異世界に転生したら王子と勇者に追いかけられてます

椎名サクラ

文字の大きさ
上 下
53 / 111

本編50

しおりを挟む
(しょうがない、やるしかないのかな……)

 ソーマは嘆息して腹の奥に力を溜め始めた。ザームエルとたっぷり性的なことをしたためか、いつもよりもすぐに力が集まり、一気に変化した。

(あれ、今までで一番早くできちゃった)

 緊急事態だからだろうと割り切り、ソーマは竜の姿で人々の前に現れた。

「出たな竜!」

「王子を出せっ!」

「うるさい、人の子よ。ここは神聖なる竜の住処である。すぐさま立ち去れ」

「なにを! 王子を出さなければお前を倒すしかない」

「人の子ごときが我を倒すか、笑止!」

「竜! おまえを倒して平和な世を手に入れる」

「笑止だ人の子よ。お前ごときがこの鋼の鱗に傷をつけられるものか」

「やって見せよう、覚悟しろ!」

 あれ、このやり取りどこかで見たような……しかも、発している声に聞き覚えもあるような……。

 だがわーっと攻めてくる兵たちにすぐに熟考できない状況になる。

 兵たちに当たらないようしっぽを振って近づけさせないようにするので精いっぱいだ。

 なぜならソーマには戦うすべなど、持ち合わせていないのだ。しかも小心すぎて誰も傷つけたくない。もしここで人が死んだらやりきれないし、怪我人が出るのも嫌だ。なるべく当たらないように威嚇して、どうにか退去してくれるのを待つしかなかった。

 だが、王宮の精鋭だろう兵たちは、そんな攻撃で怯むような軟な精神構造はしていなかった。次々と武器を手に飛び掛かり、ソーマに襲い掛かってくる。

「ちょっと、多勢で攻めるなんてひどいよぉぉぉ」

 だがなぜか泣き言は無視される。

 なんとか攻撃が届かないよう防衛するが、ちょっと手をかざすだけ、尻尾を振り回すだけで土煙が上がってしまう。そのたびに兵から悲鳴が上がり、恨み言が返ってくる。

(僕酷いことしてないのに、そんな言い草ないだろぉ)

 勝手に転んで勝手に怪我してこっちを恨むなんて酷すぎると叫んでも、なぜか竜の姿だと弱音は人々に届かないようだ。

 だが、この場所を守るためには何としても兵たちを追い払わなければならない。でなければ、大切な石碑が壊されるから。

 何としても死守しなければと、いやいやながら使命感を背負うソーマは、兵たちをどんどんと入口へと追いやろうと、威嚇の意味も込めて彼らに近づくふりをした。

 距離を縮められたと思った兵たちがじりじりと後ずさる。

(これはいいかも)

 ちょっと手を上げて、鋭い爪を見せつけるようにしながら振り下ろすことを繰り返し、徐々に壁へと追い詰めていく。

(あれ、なんで壁に行っちゃうかな? 出口に行ってよ)

 だが、その作戦は隙があった。後方が広く空き、俊敏な兵の一人に回りこまれてしまう。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...