傷跡は無数にあり、騎士の間では勲章となっていても他者には直視できないだろう。エドゼルはすぐさま「違う!」と叫んだ。
「醜くかったから変な声が出たんじゃない……私のせいでこんな傷跡をお前に残してしまったことを、初めて知ったからだ」
「気にしないでくれ。騎士なら当たり前だ」
大小の違いはあれど、無傷のままいる騎士などそういない。どれほど鎧が頑丈に出来ても魔族や魔獣との戦いで怪我をしないなどあるはずがない。
「……知らなかった」
そうだろう。彼が唯一知っている騎士の肌には傷一つなかっただろうから。
「大丈夫だ、もう治っている。むしろ俺の命を救ってくれたことに感謝しているくらいだ、ありがとう」
僅かに残る魔力全てを使って自分を助けてくれたエドゼルにやっと感謝の言葉を伝える。昨夜は余裕がなくそれすら出来なかった。
「当たり前だ……自分から死のうとしていた私を助けてくれたのはヒルドだ」
今でも覚えている、自ら手を伸ばしケルベロスにその身を捧げようとするエドゼルの姿を。全てを失った絶望で自暴自棄になった彼は何度も死にたいと口にした。自分の傲慢さでそれを叶えてやらなかった。
死ぬなら、自分を想って死んでくれと暗い感情すらあった。
今のヒルドブランドはエドゼルによって生かされている。魔法での攻撃法を教えてくれなければ、彼が移動魔法を使わなければ、確実に死んでいた。
「怖い思いをさせてすまない」
あの日を思い出した繊細な人は震える指を必死にヒルドブランドから隠すように握り絞めた。それでも震えを止められずにいる。シャツのボタンを半端に留め、その手を剣だこが取れない手で握った。
「エドゼルが助けてくれたから、今の俺がいるんだ」
それを誇りに思って欲しい。決して悲しい記憶にしないで欲しい。
「……お前は昔から優しすぎるんだ」
絞り出すような声に涙の要素が混じる。堪らなくなって抱きしめた。
「エドゼルのせいではない。早かれ遅かれ退治しなければならない相手だ」
気にしないでくれと伝えても、エドゼルは顔に影を落としたままだ。
「エドゼルが助けてくれたから俺は生きている。安心してくれ……そんなに心配だというなら、もうなんともないと教えるために、また貴方の中に生きてる証を注ぎ込もうか」
何を意味するのかすぐにわからなかったエドゼルが察した次の瞬間、細い両腕を突っぱねた。
「それはっ……昨夜充分味わった、から……」
また頬が紅潮していく。心配し落ち込む顔よりも、照れて怒る顔の方がずっといい。
「貴方が望むなら、何度でも注ぐがどうだ?」
揶揄えば枕が飛んできた。痛みを与えない攻撃に笑い、ベッドを降りる。衣服を整えてから執事を呼んだ。エドゼルが顔色を変え、慌てて上掛けの中へと潜り込む。生娘が初めての朝を迎えたようなその仕草に、再び彼を欲する感情が芽生え始める。だが今はそれよりも重要なことはあった。
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「畏まりました」
すぐに来た執事は言葉少なに部屋を出る。彼が何を思っているかわからないが、主に忠実な仕事をするだろう。
ヒルドブランドは未だ上掛けの中にいるエドゼルへと近づいた。
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