異世界に転生したら王子と勇者に追いかけられてます

椎名サクラ

文字の大きさ
上 下
103 / 111

本編100

しおりを挟む
「……父さんはどうしてお父さんの前から消えたの?」

 ソーマが成人して竜王を譲渡した途端、会いに行きたいほど想っていたのに。むしろその日をずっと待ち望んでいたように感じられた。

「言えなかったんだ、自分が竜だということを。嫌われたくなかった……だからお前を身籠って、それが見つからないように離れたんだけど、やっぱり駄目だね。本当はずっと傍にいたかったから」

 離れたことを、隠し事をしたことをすぐに後悔した。だが男が妊娠するなんて想像もしない人間に、お前との子を身籠ったとは言えないし、悪い冗談と流されかねない。

 その時のユリウスは臆病だった。

 コルネリウスの測りかね、そして逃げた。自分が竜と知られないために。

「大切な人に隠し事をした罰だね、これは。だから甘んじて受けるんだ」

「でもお父さん、僕のことを受け入れてたよ」

「今はね。でもコルネリウスがお前の存在を知ったのは、つい最近なんだ。それまでも、言えなかった。後悔しているよ」

 父でも後悔をするのか。それが不思議で少しだけ安堵する。

 ユリウスはソーマをじっと見て、そして笑った。

「たっぷり愛してもらったみたいだね、ソーマの気が安定している」

「それはっ!」

 元竜王となるとそういうものまで見えるのだろうか。今まで何をしていたかは、ソーマが肩を露にして寝台に臥せっているから一目瞭然だろうが、気の安定とはなんだろう。ソーマは出口を探すために少しだけ父に感情を吐露する。

「…………ねえ父さん、僕どうしたらいいのかな?」

「どうしたら、とは?」

「ザームエルとゲオルクのこと……どうしたらいいんだろう」

「随分と曖昧な質問だね。ソーマは二人とどういう関係になりたいんだ?」

「二人のこと、特別だって思ってる。こういうことしてるからかもしれないけど、それでもなにかあったらすごく心配してしまうくらいには大切な存在なんだ」

「ソーマ、よく聞くんだ。ここで人間の親なら悩んで向き合えと進言するだろうが、僕たちの場合は違う。結論を早く出さないと後悔するよ」

「どうして?」

「人間と竜は、同じ時間を歩めないからだ。彼らの寿命は短い。のんびりしていたら、彼らはすぐに年老いて死んでしまう」

「ぁ……」
 脳裏に、馬車に乗せてくれた老人を思い出す。若い頃に父に会ったという老人は間もなくその人生を全うするであろう容姿で、対して目の前にいるのは何十年経っても変わらない容姿をした竜族だ。それは自分たちにも当てはまる。いつか年を取る二人に対して、まだ生まれたばかりと言っても過言ではないソーマは、きっとこのままだろう。そして二人の死を見送り、その後も何百年と生き続ける。

 彼らのいない世界で。

 よっぽどのことがない限り死ぬことのない自分は、結論を出せないままでいたら、ただ後悔を抱きながら生きていくしかないのだ。もういない二人に何もできないままでいたという想いを胸に。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

お願い先輩、死なないで ‐こじらせリーマン、転生したらアルファになった後輩に愛される‐

にっきょ
BL
サラリーマン、岸尾春人は車に轢かれて後輩の佐久間諒と「第二の性」のある異世界に転生する。 冒険者として登録し、働き始める二人。 ……だったが、異世界でもやっぱり無能は無能! 後輩である佐久間の方がちやほやされるので何か嫌! そう思って逃げ出したけど一人で生きるのもままならない岸尾! 先輩の言うこと以外聞きたくないα×自意識こじらせ系無能Ω

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...