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本編92

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 どうしてこんなにも二人のことが気になるのかわからないまま、いつものように深く考えることを放棄する。それは前世からの駄目なところでもあった。辛いことや真面目に考えなければならないことからすぐに逃げだして、安楽な道を選ぼうとしてしまう。

 逃げて逃げて逃げて、そしてなにも残らないのに、逃げ続けて振り返ると誰もいないことに憤怒するのだ。

「いけないってわかってる」

 分かっていても、逃げてしまう自分の弱さを持て余していた。

 ソーマは無理矢理身体を起こし、蜜で汚れたままの肌に衣服を身に付けていった。

 ここにいたらダメだ。またきっと流されてしまう。

 そう自分に言い聞かせながら、ゲオルクの家から出た。

 三日ぶりに見た太陽は異様なほど眩しく、まともに歩けないソーマは家々に壁を伝いながらなんとか前に進む。

 そして道行く人にある場所を聞いてはそこに近づいていった。

 門を守る衛兵に自分の名前を告げ中に入れてもらう。

 ソーマが行きついたのは、この王都で最も安全な場所だった。

「来るのが随分と遅かったね、ソーマ」

 出迎えてくれたのは、なぜか足に長い鎖を付けたユリウスだ。

「父さん……」

「……一体どんな旅をしてきたんだい? とにかく風呂に入ってゆっくりしておいで。話はそれからにしよう」

 ソーマを使用人に託すと、ユリウスはこのことを王宮にいるコルネリウスに告げるよう、執事に言い渡し、自分の部屋へと戻っていった。

 ゆったりと温かいお湯に浸かり、ゆっくりと身体の緊張をほぐした後、清潔なタオルで水を拭き取り身支度を整えたソーマは、ユリウスの部屋へと案内されようとしたのを断り、とにかく眠りたいと部屋を用意してもらい、安息できる場所で夕食も摂らず、意識を失うように眠り続けた。

 ようやく自然と目を覚ましたのは夜も更けてからだった。

 たっぷりとゲオルクで満たされたせいで腹は減っていなかったが、啼きすぎたせいで喉が渇きすぎていた。カラカラの喉を潤すためにキッチンを探して初めて訪れた屋敷を彷徨う。想像していた以上に、宰相の屋敷は大きすぎて、階段を見つけるのにも時間がかかる。

 なんとか台所に辿り着き存分に樽の中の水を飲み干して、さて部屋に戻ってもうひと眠りしようとして、ソーマは大変なことに気付いた。

 屋敷があまりにも広すぎて、自分が寝ていた部屋が解らない。

「どうしよう……」

 随分と耽った夜だ、皆寝静まり、使用人も誰もいないから誰かに聞くこともできない。

 しかも部屋のドアを閉めて出てしまったので、どれがどの部屋か全くわからなくなっている。

 なんとか二階まで上がったが、降りる時に使ったのとは違う階段を使用したせいか、景色が変わりそこから先が本当にわからなくなった。

「一つずつ開けるしかないかな?」

 もし他の人が寝ていたら起こしてしまうからと、そっと中を覗き込んで自分がいた部屋を探す。

「ここでもない……」

 そっと開けては閉めることを繰り返しながら、一つずつ確認していったソーマはある部屋を開けて固まった。

(えっ、なに?)
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