クロムクドリが鳴くまでは

椎名サクラ

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第三章 魔力返還と罪 4

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 かつての従兄に対する礼を持った口調が消え去った。

 下肢へと伸びたヒルドブランドの手が光った後に、エドゼルは身体の奥がじわりと濡れとろりと何かが流れるのを感じた。不快感が募るのに、閉ざされたエドゼルの足の間に身体を入れ、節張った指が遠慮なくそれを確かめるように隠された蕾を暴いた。指を挿れ割り開く。

「何をするっ、やめろヒルドブランド! そこは止めろ!」

 叫んでも騎士として歴戦を繰り広げた頑健な身体は退いてはくれない。骨のわかる細い腕で叩いても押しのけてもビクリともせず、濡れるのを確かめるように奥へと突き挿れた。

「ひっ……ぁ……」

 二年前までずっと愛する人の欲望を受け挿れていた場所は、久しぶりに受けた刺激に以前のように痛いほど指を締め付ける。最初に与えられるのがいつも痛みだったからだ。

 ワルドーは貪欲な身体だと称したが、本当は違う。いつだって痛みを我慢して彼を受け入れ、やっとその大きさに慣れてから彼を翻弄するのが常だった。一度としてそこを暴かれて女のように悦びにのたうち回ることはなかった。

(そうだ、ヒルドブランドも騎士だ……)

 この身体を欲したのだろうか、第二王子が抱いたこの身体を、魔力の返還と称して味わってみたいと感じたのか。

 他の騎士が抱いた小間使いを興味本位で抱く事があると耳にしたことがある。小間使いもそれを知っていてより魅力的に自分を見せ、地位の高いものの手付けになろうとする、と。騎士たちに可愛がられている間は他の者よりもいい待遇を受けられるから。

(なんて愚かなんだ……私があのような者達と同じだと思っているのか)

 怒りが沸き起こる。

 この身体の全ては愛するワルドーの者だ、誰にでも足を開く小間使いなんかと一緒にするなと細い足を上げ蹴ろうとした。だがすぐに掴まれる。

「綺麗な足だ……」

 足首を引き寄せ、ヒルドブランドは爪先を親指から順に口に含んだ。

「何をする! ……ぁっ!!」

 蕾に挿ったままの指が図を持って動き始めた。抽挿を繰り返しているだけで濡れた淫らな音がそこから立つ。ワルドーが他の恋人たちとしているときと同じ音だ。爪先をねっとりと舌が這い、間を擽るように舐められる感触と、中から沸き起こる感覚が混じって腹の奥が熱くなっていく。次第に指の動きが早まり掌を返して上下に動き始めた。

「ひぃぃぃっ……そこっ……だめだやめてくれぇぇぇ」

 長らく放って置かれた分身の裏を叩かれるたびに奥に湧きあがる熱が量と温度を増していく。灼熱にも似た熱量と初めて味わう感覚に、驚いてまともな言葉が紡げない。

 嫌なのに、嫌なはずなのに、そこばかりを弄られれば腰が勝手に揺らめいて自分から当たるよう動いてしまう。

(どうして……ワルドー様としているときだって辛さばかりがあったはずなのに)

 他の恋人と違うと意識させないように自分で扱いては感じて達した振りを繰り返したのに、今は一度も弄られなかった分身が天を突くほどに勃ち上がり透明な蜜を零している。

 ヒルドブランドが足は堪能したと放し、次はこちらを可愛がろうと、悦びを露わにする分身を口に含んだ。

「ゃぁぁぁっ、やめてそこはっ……あぁぁぁだめだめっ!」

 みっともない姿を見せないよう腹に力を入れても、熱い口内に含まれ舌で弄ばれれば、はしたなく膨らみ解放を望むように透明な蜜を零し続ける。吸われると同時に中の感じる場所も叩かれてはもう堪えることができなかった。

「はなせっはなしてくれ! ゃっ……ぁぁぁぁぁぁぁっ」

 初めて指以外の刺激を受けた分身はたっぷりの蜜をヒルドブランドの口内に吐き出した。口に分身を含んだまま、ヒルドブランドが嚥下する。先端の穴に舌を潜り込ませて、残滓すら残さないと吸われて、達した名残の中を漂っているエドゼルは左右に首を振って抗った。

「だめっやぁぁ」

 自分で刺激するのとは違った深い快楽の中から這い出ることができないのに、力を失った分身を舐め吸われれば、また深淵まで引きずり込まれそうになる。止まることなく中を刺激され続け感覚が一層鋭くなる。

 なぜそんな場所で悦びが湧きあがるのかわからないまま、休む間も与えられずまた愉悦がエドゼルの指先にまで広がっていく。

「なんて感じやすいんだ……随分とあいつに可愛がられていたんだな」

 低い声すら耳に届かない。意識が全て中の刺激に集まってしまう。

 自分から足を大きく開いて腰を振る淫らな姿を晒し、覚えたばかりの快楽を貪っていく。

 濡れた音と、エドゼルが絶えず放つ嬌声と熱い吐息がが冷たい風に掠われていく。

(こわい、止めてくれ……このまま私はどうなってしまうんだ……)

 知らなかった愉悦の荒波はいとも容易くエドゼルを飲み込んでは、さらに深い場所へと押し込もうとしている。抗うようにきつく敷布を掴んで引き寄せても、それは藁のように頼りにならない。空気を求めて喘ぐ唇が乾き、震える舌で舐め濡らした。
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