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第四章 贖罪 4

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 すぐさまヒルドブランドは自分の首をしっかりと腕で掴んだシュタインを引き離そうとしたがままならない。騎士団長として今でも剣を振るっているシュタインの力は、魔王討伐から四年が経過した今でも衰えない。筋肉が隆起した腕を食い込ませてくるので外すことも出来ないまま、舞踏会場となっている大広間に引きずられていった。

「あんたら相変わらず仲いいな」

 つまらなさそうに後を付いてくるのは、シュタインの身体に隠されるようにひっそりといるインガルベアトだ。いつものようにその表情は感情を露わにしている。初めて会ったときよりも態度が太々しくなっているが、見た目はちっとも変わらず少年のような顔にはデカデカと「早く帰りたい」と書いてある。

 会場ではすでに人々が料理や酒を口にし、談笑を始めていた。

 これほどつまらない場所はない。暇つぶしにシュタインやインガルベアトと話をしていれば、入れ替わり立ち替わり王城に詰めていた騎士や兵士がヒルドブランドに挨拶に来た。英雄を間近に見れる滅多にない機会に興奮し、一度でいいから手合わせをして欲しいというが、すぐに領地に戻らなければならないと告げ肩を落とす彼らを見送った。

 いつの間にか主役が壇上に腰を下ろし、人々からの祝辞を受けていたが、三人は隅の椅子に腰掛け動こうとはしなかった。

「随分と楽しそうに話していますね」

 そのまま壇上にいればいいのに、ワルドーがわざわざ三人の前にやってきた。

「これはこれは。この度はご成婚おめでとうございます」

 立ち上がり騎士の礼で迎えたのはシュタインだ。大人の余裕を見せるが、それすら慇懃無礼ととったワルドーは「ふんっ」と鼻を鳴らして無視をした。周囲の騎士たちが不遜な第二王子の態度に怒りを露わにする。

 騎士団長ではあるがこの世界の英雄の一人に対して不敬であった。

「魔剣士殿は随分とつまらなさそうにされている。領城に囚人を幽閉しているのだからこんなところで時間を費やしたくないのでしょう」

 罪はあくまでもエドゼルにあると今になっても主張したいのか。己がどれほど愚かなことをしたかを未だに反省していないようだ。

 スッとヒルドブランドは目を細めた。その反応が面白いのか、さらに言葉を連ねてくる。

「戦犯を相手にしなければならないのは骨が折れるようだ、あれの相手は苦労するでしょう、なにせ娼婦よりも淫乱なのですから」

「王子って随分と品がないこと言うんだな。国王の教育ってどうなってんだ?」

 インガルベアトが膝に肘を突き頬杖する。つまらない挑発するなと牽制されているというのに、ワルドーはその言葉に表情を変えたが、すぐに聞こえなかったふりをしてただじっとヒルドブランドを見つめた。

 周囲の貴族がハラハラと見守っているが止める者はいなかった。

「その戦犯と野営中もよろしくやってたくせによく言うよ」

「なっ! あんな奴、魔道士長だから相手をしてやっただけだ! なのに私を嵌めたのだぞ!!」

「はめてたのはあんただろ」

 神官でもあるのに、その口ぶりは変わらず品がない。これにはワルドーも黙ってはいられなかった。

「男なのに媚びてきて股を開いたのはあいつだ! 私がしろと言ったわけではない」

「へー。股とか言うんだ品がないなー」

 シュタインが口の悪いインガルベアトをすぐさま諫めたが、出た言葉は消すことは出来ない。それはワルドーも同じだった。側付きの貴族が窘めたがその勢いは止まらず、エドゼルを悪し様に言い始めた。

 四年経っても彼の性根は変わらないようだ。

 ヒルドブランドは嘆息した。

「我が従兄殿は確かに罪を犯した。しかし、それは貴方も同じだ。そろそろご自分のされたことをしっかりと認識し心で贖ってはいかがか」

 年下のヒルドブランドに諭されたのが気に入らず、ワルドーは顔を真っ赤にした。

「私に罪などないっ! 淫乱な従兄を持ったことをお前こそ恥じろ!」

 さすがの物言いに事実を知る騎士たちの顔色が変わった。ヒルドブランドも同じだった。

「我が従兄を愚弄するか……ではどちらに正義があるかを神に委ねよう」

 ヒルドブランドは近くにいる騎士に片手を伸ばした。その意味を汲み取ってすぐさま剣が渡される。

 神に委ねると騎士が口にしたなら、それは決闘だ。勝つことが神によって示され、それがすなわち神判となる。

 ワルドーも護衛騎士から剣を奪い構えた。

 周囲にいた人々が悲鳴を上げ後退していく。

「あんたら、やり合うなら庭に行けよ。あそこなら広くて戦うのに丁度良いんじゃねーの?」

 それもそうだ。こんな狭いところで戦えば貴族を巻き込んでしまう。すぐにヒルドブランドは庭園へと出た。

「待て、逃げるのか!」

 広い場所まで行き振り向けば、ワルドーが追いかけてくる。剣を構えればすぐさまシュタインが「魔法は使うなよー」と呑気な言葉が飛んできた。さすがに苦笑する。

「使うまでもない」
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