1 / 16
1
しおりを挟む
小学校で行われたバース診断の結果が出た日、母が言った。
「お父さんとお母さんがあなたにピッタリの番を見つけるから、それまでベータのフリをするのよ。絶対オメガだと知られてはダメ。分かったわね」
「はい、お母さん」
学校の保健体育で習ったからアルファやオメガ、ベータについては分かっていたが、なぜベータのフリをしなければならないかまでは理解していなかった。
ただ素直に母の言葉に従い、12歳からずっと薬を寝る前に飲むことを義務付けられ、良家の子女が多い大学までエスカレーター式の学校に通い、運転手が送り迎えをする毎日にも不満を抱かず、ただただ守られるだけの日々を過ごしていた。毎日薬を飲み、月に一度病院に通わなければならないくらい身体が弱いせいだと思っていた。
父と母の庇護の下で生活し、代々続いてる家業は優秀なアルファの兄たちに任せ、自分は末っ子として可愛がられるだけの日々に疑問も抱かず、ちょっと成績が悪くても笑って済まされる生ぬるい日々を過ごしていた。
刺激のない日々がずっと続くんだと菅原碧は思っていた。
今日、この日まで。
昨日突然両親に呼ばれて見合いだと告げられても、感慨もないまま頷いた。
言われるがままにスーツを着て、連れて行かれるがままに料亭に足を運んだ。
そして、自分の番が現れるまでただぼんやりと料亭の座布団に正座するだけだった。
その人は鹿威しの音とともに襖を開け、現れた。
「遅くなって申し訳ございません」
下げた頭を上げた時、碧は世界が急に極彩色に染め上げられたような衝撃が走った。
(かっこいい……)
父と母が選んだ相手だから変な人ではないだろうと釣り書きなどまったく見ずにやってきたが、まさかこんなにもカッコいい人が来るとは思っていなかった。
背が高く、スーツの似合うがっしりとした肩幅、その上に陽に透かすと茶色がかった柔らかそうな髪と柔和な表情がよく似合う、清潔感のある人だ。
(この人が僕のお見合いの相手なんだ……)
こんなにもカッコイイ人がわざわざお見合いするのかと驚きながらも、その綺麗な顔に見惚れる。ポカンと口を開けたままの碧に、母の容赦ない肘鉄が脇腹に突き刺さった。
「んっ……酷いよ、お母さん」
「ぼうっとしてしまうほどお待たせしてしまい、申し訳ございません」
男性は上品な笑みを浮かべながら、テーブルをはさんで碧の前に座った。
ずっと母と談笑していた仲人が、面子が揃ったとばかりに話し出した。
「こちら、天羽一輝さん。AMOUビバレッジの天羽社長のご長男。今は営業部長をなされているのよ」
「いえ、まだ修行中の身です」
「あらあらご謙遜を。大変ご活躍をされていると伺っているわ」
大人の表面的な会話が続いても、名前以外は碧の頭に入ってこなかった。
(一輝さんか……顔だけじゃなくて名前もカッコイイ……)
この人が本当に自分の見合い相手なんだと思うだけで、碧は今までにないほど胸が高鳴り、じっとしていられなくなった。カッコいい人なら碧の周りにもたくさんいる。二人の実兄もアルファなだけあって見目がしっかりしているし、周囲からも評判が高い。けれど、こんなに優しい雰囲気を纏ってはいない。時折見かける兄の友人のアルファも同様で、皆どこかガツガツとして余裕がなさそうだった。
けれど一輝は違っている。周囲の空気までもをキラキラと輝かせるような華やかさがあるのに、その雰囲気はどこまでも優しい。
仲人の褒め言葉に時折困ったような笑みを浮かべるが、それすらもカッコよく見える。
彼の顔を見ているだけで顔が赤くなってしまう。そんな自分を落ち着かせたくて、碧はなるべく彼のほうを見ずに膝の上でこぶしを握った。少しでも緊張しているのを隠すために。
「こちらが菅原製薬の三男の碧さん。今高校三年生ですのよ」
ぺこりと頭を下げるのがやっとだ。
今顔を上げたら、真っ赤になっているのを知られてしまう。だって、こんなにも優しそうでカッコよくて素敵な人、知らない。緊張しすぎてなにも話せないでいる碧に気を使ってか、一輝が色々と話しかけてくるが口を開けずにいると、代わりに母が答えていく。
下を向いてばかりの碧に何度も肘鉄を突きながら。
でもあまりの恥ずかしさに本当になにも耳に入ってこない。
だから、お見合いの定番の「あとはお若い方同士で」のセリフも耳を通り過ぎてしまった。いつの間にか母も仲人も消え、一輝とだけとなった空間に自分がいる。
こんなに緊張したのは初めてだ。
どうしてここまで緊張してしまうのかわからないまま、なにをしていいのかパニックになりながら途方に暮れる。
なにを話していいかわからないし、顔を見て話すなんて最低限のマナーすらこなす余裕がない。
自分を必死で落ち着かせようと、碧は勢いよくお茶を飲むが逆に喉に詰まらせむせてしまう。
そんな碧に一輝は朗らかに笑いながらハンカチを差し出してきた。
「そんなに緊張しなくていいよ。碧くん、と呼んでいいかい?」
「あ……はいっ! ありがとうございます」
語尾が窄まる。
恥ずかしい。初めて会った日にこんな失態をしてしまうなんて。
余計に一輝の顔を見ることができない。
なんでこんなに緊張してしまうのだろう。
家族からはマイペース過ぎると言われるくらい、いつもはのほほんとぼんやりとしているのに、一輝の前では変わってしまう。
(なんで僕、こんなになっちゃうんだろう)
目が離せなくなったり、逆に見つめられなかったり。まったく正反対の行動をとっている。碧は自分でも混乱していた。
こんなに固くなったら相手に失礼だとわかっているのに、頭の中にいろんなことがぐるぐると駆けめくり、本当になにも言えない。
ひたすら固まっている碧に、一輝はクスクスと笑った。
「緊張しないでというのは無理だね。良かったら少し外に出ようか」
「……はい」
一輝の後を追い、広い庭園に降りる。
春先の庭園には色とりどりの花が咲き乱れ、小さなバラ園まである。碧はそれに惹きつけられた。今までの緊張が一気になくなり、駆け寄る。
「花が好きなの?」
「はい……この薔薇描いたら綺麗だなと思って……」
「絵を描くのかい?」
「今、油絵を描いているんです!」
碧に許されたのは、家でできることだけだった。部活も禁止され、登下校も運転手の送り迎えと徹底されている生活になに一つ不満はないけれど、家族みんなが忙しく帰ってくるまでの暇つぶしで始めたのが絵画だった。やってみたら面白くて、風景画ばかりだが通ってくる先生に色々教えてもらいながら一年前から油絵を描き始めている。
「どんな絵を描くの?」
「風景画とか植物とか……でも僕は家から出ちゃいけないから庭の風景とか庭師さんが育てた花とかになっちゃうんですけど」
不満はない。
けれど修学旅行も遠足もすべて参加できないのは少し寂しい。いつも変わらない風景だけを見るだけだから。
過保護な両親は碧のために旅行も諦めているのを知っているから、仕方ないと諦めている。
「僕が毎日お薬を飲まないといけないくらい身体が弱いから、なかなか遠くに行けないんです」
「そうだったんだ。なんの薬を飲んでいるんだい?」
「グルゴーファという、父の会社で開発された薬です」
ここ数年飲み続けている薬の名前を口にする。自分のどこが悪いのかわからないけれど、学校以外で外に出ることを両親も兄たちも快く思っていないから、碧も我慢するしかなかった。
「ご両親が許してくれたら、いろんなところに行きたい?」
「行ってみたいです、山も海も! 僕、行ったことないんです」
写真やテレビで見るが、潮の香りも森の香りも碧は知らなかった。
行ってみたいといつも思っていて、でも言い出せないままでいた。もし行けたらなにを置いてもまずスケッチに走るだろう。そしてもっと大きな絵を描きたい。今は大きくても20号(72.8cm×60.6cm)くらいだが、いろんなものを見たらもっと大きな絵が描けそうな気がする。
でも無理だ。
両親だけじゃなく兄たちもきっと許してはくれない。
だから、それはあくまでも夢。
「連れて行ってあげようか」
「え?」
「碧くんが行きたいなら、私が連れて行ってあげるよ」
驚いて見上げると、一輝がしゃがみこんでいる碧を見下ろし、微笑んでいた。とても優しい表情で。
(凄い、優しそうに笑うんだ……)
見惚れてしまう。
さっきまで見ていたハイブリッド・ティーローズの美しさが思い出せないほど頭の中が一輝の笑顔でいっぱいになる。
ほわんと頬が赤くなる。
「ぁ……でもお父さんとお母さんがなんていうか……」
「ご両親の了解があればいいんだろう。身体に無理のない範囲で連れて行ってあげるよ」
「本当ですか?」
「約束しよう。だからね、このお見合いは継続でいいかな?」
「ぁ……」
そうだ、今この綺麗な人とお見合いをしていたんだ。
「あの……どうして僕とお見合いしてるんですか?」
婉曲に伝えることを知らない碧は、ずっと抱いていた疑問をぶつけた。
こんなにカッコいいならわざわざお見合いなんてしなくても、告白してくる相手はたくさんいるだろう。だって、こんな優しく微笑まれたら誰だって好きになってしまう。自分みたいに……。
「もしかして、お父さんとお母さんが無理やり……もしそうだったら断ってくれていいです! 僕、ちょっと残念だけど受け入れますから!」
強引な両親が、手ごろな相手を無理矢理この場に連れてきたのではないかと危惧した。
いつも碧にぴったりの番を見つけるからと言っていたくらいだ。相手の意志を聞かずに無理矢理この場に連れてこられたと言われても驚きはしないだろう。
なのに、一輝はクスクスと口元を拳で隠しながら笑い、碧がしているのと同じようにしゃがみこんできた。
「碧くんは面白いね。釣り書きの写真を見た時から君に興味があったと言ったら信じる?」
大人特有の言い回しに、適応できない碧は首を傾げた。
「写真よりも実物のほうがずっと可愛いね。良かったら来週、デートしよう」
一輝はずっと大人の余裕を持った優しい笑みを浮かべていた。
「お父さんとお母さんがあなたにピッタリの番を見つけるから、それまでベータのフリをするのよ。絶対オメガだと知られてはダメ。分かったわね」
「はい、お母さん」
学校の保健体育で習ったからアルファやオメガ、ベータについては分かっていたが、なぜベータのフリをしなければならないかまでは理解していなかった。
ただ素直に母の言葉に従い、12歳からずっと薬を寝る前に飲むことを義務付けられ、良家の子女が多い大学までエスカレーター式の学校に通い、運転手が送り迎えをする毎日にも不満を抱かず、ただただ守られるだけの日々を過ごしていた。毎日薬を飲み、月に一度病院に通わなければならないくらい身体が弱いせいだと思っていた。
父と母の庇護の下で生活し、代々続いてる家業は優秀なアルファの兄たちに任せ、自分は末っ子として可愛がられるだけの日々に疑問も抱かず、ちょっと成績が悪くても笑って済まされる生ぬるい日々を過ごしていた。
刺激のない日々がずっと続くんだと菅原碧は思っていた。
今日、この日まで。
昨日突然両親に呼ばれて見合いだと告げられても、感慨もないまま頷いた。
言われるがままにスーツを着て、連れて行かれるがままに料亭に足を運んだ。
そして、自分の番が現れるまでただぼんやりと料亭の座布団に正座するだけだった。
その人は鹿威しの音とともに襖を開け、現れた。
「遅くなって申し訳ございません」
下げた頭を上げた時、碧は世界が急に極彩色に染め上げられたような衝撃が走った。
(かっこいい……)
父と母が選んだ相手だから変な人ではないだろうと釣り書きなどまったく見ずにやってきたが、まさかこんなにもカッコいい人が来るとは思っていなかった。
背が高く、スーツの似合うがっしりとした肩幅、その上に陽に透かすと茶色がかった柔らかそうな髪と柔和な表情がよく似合う、清潔感のある人だ。
(この人が僕のお見合いの相手なんだ……)
こんなにもカッコイイ人がわざわざお見合いするのかと驚きながらも、その綺麗な顔に見惚れる。ポカンと口を開けたままの碧に、母の容赦ない肘鉄が脇腹に突き刺さった。
「んっ……酷いよ、お母さん」
「ぼうっとしてしまうほどお待たせしてしまい、申し訳ございません」
男性は上品な笑みを浮かべながら、テーブルをはさんで碧の前に座った。
ずっと母と談笑していた仲人が、面子が揃ったとばかりに話し出した。
「こちら、天羽一輝さん。AMOUビバレッジの天羽社長のご長男。今は営業部長をなされているのよ」
「いえ、まだ修行中の身です」
「あらあらご謙遜を。大変ご活躍をされていると伺っているわ」
大人の表面的な会話が続いても、名前以外は碧の頭に入ってこなかった。
(一輝さんか……顔だけじゃなくて名前もカッコイイ……)
この人が本当に自分の見合い相手なんだと思うだけで、碧は今までにないほど胸が高鳴り、じっとしていられなくなった。カッコいい人なら碧の周りにもたくさんいる。二人の実兄もアルファなだけあって見目がしっかりしているし、周囲からも評判が高い。けれど、こんなに優しい雰囲気を纏ってはいない。時折見かける兄の友人のアルファも同様で、皆どこかガツガツとして余裕がなさそうだった。
けれど一輝は違っている。周囲の空気までもをキラキラと輝かせるような華やかさがあるのに、その雰囲気はどこまでも優しい。
仲人の褒め言葉に時折困ったような笑みを浮かべるが、それすらもカッコよく見える。
彼の顔を見ているだけで顔が赤くなってしまう。そんな自分を落ち着かせたくて、碧はなるべく彼のほうを見ずに膝の上でこぶしを握った。少しでも緊張しているのを隠すために。
「こちらが菅原製薬の三男の碧さん。今高校三年生ですのよ」
ぺこりと頭を下げるのがやっとだ。
今顔を上げたら、真っ赤になっているのを知られてしまう。だって、こんなにも優しそうでカッコよくて素敵な人、知らない。緊張しすぎてなにも話せないでいる碧に気を使ってか、一輝が色々と話しかけてくるが口を開けずにいると、代わりに母が答えていく。
下を向いてばかりの碧に何度も肘鉄を突きながら。
でもあまりの恥ずかしさに本当になにも耳に入ってこない。
だから、お見合いの定番の「あとはお若い方同士で」のセリフも耳を通り過ぎてしまった。いつの間にか母も仲人も消え、一輝とだけとなった空間に自分がいる。
こんなに緊張したのは初めてだ。
どうしてここまで緊張してしまうのかわからないまま、なにをしていいのかパニックになりながら途方に暮れる。
なにを話していいかわからないし、顔を見て話すなんて最低限のマナーすらこなす余裕がない。
自分を必死で落ち着かせようと、碧は勢いよくお茶を飲むが逆に喉に詰まらせむせてしまう。
そんな碧に一輝は朗らかに笑いながらハンカチを差し出してきた。
「そんなに緊張しなくていいよ。碧くん、と呼んでいいかい?」
「あ……はいっ! ありがとうございます」
語尾が窄まる。
恥ずかしい。初めて会った日にこんな失態をしてしまうなんて。
余計に一輝の顔を見ることができない。
なんでこんなに緊張してしまうのだろう。
家族からはマイペース過ぎると言われるくらい、いつもはのほほんとぼんやりとしているのに、一輝の前では変わってしまう。
(なんで僕、こんなになっちゃうんだろう)
目が離せなくなったり、逆に見つめられなかったり。まったく正反対の行動をとっている。碧は自分でも混乱していた。
こんなに固くなったら相手に失礼だとわかっているのに、頭の中にいろんなことがぐるぐると駆けめくり、本当になにも言えない。
ひたすら固まっている碧に、一輝はクスクスと笑った。
「緊張しないでというのは無理だね。良かったら少し外に出ようか」
「……はい」
一輝の後を追い、広い庭園に降りる。
春先の庭園には色とりどりの花が咲き乱れ、小さなバラ園まである。碧はそれに惹きつけられた。今までの緊張が一気になくなり、駆け寄る。
「花が好きなの?」
「はい……この薔薇描いたら綺麗だなと思って……」
「絵を描くのかい?」
「今、油絵を描いているんです!」
碧に許されたのは、家でできることだけだった。部活も禁止され、登下校も運転手の送り迎えと徹底されている生活になに一つ不満はないけれど、家族みんなが忙しく帰ってくるまでの暇つぶしで始めたのが絵画だった。やってみたら面白くて、風景画ばかりだが通ってくる先生に色々教えてもらいながら一年前から油絵を描き始めている。
「どんな絵を描くの?」
「風景画とか植物とか……でも僕は家から出ちゃいけないから庭の風景とか庭師さんが育てた花とかになっちゃうんですけど」
不満はない。
けれど修学旅行も遠足もすべて参加できないのは少し寂しい。いつも変わらない風景だけを見るだけだから。
過保護な両親は碧のために旅行も諦めているのを知っているから、仕方ないと諦めている。
「僕が毎日お薬を飲まないといけないくらい身体が弱いから、なかなか遠くに行けないんです」
「そうだったんだ。なんの薬を飲んでいるんだい?」
「グルゴーファという、父の会社で開発された薬です」
ここ数年飲み続けている薬の名前を口にする。自分のどこが悪いのかわからないけれど、学校以外で外に出ることを両親も兄たちも快く思っていないから、碧も我慢するしかなかった。
「ご両親が許してくれたら、いろんなところに行きたい?」
「行ってみたいです、山も海も! 僕、行ったことないんです」
写真やテレビで見るが、潮の香りも森の香りも碧は知らなかった。
行ってみたいといつも思っていて、でも言い出せないままでいた。もし行けたらなにを置いてもまずスケッチに走るだろう。そしてもっと大きな絵を描きたい。今は大きくても20号(72.8cm×60.6cm)くらいだが、いろんなものを見たらもっと大きな絵が描けそうな気がする。
でも無理だ。
両親だけじゃなく兄たちもきっと許してはくれない。
だから、それはあくまでも夢。
「連れて行ってあげようか」
「え?」
「碧くんが行きたいなら、私が連れて行ってあげるよ」
驚いて見上げると、一輝がしゃがみこんでいる碧を見下ろし、微笑んでいた。とても優しい表情で。
(凄い、優しそうに笑うんだ……)
見惚れてしまう。
さっきまで見ていたハイブリッド・ティーローズの美しさが思い出せないほど頭の中が一輝の笑顔でいっぱいになる。
ほわんと頬が赤くなる。
「ぁ……でもお父さんとお母さんがなんていうか……」
「ご両親の了解があればいいんだろう。身体に無理のない範囲で連れて行ってあげるよ」
「本当ですか?」
「約束しよう。だからね、このお見合いは継続でいいかな?」
「ぁ……」
そうだ、今この綺麗な人とお見合いをしていたんだ。
「あの……どうして僕とお見合いしてるんですか?」
婉曲に伝えることを知らない碧は、ずっと抱いていた疑問をぶつけた。
こんなにカッコいいならわざわざお見合いなんてしなくても、告白してくる相手はたくさんいるだろう。だって、こんな優しく微笑まれたら誰だって好きになってしまう。自分みたいに……。
「もしかして、お父さんとお母さんが無理やり……もしそうだったら断ってくれていいです! 僕、ちょっと残念だけど受け入れますから!」
強引な両親が、手ごろな相手を無理矢理この場に連れてきたのではないかと危惧した。
いつも碧にぴったりの番を見つけるからと言っていたくらいだ。相手の意志を聞かずに無理矢理この場に連れてこられたと言われても驚きはしないだろう。
なのに、一輝はクスクスと口元を拳で隠しながら笑い、碧がしているのと同じようにしゃがみこんできた。
「碧くんは面白いね。釣り書きの写真を見た時から君に興味があったと言ったら信じる?」
大人特有の言い回しに、適応できない碧は首を傾げた。
「写真よりも実物のほうがずっと可愛いね。良かったら来週、デートしよう」
一輝はずっと大人の余裕を持った優しい笑みを浮かべていた。
156
お気に入りに追加
2,056
あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

からかわれていると思ってたら本気だった?!
雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生
《あらすじ》
ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。
ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。
葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。
弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。
葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?
モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。
平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。
ムーンライトノベルズにも掲載しております。

当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。

だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています

欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる