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本編76
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「これ……良かったらどうぞ」
乾燥した果物を差し出す。
「こりゃお前さんの飯じゃろ。気にすんな、懐かしい顔を思い出してくれただけでええんじゃ」
「その僕と似ている人って、もしかしておじいちゃんの恋人?」
「ちゃうちゃう。昔住んた村におった美人じゃ。あんまりに綺麗でな、男だってわかってもドキドキしたもんじゃ。突然村に来て、突然出てったんじゃが、それでも忘れられんわ」
わはははと欠けた歯を見せながら老人は豪快に笑った。
(もしかしてそれって……)
自分と似た男なんて、思い当たるのは一人しかいない。だがそれは父だとは言い出せない。今だってソーマと似た姿をした父の姿を目の当たりにしたら、この老人はあっという間に昇天してしまうだろう。自分と同じ年の孫がいてもおかしくないのだから。
(あまり深く言わないほうが良いね)
なんせ、姿が変わらないのは竜族だからだ。500年は生きる竜が存在して、人の姿をして今目の前にいると言っても誰も信じないだろうし、魔女狩りのようなことが起こっても困る。
ソーマは再び丁寧にお礼を言うだけにして、その場から離れた。初めて訪れた街は勝手がわからなくて、どうやって出ればいいのか思案してしまう。
「もういっそのこと、ここに宿でも取ろうかな……無理だ、お金がない」
ゲームのように魔物を倒したらチャリチャリ金が入ってくる世界じゃない。しかも、ソーマは一匹も倒したことがないし、何かしらの商売をしているのでもない。本当に身一つでここにいるだけだ。
「……もしかして、僕って山賊よりも生産性ない、とか?」
知りたくなかった事実である。
金を生み出す術がなにもないのだから。
「今生でも何もしてないとか……山賊に説教してる立場じゃないってことだよね」
地味に落ち込む。
ただのニートから外に出歩くだけのニートにはジョブアップしているような気はするが、根本は変わっていない。
でも。
前世に戻りたいかと言われれば絶対に嫌だと言うだろう。部屋に引き籠ってゲームとアニメだけで終わる一日を思い出す。なんの達成感もない一日をただ惰性で過ごした映像が頭に浮かんでくる。悲しそうな母の顔。諦めきった父の顔。自分を汚物のように見る妹の顔がどんどんと過ぎていった。
『たかだか高校受験で失敗したくらいで引き籠もるとか馬鹿じゃないのっ!』
毎日のように叫んでた妹の声が蘇る。
今から思えばたかだか高校受験だ。しかも試験日に会場に向かう途中で、前日に降った雪で滑って頭を強打し救急車に運ばれたという、不幸であり不注意としか言いようのないトラブルに見舞われただけのことだ。定時制高校だってあるし、名前だけ書けば挿れる底辺高校の追加募集だってあった。母は必死になって勧めてくれたが、無駄にプライドの高かった颯馬は耳を塞ぎ、自分の世界でだけ生きることを選んだ。
「今思い出せば、なにも恥ずかしいことじゃないよな。童貞で死ぬよりは恥ずかしくない」
ちょっとの失敗なんて今生でもたくさんしてきた。
それでも気にしなければ、先には進めたんだ。ちょっと竜王になってしまったけど、ちょっと男に抱かれちゃったけど、ちょっとそれで悦がってしまったけど、だからと言って引き籠もろうという気持ちになれない。
「ばっかだなぁあの時の僕って」
ぶらぶらと知らない街を練り歩きながら、初めて前世のことをゆっくりと考えた。
そういえば、前世では星空を見ることもなかった。何を見てきたのかも記憶にない。本当に生産性なくただ生きてきただけだった。
けれど、ソーマはやり直す機会を得た。前世のなんの役にも立たない記憶も持って。
「本当になんの役にも立たないよね、前世の僕って」
ゲオルクのように身体が大きいわけではない、ザームエルのように女の子に好かれる容姿で生まれたわけでもない。それでも、ソーマはこの世界が好きだと思ってしまう。
「二流アニメの世界だけど、悪くないね」
ゆっくりと闇へと色を変える空を見つめながらしんみりとした。
「後は、脱童貞したら完璧だ!」
竜王だし、あと480年も生きられる。
「とりあえず王都に行こう」
最短で王都に行くために、ソーマはとりあえず街から出ることにした。
乾燥した果物を差し出す。
「こりゃお前さんの飯じゃろ。気にすんな、懐かしい顔を思い出してくれただけでええんじゃ」
「その僕と似ている人って、もしかしておじいちゃんの恋人?」
「ちゃうちゃう。昔住んた村におった美人じゃ。あんまりに綺麗でな、男だってわかってもドキドキしたもんじゃ。突然村に来て、突然出てったんじゃが、それでも忘れられんわ」
わはははと欠けた歯を見せながら老人は豪快に笑った。
(もしかしてそれって……)
自分と似た男なんて、思い当たるのは一人しかいない。だがそれは父だとは言い出せない。今だってソーマと似た姿をした父の姿を目の当たりにしたら、この老人はあっという間に昇天してしまうだろう。自分と同じ年の孫がいてもおかしくないのだから。
(あまり深く言わないほうが良いね)
なんせ、姿が変わらないのは竜族だからだ。500年は生きる竜が存在して、人の姿をして今目の前にいると言っても誰も信じないだろうし、魔女狩りのようなことが起こっても困る。
ソーマは再び丁寧にお礼を言うだけにして、その場から離れた。初めて訪れた街は勝手がわからなくて、どうやって出ればいいのか思案してしまう。
「もういっそのこと、ここに宿でも取ろうかな……無理だ、お金がない」
ゲームのように魔物を倒したらチャリチャリ金が入ってくる世界じゃない。しかも、ソーマは一匹も倒したことがないし、何かしらの商売をしているのでもない。本当に身一つでここにいるだけだ。
「……もしかして、僕って山賊よりも生産性ない、とか?」
知りたくなかった事実である。
金を生み出す術がなにもないのだから。
「今生でも何もしてないとか……山賊に説教してる立場じゃないってことだよね」
地味に落ち込む。
ただのニートから外に出歩くだけのニートにはジョブアップしているような気はするが、根本は変わっていない。
でも。
前世に戻りたいかと言われれば絶対に嫌だと言うだろう。部屋に引き籠ってゲームとアニメだけで終わる一日を思い出す。なんの達成感もない一日をただ惰性で過ごした映像が頭に浮かんでくる。悲しそうな母の顔。諦めきった父の顔。自分を汚物のように見る妹の顔がどんどんと過ぎていった。
『たかだか高校受験で失敗したくらいで引き籠もるとか馬鹿じゃないのっ!』
毎日のように叫んでた妹の声が蘇る。
今から思えばたかだか高校受験だ。しかも試験日に会場に向かう途中で、前日に降った雪で滑って頭を強打し救急車に運ばれたという、不幸であり不注意としか言いようのないトラブルに見舞われただけのことだ。定時制高校だってあるし、名前だけ書けば挿れる底辺高校の追加募集だってあった。母は必死になって勧めてくれたが、無駄にプライドの高かった颯馬は耳を塞ぎ、自分の世界でだけ生きることを選んだ。
「今思い出せば、なにも恥ずかしいことじゃないよな。童貞で死ぬよりは恥ずかしくない」
ちょっとの失敗なんて今生でもたくさんしてきた。
それでも気にしなければ、先には進めたんだ。ちょっと竜王になってしまったけど、ちょっと男に抱かれちゃったけど、ちょっとそれで悦がってしまったけど、だからと言って引き籠もろうという気持ちになれない。
「ばっかだなぁあの時の僕って」
ぶらぶらと知らない街を練り歩きながら、初めて前世のことをゆっくりと考えた。
そういえば、前世では星空を見ることもなかった。何を見てきたのかも記憶にない。本当に生産性なくただ生きてきただけだった。
けれど、ソーマはやり直す機会を得た。前世のなんの役にも立たない記憶も持って。
「本当になんの役にも立たないよね、前世の僕って」
ゲオルクのように身体が大きいわけではない、ザームエルのように女の子に好かれる容姿で生まれたわけでもない。それでも、ソーマはこの世界が好きだと思ってしまう。
「二流アニメの世界だけど、悪くないね」
ゆっくりと闇へと色を変える空を見つめながらしんみりとした。
「後は、脱童貞したら完璧だ!」
竜王だし、あと480年も生きられる。
「とりあえず王都に行こう」
最短で王都に行くために、ソーマはとりあえず街から出ることにした。
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