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本編83

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(ちゃんと夜に行って普通レベルの子に相手をしてもらえば、このお金で足りるよね)

 なんで今まで気づかなかったのだろう。いや、むしろ今気づいた自分偉い!

 今朝までは無一文だったが、今は違う。一か月遊んで暮らせるくらいの金はあるのだから、娼婦を買えないはずがない。

 しかもいい具合に夜になりかかっている。

 もう少し時間をつぶして、今日を悲願達成の日にしよう。

 ソーマは頬を紅潮させながら、生まれて初めて夜の訪れをまだかまだかと待ち望んだ。こんなにも夜が来るのが楽しいと思ったことはあったか……そう言えばあった。

 チクリとソーマの胸に罪悪感が芽生える。

 ザームエルの顔がちらりと頭をよぎる。同時にゲオルクの顔も。

 なぜか二人から執拗に犯され続けた夜のことが思い出される。どっちのものが挿っているか解からないほど頭の中をドロドロにされ、悦がり狂いながらも胸のどこかが満たされた、あの夜を。

 ズキンッと胸が痛んだ。なぜだろう、二人の顔を思い出すたびに、これからしようとしていることが悪事に感じられる。本当は男に抱かれるよりも女を抱きたいと必死で思っていても、別の場所で二人に抱かれた記憶が蘇り、そのたびに身体の奥が疼き出した。

(いや、これはまだ男同士のしかしらないからだ。ちゃんと男女の営みを知ったら変わる……はず、多分)

 何度自分に言い聞かせても、一度思い出した交情に身体が疼く。もう長い時間二人に会ってないし、触れられてもいない。ザームエルからセックスを教えられてから、毎夜のように気持ちいいことをされ続けてきたから、それが当たり前のようになってしまった身体は、日を追うごとに欲求を大きくする。達かなくても脳髄まで痺れるような快楽を知ってしまった今、もう一度あの狂うような快楽が欲しいとソーマに訴えている。

(だめだっ……二人のことは脱童貞してからゆっくり考えるって決めたんだ)

 なにせ、脱童貞は悲願なのだから。早々とその悲願を達成しないと……。ゆっくりと沈んでいく太陽が建物の色を変え始めていた。間もなく夜がやってくる。本当に娼館に行っていいのだろうか。ソーマの心が二の足を踏み始めた。一度思い出したザームエルとゲオルクのことに心が奪われはじめ、昨日ちらりとみたザームエルの必死な顔がどうしてか頭から離れなくなった。

 また城門警備の責任者をしているということは王宮に戻ったはずなのに、そこには数多の女官がいて以前のように手あたり次第遊べるはずなのに、ソーマを見つけたザームエルは泣きそうな表情をしていた。

(どうして僕、あの時逃げたんだろう……)

 捕まったらもう二度と逃げられないという恐怖は、ある。童貞喪失よりも先に気持ちいいことをされて、悲願といいながらそれを思い出せなくなるほど溺れてしまい、その甘くねっとりとした蜜のような時間から抜け出せなくなる自分が怖いのだ。
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