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本編49

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「いたい……」

 こんなはずじゃなかった。

 こんなはずじゃなかったのに、どうしてこうなった。

 後悔しかない身体を丸ませながら、ようやく目を覚ましたソーマは今までで一番だるく鈍い痛みを腰に抱えたまま、恨み言を口に上らせるしかなかった。

 目の下にはしっかりとクマができている。

 しかも、その原因を作った男は、とても気持ちいい寝息を立てソーマの隣に転がっている。

 むかつく。

 今までにないロングターンでの交情に、寝台から降りることができず、動くだけでズキズキと痛みが走る。

 これがザームエルの真骨頂なのか……だったら今までのはなんだったのか。

 それだけ大事にしてもらっていたと理解していないソーマは、恨み言だけを思い連ねていた。

 もう今日は畑仕事なんて無理だ。畑仕事だけじゃない、またしても寝台に縛り付けの一日になる。こんなでは人間が駄目になってしまう。竜族だけど。

 奮起して起き上がろうとするが、それでもまた寝台に伏せることを何度も繰り返す。

(あんなにやることないじゃないか……これじゃお嫁さん探しもできない……)

 王都の綺麗で可愛い娘さんを探しに行きたいのに、これではままならない。

 しかも、目的を知ってしまったザームエルが許してくれるはずもない。

 もういっそ、家出するしかないのか……自分の家なのに。

 目尻に涙を溜め始めたソーマの耳元に、何かが囁きかけた。

「え、侵入者?」

 こんな森の奥の、不自然すぎるほど巨大な洞窟に誰が来るものか。しかも辺境の地だ。

 警戒音までもが鳴り響き、頭の中を駆け巡っていく。

「なにこれ……」

 この四年、そんなことは一度もなかった。目を閉じれば、竜の石碑がある空間に鎧をまとった大勢の人間が入り込んでいる。

「どうして……」

 このまま去るのを待つか、それとも……。

 ソーマは無理矢理に身体を起こし、痛みで顔を歪めながら身支度を整えた。まだ交情の名残が中に残っているのが気持ち悪いが、今はそんなことを言っていられない。

 竜の石碑を壊されでもしたら大ごとだ。あそこには竜族にとっての大切な情報が盛りだくさんなのだから。絶対に死守しなくては。

 ヨタヨタと何度も壁にぶつかりながら、とにかく竜の石碑まで行こうと必死になる。ヘロヘロしながら時間をかけようやくたどり着いた洞窟には10人前後の厳つい男ばかりがいた。こっそりと竜の石碑の陰から男たちの会話を盗み聞く。

「本当にここなのか?」

「宰相からの情報だ、信用していい」

「だが何もないぞ。本当にここに王子がいるというのか」

(あっ、そうか)

 一応世間的には、第五王子ザームエルは突然現れた竜に連れ去られていることになっているのだった。

 本当は王子自ら帰ろうとせず、その竜を寝台で啼かせては『我が妃』などと言っているのだが。

 真実を知らない兵たちは、とにかく王子の痕跡を探そうと必死なようである。

(このままザームエルを突き出せば帰ってくれるかな)

 それもいいかもと思い始めた矢先、石碑を怪しんで近づく人が出てきた。

 さすがにこれだけは壊されたくはない。きっと簡単に壊れないようにしているだろうが、何があるかわからないし、見つかるのも嫌だ。
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