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第二章 王子の恋人となった宮廷魔道士長 4

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 王城へと向かったヒルドブランドは、王宮騎士団と合流し数度の合同訓練を行った後、魔王討伐部隊に編成された。

 筆頭は、第二王子であり聖騎士のワルドーと宮廷魔道士長のエドゼル、そして神殿から白魔道士長として派遣されたインガルベアトだ。この三人を中心に部隊が作られ、魔王の城へと向かって進み始めた。

 行く手を魔族や魔獣が襲いかかり、なかなか先へと進ませてはくれない。それでも数の力でもって人間は一歩また一歩と魔王城への道のりを歩いて行った。

 ヒルドブランドの部隊の指揮官はシュタイン・リッターという王宮騎士だ。熊のような大男だが気さくで、戦闘時での瞬間的判断力に優れていた。戦法にも精通していて、次期騎士団長と目されているらしい。

 ヒルドブランドはすぐに腹を割って話す間柄になった。

「よう、ヒル。今日は眠れそうか?」

 野営の焚き火の前でシュタインが酒代わりの水を差しだして訊いてきた。まだ魔獣を討った興奮から冷め切らない身体を慮ってくれての言葉だが、ヒルドブランドは疲れた笑みで返した。

 旅を始めてから一月、兵は半分に減っていた。魔物も魔獣も次第に強くなっていくというのに、兵の補充がない。一人当たりにかかる負荷が大きくなるばかりだ。最も大きな原因は、聖騎士や宮廷魔道士が前線へと出てこないことだ。雑兵に任せたとばかりに高みの見物をしている。兵士の中からも不満は上がり、それを抑えるのにも限界が来ていた。

「やっぱり疲れているな。すまん、こいつに回復魔法を掛けてやってくれ」

「別にいーけど」

 シュタインの大きな身体に隠され気付かなかったが連れがいた。その姿を確かめ、ヒルドブランドは慌てて立ち上がった。

「白魔道士長、なぜこのようなところに!」

 ワルドーやエドゼルと同じように後方に控えていると思っていたインガルベアトの姿に最敬礼する。

「気にしなくて良い、俺そういう畏まったの嫌いだから。それと、あいつらと一緒にして欲しくないし」

 ちらりと目をやったのは、ワルドーの為に設けられたテントだ。それも兵士たちの不満を増幅させる理由である。

 インガルベアトはヒルドブランドの額の前に掌を向けると、呪文を唱えることなく白い光を浮かべ、疲弊した身体へと押し込んだ。それだけで魔獣を倒した後からずっと纏わり付いた重々しさがスーッと消えていく。これが回復魔法かと感心する。

「わざわざ、ありがとうございます」

「別に。皆を回復するのが俺の仕事だから」

 仕事は終わったとばかりにインガルベアトは丸太を倒しただけの椅子に座った。

「このようなところでなく」

「それ、本当に止めて欲しいから。やなんだよ、ああいうの」

 またテントへと目を向け苦々しい表情になる。

 白魔道士内でも最も強い魔力を有しているというインガルベアトは、一つに束ねた髪を後ろに払い、行儀悪く膝に肘を突いた。伸ばした手にシュタインがしょうがないなと苦笑して水の入ったコップを手渡す。まだ十八になったばかりと聞いたが、随分と二人は気心が知れているようだ。

「お二人は知己なのですか」

「何度も遠征に出れば皆顔見知りになる。あいつら以外はな」

 随分とワルドーとエドゼルに辛辣だ。

「見ない顔だけど、名前は?」

「ヒルドブランド・アインホルンです。バルヒェット辺境伯領騎士団所属です」

「……アインホルン? もしかして噂の魔剣士のなり損ないか」

「おいベアト、口が過ぎるぞ!」

 すぐさまにシュタインが窘めるが、インガルベアトの表情に悪気は一切なかった。

 歯に衣着せぬ物言いは久しぶりだ。王城へと招集された始めは誰もが口々にそう揶揄ってきたが、ヒルドブランドの実力を知ると静かになった。今ではそれで馬鹿にしてくる者はいなくなったが、久しぶりに事実を突きつけられ、ヒルドブランドは苦笑した。

「はい、なり損ないです」

「へえ、あいつの従弟の割りにはお高くとまってないんだ……驚いた」

 言葉の通りと、まだ少年の名残がある幼い顔に見合う大きな目が見開かれ、何度も瞬きを繰り返す。

 若いのに物怖じせず言いたいことを口にするインガルベアトに好感を抱くと共に、なぜエドゼルに対して攻撃的なのかわからなかった。

 顔に出ていたのかシュタインが嘆息し、同じように丸太に腰掛けてきた。快活に笑う印象の彼が、眉間に皺を寄せる。ちらりと周囲を見回し、もう一度嘆息した。

「お前はずっとバルヒェット辺境伯領にいたから知らないだろうが、嫌われてんだよ、あの二人は。最後って時に出てきて他の奴らの功績を掠め取っちまうって。聖騎士なのに回復魔法は自分にしか使わねーし、宮廷魔道士長殿は聖騎士様最優先で他の奴らの強化もしないわ助けてもくれねーってなったら、誰からも毛嫌いされて当然だ」
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