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終章3
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二人が王都では大人気で、老若男女問わず声をかけられ、年頃の娘は自分の結婚相手にと秋波を送ってくるのが、正直腹立たしい。二人は僕のものだと叫びたいのをぐっと抑えながら、それを見ないように先に進んだ。
武器屋へと入ると、店主が嬉しそうにソーマを出迎えてくれた。
「いやぁお嬢ちゃん。待ってたよ。これ、約束のものだ」
袋一杯の金貨を渡しながら感謝してくる。
「うわぁ凄いっ! あの鱗、誰が買い取ったんですか?」
好奇心で訊ねてみる。こんなに大量の金貨をたった数日で用意できるような人間に興味があった。
「ほら、お前さんの隣にいるゲオルク様さ。さすが当代きっての勇者様、金払いが良くて助かるよ」
「え……ゲオルクが買ったの?」
ゲオルクは頷くだけで、それ以上何も言わなかった。店主と数言交わし店を出て、ソーマは持っていた金貨をゲオルクに差し出した。
「どうしたんだ?」
「だってこれ、ゲオルクのお金でしょ? 僕受け取れないよ」
「何を言っている。これは正当な対価だ、俺はあの店から鱗を買っただけだ」
「でも……」
「鱗とはなんの話なのだ」
何も知らないザームエルが首を突っ込んでくる。
果たしてどこまで言えばいいのか……。娼館に行くお金を稼ぎたくて自分の鱗を売りましたと言ったら、怒られるだろうか……。絶対に争いになる、間違いない。
黙ってようとしても、ゲオルクがあっさりと内容をザームエルに伝えてしまう。
「なんだと! それは本当か!?」
「ぁ……それはその……」
「お前の鱗一つ、所有権は俺にある」
「違う、我らのはずだ。その鱗の権利、半分私が持とう」
「いや、結構。あれは俺個人の持ち物として誰にも譲るつもりはない」
「なんだとっ! ずるいぞゲオルク」
「なんとでも言え」
言い争う二人をまぁまぁと宥めながら歩いていると、場所はあの娼館の傍になっていた。
(あ……ここ……)
時折、前世からの宿願が頭をよぎる。しかも今、手にはたっぷりの金貨がある。ソーマの中にスケベ心が芽生えた時、目の前を理想のボンギュッボンの、いかにも閨の作法に秀でてますといった女性が、娼館へと向かって歩いていった。
(ああいう人がいるんだ……)
もし彼女が相手をしてくれたら、童貞喪失は楽しいだろうなとぼんやりと考えていると、なぜか左右から両腕を掴まれた。
「え?」
「今なにを見ていた」
「なにって……あの……」
「私たちがいて、他に目移りしないと約束したではないかっ!」
「そういうんじゃない、絶対に違う……かも……」
自然と声が小さくなる。やましい気持ちがなかったと言ったら嘘だ。はやり心のどこかでいつかは童貞喪失したいと願ってしまうソーマは、無意識にちらりと娼館のほうに目をやってしまう。
「そういえば以前ここで、童貞喪失したいと言っていたな」
「私の時は嫁を探しに行くと言っていた」
後先考えずにものを言った自分の愚かさを自覚した途端、背筋に冷たい汗が流れ落ちた。
「えっと……あのそれは……」
なんと言えばこの不穏な空気から逃げられるのだろうか……。
「ここからならゲオルク、お前の家が近かったな」
「ああ、そうだな。ゲーネルデスの体液もまだたっぷりと残っている」
「ほう、それはまた珍しいものを置いているな」
「……あの…二人とも、なんの話をしているの、かな……」
「当然、お仕置の話だ」
「ソーマにはきちんと自覚してもらわねばならぬからな」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ずるずるとゲオルクの屋敷へと引きずられていくソーマの姿を、羨ましそうに眺める男性たちと、嫉妬渦巻く視線で見つめる女性たちが多数いたとかいないとか。
今日も王都は平和であった。
武器屋へと入ると、店主が嬉しそうにソーマを出迎えてくれた。
「いやぁお嬢ちゃん。待ってたよ。これ、約束のものだ」
袋一杯の金貨を渡しながら感謝してくる。
「うわぁ凄いっ! あの鱗、誰が買い取ったんですか?」
好奇心で訊ねてみる。こんなに大量の金貨をたった数日で用意できるような人間に興味があった。
「ほら、お前さんの隣にいるゲオルク様さ。さすが当代きっての勇者様、金払いが良くて助かるよ」
「え……ゲオルクが買ったの?」
ゲオルクは頷くだけで、それ以上何も言わなかった。店主と数言交わし店を出て、ソーマは持っていた金貨をゲオルクに差し出した。
「どうしたんだ?」
「だってこれ、ゲオルクのお金でしょ? 僕受け取れないよ」
「何を言っている。これは正当な対価だ、俺はあの店から鱗を買っただけだ」
「でも……」
「鱗とはなんの話なのだ」
何も知らないザームエルが首を突っ込んでくる。
果たしてどこまで言えばいいのか……。娼館に行くお金を稼ぎたくて自分の鱗を売りましたと言ったら、怒られるだろうか……。絶対に争いになる、間違いない。
黙ってようとしても、ゲオルクがあっさりと内容をザームエルに伝えてしまう。
「なんだと! それは本当か!?」
「ぁ……それはその……」
「お前の鱗一つ、所有権は俺にある」
「違う、我らのはずだ。その鱗の権利、半分私が持とう」
「いや、結構。あれは俺個人の持ち物として誰にも譲るつもりはない」
「なんだとっ! ずるいぞゲオルク」
「なんとでも言え」
言い争う二人をまぁまぁと宥めながら歩いていると、場所はあの娼館の傍になっていた。
(あ……ここ……)
時折、前世からの宿願が頭をよぎる。しかも今、手にはたっぷりの金貨がある。ソーマの中にスケベ心が芽生えた時、目の前を理想のボンギュッボンの、いかにも閨の作法に秀でてますといった女性が、娼館へと向かって歩いていった。
(ああいう人がいるんだ……)
もし彼女が相手をしてくれたら、童貞喪失は楽しいだろうなとぼんやりと考えていると、なぜか左右から両腕を掴まれた。
「え?」
「今なにを見ていた」
「なにって……あの……」
「私たちがいて、他に目移りしないと約束したではないかっ!」
「そういうんじゃない、絶対に違う……かも……」
自然と声が小さくなる。やましい気持ちがなかったと言ったら嘘だ。はやり心のどこかでいつかは童貞喪失したいと願ってしまうソーマは、無意識にちらりと娼館のほうに目をやってしまう。
「そういえば以前ここで、童貞喪失したいと言っていたな」
「私の時は嫁を探しに行くと言っていた」
後先考えずにものを言った自分の愚かさを自覚した途端、背筋に冷たい汗が流れ落ちた。
「えっと……あのそれは……」
なんと言えばこの不穏な空気から逃げられるのだろうか……。
「ここからならゲオルク、お前の家が近かったな」
「ああ、そうだな。ゲーネルデスの体液もまだたっぷりと残っている」
「ほう、それはまた珍しいものを置いているな」
「……あの…二人とも、なんの話をしているの、かな……」
「当然、お仕置の話だ」
「ソーマにはきちんと自覚してもらわねばならぬからな」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ずるずるとゲオルクの屋敷へと引きずられていくソーマの姿を、羨ましそうに眺める男性たちと、嫉妬渦巻く視線で見つめる女性たちが多数いたとかいないとか。
今日も王都は平和であった。
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なかなかのエロっぷりで最高です(〃ω〃)
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みこ様
毎日更新にお付き合い頂きありがとうございます。
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どぽぽ様
体を気遣っていただきありがとうございます。
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