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第三章 魔力返還と罪 8

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「まだだエドゼル。この薄い腹の中が俺の子種でいっぱいになり数日動けなくなるまで感じ続けるんだ」

 残酷な言葉。しかし蜜から得られた魔力に含まれる甘い媚薬に、エドゼルは妖艶に微笑んだ。

「もっと、くれ……」

「……くそっ!」

 エドゼルの細い身体を俯せにし、腰だけを持ち上げるとまた容赦なく欲望を突き挿れた。すぐさま嬌声が上がる。夕日の沈む頃から始まった交情は空が白むまで続けられ、幾多と注がれた蜜で中が満たされた。気を失ってなお痙攣を繰り返す蕾と内股の卑猥さを存分に目に焼き付け、ヒルドブランドは部屋を出た。



 いつ帰ってくるかわからない遠征でヒルドブランドが領城を空けている間、エドゼルは自分の身体が変わったのを感じた。

 以前ほどではないが緩やかに魔力が身体中を巡っている。

 蜜から注がれた媚薬のような成分が抜ければ、視界がはっきりとし始めた。初めはヒルドブランドの蜜を欲して狂ったように暴れていたが、身体の疼きも減り一人で部屋の中を歩き回れるようになると、エドゼルはただ身体の中を巡る魔力に意識を向けた。

 酷く懐かしい感覚。

 それはまさに、あの日失ったエドゼルのものだ。どこかから湧いて出たのではない。ヒルドブランドが魔力を「返還」したのだ。そして思い出す、魔王との決戦の時ヒルドブランドが自分にかけた言葉を。

『……もう貴方は私が憧れていた従兄殿ではない。死にたくなかったら、部屋の隅に隠れてください……貴方は邪魔だ』

 今でもはっきりと、一語一句違うことなく蘇ってくる。

(あいつに奪われたのか、私の魔力は)

 掬い上げれば髪が金色に染まっている。

 そして同じようにワルドーも奪われたのだろう、全ての魔力を。

 奥歯を噛み締めたエドゼルの表情はどこまでも醜く歪んでいた。

 ヒルドブランドが自分達から全てを奪ったのだ。

 ワルドーに与えられるべき名声も、名誉も、何もかもを奪い、この身を彼から離しては抱き続けた。

(許せない……絶対に許せないっ!)

 自分達を愚弄したヒルドブランドがただひたすら憎かった。そして彼に身を許した自分も。

 この二年で初めて部屋を出たエドゼルは、躊躇うことなく玄関へと向かった。引き留めるものはいない。遠征で人の数が減り誰もエドゼルに構う暇がないのをいいことに領城を出た。

 目指すは王都だ。

 この事実を査問会にかけ、あいつを同じように堕としてやる。そして奪われた魔力の全てを取り戻すんだ。

 エドゼルは何も持たず歩き出した。瞬間移動の魔法を使いすぐにでもワルドーの元を訪れたかったが、魔力が全ての証拠である。それを失ってしまえばヒルドブランドを査問会にかけられない。

 初めてエドゼルは旅をした。もう魔物も魔獣も出ない世界は、旅人を脅かすものは何もなかった。

 農地を荒らされることがなくなった人々は富み、山賊や追い剥ぎすら現れなくなった道をひたすら歩き続けた。

 幽閉されているはずのエドゼルが歩き回ったところで、誰もその姿を認識はしない。なにせ常に漆黒のローブを纏
い顔を隠していた宮廷魔道士長の存在すら、人々は知らない。

 野宿し、襲い来る獣を子供でも使える魔法で倒し、それを金に換え食料を得て、王都へと向かった。

 久しぶりに訪れた王都は酷く賑わっていた。城門は開かれ、人々が中央を走る通りに集まっている。まるで遠征から帰ってきた時のようであった。

 あちらこちらから花が振り散らされている。

 何かの祝い事であるのはすぐに見て取れた。

「何があるんだ?」

 汚れた服のまま人々の中に紛れていけば、わぁぁっと歓声が遠くから上がり次第に近づいてくる。降りゆく花も数を増した。

 白馬に引かれた屋根のない白と金で彩られた馬車がゆっくりとやってくる。

「え……?」

 かつての自分と同じ真っ白な髪のままのワルドーと、婚姻のためにやってきたことを物語る白に金糸の衣装を纏った美しい女性が乗っていた。

「アルチュセール国の王女様は本当に美しい。これから婚約の儀でしょ。きっと素敵なんでしょうね」

「でも第二王子で良かったのかしら。自分勝手で魔王討伐でもお荷物になっていたって言うじゃない」

「それは口にしちゃダメ。他の国には活躍したって言っているみたいだから」
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