異世界に転生したら王子と勇者に追いかけられてます

椎名サクラ

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本編74

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「ねぇ、山賊って今まで何してたの?」

「それは……物を奪ったり殺したり……女なら犯して娼館に売ってやした」

「うわっ、それ残虐非道って言わない? よくそんなことできたね」

「申し訳ございませんっ!」

「いや僕に謝られても……というか、どうしてこんなことしちゃったの?」

「ちいせぇ頃親に捨てられやして……そんでちょくら物取りしてたら、先代の親分に拾われたのがきっかけでやして……」

「そうか。それは可哀想だったね。でも自分が可哀想だからって他人をもっと可哀想な目に遭わせちゃだめだよ」

「肝に銘じやす!」

「せっかく改心したんだから、もう悪いことしないで、みんなのためになることしようよ……何がしたい?」

「いや……山賊と物取りしかやったことねぇですから、なにしていいんかさっぱり……」

「そっか……農民とかすごく楽しいよ。大変だし同じことの繰り返しだけど、育てたものが大きくなって売れたりすると凄く嬉しいし。そういうのは駄目なのかな? みんなで小さい村でも作ってさ」

 自分だってずっと農作業から逃げてきたソーマが言えたことではないが、地道な作業をしたほうが人間は成長するような気がする。生産性のない前世を思い出した今、本当にそう感じている。

 いつも結果だけを見て一喜一憂してきたからこそ、結果が得られなかったときにやる気をなくすのだ。

 父に言われて無理やりやらされていた農作業がなければ、きっとソーマもそんな提案はしなかったが、本当に小さなことをできる人は忍耐力がある。彼らにそれを知って欲しいと思い始めていた。

「村と言っても……俺たちみたいな荒くれ者を相手にしてくれるやつなんかいねーですよ」

「え、そうかな? 誰が作っても野菜って同じ形をしてるよ。作った人の名前は書かれてないし、問題ないと思うけどな。売れなかったら自分たちで食べればいいし、森に入れば獣を獲ることもできるんでしょ。なら生きていくのに問題ないよ。こんな酷いことをするよりは絶対に皆に喜ばれるって」

 最初は大変だが、結果が出れば彼らも変わるかもしれない。

 ゴクゴクと水分をたっぷりと補給しながら、どうやって田畑を耕すのかを教えていった。元々は農民の子であったのか、要領はわかっているようだった。種を買うところから始めなくてはいけないが、それはソーマに考えがあった。

 山賊の親分を伴って部屋から出ると、犯された様子が全くないソーマを見て皆が訝しみながら、一緒に洞窟を出る。

 親分に案内させ、誰も手を入れていない草原へとやってきた一行は、これから何が始まるのかと口々に言い合い、それを無視しながらソーマは周囲を見渡した。

(まだ日が出ているね、やってみよう)

 掌を天に向けて魔法を放つ。

 光の玉は太陽に向かって飛び、途中で弾け光を周囲に撒き散らした。

 パラパラと落ちていく光の雫は、人も動物も選ぶことなく降り注いでいく。

「なんだこれ?」

 光が地に落ち消えるのを待って、ソーマは空に向かって叫んだ。
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