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第一章 魔力を持たなかった少年 8
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「あぁぁっいい! もっとだふくだんちょ……あぁぁっ」
煽る声すらも芝居じみているように思う。
僅かに冷めた気持ちで嬌態を晒す相手を見下ろし、これが我が従兄ならどれほどの幸福を味わえただろうと、浮かんだ感情を男にぶつけていった。
「あぁっ、奥はダメっ! そこしたらおかしくなる!」
内臓を突き破る勢いで腰を打ち付ければ、作った声を上げていた男の音色が変わり切羽詰まり始めた。ヒルドブランドは何も言わず細腰を力一杯掴み、嬌声が悲鳴に変わるまで奥を暴き、声すら上げられなくする。
狂ったように悦がる男が何度も絶頂し、内股や内壁の痙攣が止まらなくなった頃にやっと心地よい裡に蜜を吐き出す。
手を放すと、立っていられなくなった男は寝台に上体を預けたまま、しゃがみ込んだ。痙攣の震えで押し出され、たらりと流れ落ちた白濁に内股が汚れていく。
ヒルドブランドは細い身体を寝台に横たえてから、服を身につけその部屋から出た。
自分の部屋に戻る廊下の窓からまた月を見上げる。僅かに赤味を宿すその色が従兄の美しい赤毛を思い出させる。
「早く貴方に会いたい……エド……」
優しいあの笑顔を向けられたなら、この十五年で育った想いを告げようとぐっと拳に力を込めた。
男同士で恋愛のまねごとが当たり前となった頃から、誰を抱いてもその存在がエドゼルならと思うようになり、本心に気付いた。憧れていた従兄はいつの頃か恋の対象になっていることに。
そこからはがむしゃらだった。誰からも認められるよう剣術に励み誰よりも多くの敵を倒してきた。ひとえに宮廷にいるエドゼルに会い彼に認められるために。
それももうすぐだ。
ヒルドブランドは自室に戻り着替えた。必要な荷物だけを鞄に詰め愛馬に跨がる。
やらなければならないことを済ませるために、王宮に招集された他の団員よりも一足早くバルヒェット辺境伯領を出て一晩馬を走らせた。
父に報告をしに、十五年ぶりにアインホルン領へと立ち入った。あの頃よりもずっと逞しくなり腰に剣を下げたヒルドブランドに声を掛けてくる者はいない。皆、遠目で見ては何か話している。何も気にならなかった。
バルヒェット辺境伯領で鍛え抜かれ、成果を上げたことへの自信が備わったからだろう。躊躇うことなく父の部屋へと向かう足も、幼い頃の怯えはもう存在しない。その気になれば母の様に剣先を父の首に突きつけられるだけの力がある。
久ぶりに会った父は、執務室へとやってきた息子を品定めするかのような品のない目で見て、自分よりもずっと大きくなったこと、腰に剣を携えていることに細い目をさらに細めた。記憶の中にある顔より随分と老け、狡猾な狐を彷彿とさせる。
「これより王都へ向かい、魔王討伐軍に加わります」
成長した息子と目の前にしても変わらず尊大な態度のまま、魔法も使えないヤツがと冷ややかに口を開いた。
「お前で役に立つのか?」
「さぁ。しかし王命です」
王命と聞いて父は露骨に顔を歪めた。ヒルドブランドは全く気にはしなかった。あれだけ恐ろしいと思っていた父が、酷く小さな存在に思えるのだから不思議だ。キャンキャンと強い相手に吠える小物のように見えてくる。バルヒェット辺境伯領でよく見たタイプだ。自分に力がないからこそ、大きく見せようとしている。
(こんな矮小な人間にあれほど苦しめられていたというのか)
それは自分が成長したからなのか、それとも自信が生まれたからなのか。ヒルドブランドはスッと目を細めた。それだけで父がビクリと身体を強張らせたのがわかる。
今にも魔法を繰り広げようとしているかのようで笑いが込み上げる。
一体何に怯えているのだろうか。
報告が済めばここにいる理由はない。これから自分は剣士として戦いの場へと向かうのだ。些末ごとを打ち捨て、そこに集中しなければならない。あれほど怖いと感じていた父は矮小な人間だった、それが知れただけでもここに来た意味はある。
執務室から出れば、ヒルドブランドの態度が気に入らなかったのか、中で何かが投げられた音がした。嘆息して、そして自分が笑っているのに気付いた。
「ヒルドブランドではないか」
領城から出ようとしたヒルドブランドに声を掛けたのは、エドゼルの父だ。宮廷魔道士長を下りてからアインホルン領に戻り父の補佐をしていると聞いた。
「ご無沙汰しております」
何年かに一度会うか会わないかというのに、見違えるほど逞しくなったヒルドブランドを一目でわかったのに驚き、頭を下げた。
「バルヒェット辺境伯領での活躍は耳にしている。随分と立派になったんだな」
相好を崩し、親しげに肩を叩いてくる。
煽る声すらも芝居じみているように思う。
僅かに冷めた気持ちで嬌態を晒す相手を見下ろし、これが我が従兄ならどれほどの幸福を味わえただろうと、浮かんだ感情を男にぶつけていった。
「あぁっ、奥はダメっ! そこしたらおかしくなる!」
内臓を突き破る勢いで腰を打ち付ければ、作った声を上げていた男の音色が変わり切羽詰まり始めた。ヒルドブランドは何も言わず細腰を力一杯掴み、嬌声が悲鳴に変わるまで奥を暴き、声すら上げられなくする。
狂ったように悦がる男が何度も絶頂し、内股や内壁の痙攣が止まらなくなった頃にやっと心地よい裡に蜜を吐き出す。
手を放すと、立っていられなくなった男は寝台に上体を預けたまま、しゃがみ込んだ。痙攣の震えで押し出され、たらりと流れ落ちた白濁に内股が汚れていく。
ヒルドブランドは細い身体を寝台に横たえてから、服を身につけその部屋から出た。
自分の部屋に戻る廊下の窓からまた月を見上げる。僅かに赤味を宿すその色が従兄の美しい赤毛を思い出させる。
「早く貴方に会いたい……エド……」
優しいあの笑顔を向けられたなら、この十五年で育った想いを告げようとぐっと拳に力を込めた。
男同士で恋愛のまねごとが当たり前となった頃から、誰を抱いてもその存在がエドゼルならと思うようになり、本心に気付いた。憧れていた従兄はいつの頃か恋の対象になっていることに。
そこからはがむしゃらだった。誰からも認められるよう剣術に励み誰よりも多くの敵を倒してきた。ひとえに宮廷にいるエドゼルに会い彼に認められるために。
それももうすぐだ。
ヒルドブランドは自室に戻り着替えた。必要な荷物だけを鞄に詰め愛馬に跨がる。
やらなければならないことを済ませるために、王宮に招集された他の団員よりも一足早くバルヒェット辺境伯領を出て一晩馬を走らせた。
父に報告をしに、十五年ぶりにアインホルン領へと立ち入った。あの頃よりもずっと逞しくなり腰に剣を下げたヒルドブランドに声を掛けてくる者はいない。皆、遠目で見ては何か話している。何も気にならなかった。
バルヒェット辺境伯領で鍛え抜かれ、成果を上げたことへの自信が備わったからだろう。躊躇うことなく父の部屋へと向かう足も、幼い頃の怯えはもう存在しない。その気になれば母の様に剣先を父の首に突きつけられるだけの力がある。
久ぶりに会った父は、執務室へとやってきた息子を品定めするかのような品のない目で見て、自分よりもずっと大きくなったこと、腰に剣を携えていることに細い目をさらに細めた。記憶の中にある顔より随分と老け、狡猾な狐を彷彿とさせる。
「これより王都へ向かい、魔王討伐軍に加わります」
成長した息子と目の前にしても変わらず尊大な態度のまま、魔法も使えないヤツがと冷ややかに口を開いた。
「お前で役に立つのか?」
「さぁ。しかし王命です」
王命と聞いて父は露骨に顔を歪めた。ヒルドブランドは全く気にはしなかった。あれだけ恐ろしいと思っていた父が、酷く小さな存在に思えるのだから不思議だ。キャンキャンと強い相手に吠える小物のように見えてくる。バルヒェット辺境伯領でよく見たタイプだ。自分に力がないからこそ、大きく見せようとしている。
(こんな矮小な人間にあれほど苦しめられていたというのか)
それは自分が成長したからなのか、それとも自信が生まれたからなのか。ヒルドブランドはスッと目を細めた。それだけで父がビクリと身体を強張らせたのがわかる。
今にも魔法を繰り広げようとしているかのようで笑いが込み上げる。
一体何に怯えているのだろうか。
報告が済めばここにいる理由はない。これから自分は剣士として戦いの場へと向かうのだ。些末ごとを打ち捨て、そこに集中しなければならない。あれほど怖いと感じていた父は矮小な人間だった、それが知れただけでもここに来た意味はある。
執務室から出れば、ヒルドブランドの態度が気に入らなかったのか、中で何かが投げられた音がした。嘆息して、そして自分が笑っているのに気付いた。
「ヒルドブランドではないか」
領城から出ようとしたヒルドブランドに声を掛けたのは、エドゼルの父だ。宮廷魔道士長を下りてからアインホルン領に戻り父の補佐をしていると聞いた。
「ご無沙汰しております」
何年かに一度会うか会わないかというのに、見違えるほど逞しくなったヒルドブランドを一目でわかったのに驚き、頭を下げた。
「バルヒェット辺境伯領での活躍は耳にしている。随分と立派になったんだな」
相好を崩し、親しげに肩を叩いてくる。
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