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本編66

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 つまり、どんな女性だろうと、竜族である限り人間相手に筆おろしは不可能である、ということらしい。筆おろしをしたければ、同じ竜族の雌を相手にすればいいが、現存の竜族は、目の前の父と自分だけ。

「僕、一生童貞……」

「ソーマ、気にすることはないよ。童貞でも死にはしないし、何を隠そう父さんも童貞だ」

 そんな自慢、いらない。

「えっ……ということは、僕を産んだのは……父さん?」

「人間社会に入り込むために便宜上父と呼ばせてきたけど、ソーマは僕が生んだコルネリウスとの子なんだ」

「私もここに来る道すがらに聞いたばかりで実感はないが……君の父のコルネリウスだ」

 一国の宰相であるこの人が、自分の父。若い頃はめちゃくちゃカッコよかっただろう面影を残した、いかにもインテリ風なこの人が……。実感がないだけに口を開けてポヤッと見つめてしまう。

「……もしかして、父さんが会いに行きたかった好きな人って、この人?」

「そうだよ。いやぁ、再開してすぐに姿を消したことを責められて監禁されるとは思わなかったけどね」

「それはユリウスが突然私の前から姿を消したからだ。また逃げられては適わない」

「ソーマを妊娠しちゃったから……君に竜族であるのを言い出せなくて……ごめんね」

「言ってくれればよかったんだ。そうすれば一緒に育てられたものを」

 中年男性のイチャイチャをここで繰り広げないで欲しい。しかも父親と母親のイチャイチャなど、見たくもない。

「ソーマ、幼い君に不自由させない暮らしをさせられたが、今からでも遅くはない。私の屋敷に来て家族で一緒に住まないか?」

「王都に? でもここで竜族の修業しないと……」

「ソーマはもう充分だろう。まさか四年前に放った魔法が未だに強力な効力を持って機能しているんだから」

「僕の魔法?」

 そう言えば、うーにゃんに最強魔法の使い手になるよう依頼していたのだ。どんな内容の物かさっぱりわかっていないが。

「ソーマは竜族最強の魔法、『魅了』を使えるようだね」

「魅了? なにそれ……」

「さっき洞窟で兵たちが狂ったように君に群がろうとしただろう。あれは、四年前にソーマが放った魔法の効果なんだよ」

「でも、僕あの人たちと戦ったよ」

「人間の姿でかい?」

「竜の姿だけど……」

「ソーマが魔法を放った時、人間の姿だからだよ。人間の姿になれば、君はあの場にいた男たちを魅了してしまうんだ。みんなが君を抱きたくてたまらなくなるようにね」

「そっ、そんな危険な魔法がなんで最強なんだよっ!」

「みんなが好意を寄せてくれるからだ。誰からも愛されれば、殺されることもないし、子孫も増やし放題だろう」

 ただし、男限定だが。

「そ……そんなぁ……」

「その魔法があれば、世界の王になることもできるよ。みんなが君を欲しがって国なんか簡単に差し出してくれる。だって王は基本男だからね。女王の国があってもみんなで攻め込めば同じだ」

 あははははと軽快に笑う父・ユリウスに反し、コルネリウスは神妙な面持ちになった。
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