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本編31
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「ソーマ、こうするんだ」
そして、背筋を伸ばしたまま、手慣れた仕草でカトラリーを操っていく。するりと切れる肉、ほんの少し刺しただけなのに、きちんとフォークに乗る肉、優雅なまでの仕草でそれを口に運んでいく。
「すご……あれ、同じ肉だよね……」
なぜそんなにもすんなりと切れるのだ? しかもフォークを深く刺さなくても落ちないなんて、ザームエルの手元には何かしらの魔法がかかっているのだろうか。
自分のと見比べても、全く同じものを使っているようなのに、なぜこうも違うのか。
ソーマが首をひねっていると、ザームエルはその子供っぽい仕草を微笑ましげに見ながら、やり方を口で説明しながらっまた実践する。
「なるほど……こう、かな?」
ソーマも彼の手元を見ながら真似てみる。
「あ、するって切れた」
「そうだろう。この館のカトラリーは手入れが行き届いているから、とても切りやすい」
「そうなんだ……今まで全然切れないと思ってたよ」
「やり方を一度覚えたら簡単だ」
肉と野菜がふんだんに乗った料理はあっという間に二人の腹の中に消えていった。
いつもはその倍食べても満たされない食欲を抱えているソーマは、久しぶりに味わう満腹感と疲労で、段々と眠くなってきた。
「僕、お風呂入ったらもう寝るね」
「もしかして、風呂も魔法がかかっているのか?」
「そうだよ」
「凄いな……一緒に入ってもいいか?」
「うん、別にいいよ」
それが何を意味しているかを知らないソーマは、簡単に浴室にザームエルを招き入れた。いつものように無造作に服を脱ぎ捨て、いつの間にかお湯が満ちたバスタブに入っていく。
どうやってお湯がいつの間にバスタブに満ちていくのかを見に来たはずのザームエルは、瞬きする間に湯が満ちているのに驚き、同時に感嘆した。
「竜の魔法とはすごいものだな」
「そうだね、凄いと思うよ、僕も」
ソーマの魔法が未だに何かは解かっていないが、それでも先人の魔法がなければここで生きていくことはできなかっただろう。
ばしゃーんとバスタブに入り、今日の疲れと同時に汚れも落としていく。備え付けのたわしで肌を擦り、無造作に髪も洗っていく。
「おい、石鹸は使わないのか?」
「そんな贅沢品、あるわけないだろう」
本当はあるが、大事な時だけに取っておいてある。石鹸など簡単に作れやしないし、入手方法もソーマは知らない。
ザームエルはなにかを考え、だが勝手に合点すると身に着けているものを脱ぎ捨てた。
当たり前のようにバスタブに入ってくる。ソーマもそれに対して異論を発さなかった。子供の頃、よくこうして父やゲオルクと風呂に入っていたからだ。それはお湯を沸かすのが大変だし、面倒だからだが、ソーマはそういうものという認識しか持っていなかった。悲しい田舎生まれである。
日に焼けた逞しい身体を晒したザームエルは、ソーマがするのと同じように身体を磨き、今日一日の汚れを素早く落とし、簡単に髪も洗ってそこを出た。
「うむ、不思議だ。ただ身体を洗っただけというのに、石鹸を使ったよりも身体が綺麗なっているな」
「そうなの?」
実感がない。というか、ここにはソーマしかいないから比べる対象がなかったのだ。自分でも知らなかった発見に、たわしにまで竜の魔法がかかっていたのかと感心する。
そして、背筋を伸ばしたまま、手慣れた仕草でカトラリーを操っていく。するりと切れる肉、ほんの少し刺しただけなのに、きちんとフォークに乗る肉、優雅なまでの仕草でそれを口に運んでいく。
「すご……あれ、同じ肉だよね……」
なぜそんなにもすんなりと切れるのだ? しかもフォークを深く刺さなくても落ちないなんて、ザームエルの手元には何かしらの魔法がかかっているのだろうか。
自分のと見比べても、全く同じものを使っているようなのに、なぜこうも違うのか。
ソーマが首をひねっていると、ザームエルはその子供っぽい仕草を微笑ましげに見ながら、やり方を口で説明しながらっまた実践する。
「なるほど……こう、かな?」
ソーマも彼の手元を見ながら真似てみる。
「あ、するって切れた」
「そうだろう。この館のカトラリーは手入れが行き届いているから、とても切りやすい」
「そうなんだ……今まで全然切れないと思ってたよ」
「やり方を一度覚えたら簡単だ」
肉と野菜がふんだんに乗った料理はあっという間に二人の腹の中に消えていった。
いつもはその倍食べても満たされない食欲を抱えているソーマは、久しぶりに味わう満腹感と疲労で、段々と眠くなってきた。
「僕、お風呂入ったらもう寝るね」
「もしかして、風呂も魔法がかかっているのか?」
「そうだよ」
「凄いな……一緒に入ってもいいか?」
「うん、別にいいよ」
それが何を意味しているかを知らないソーマは、簡単に浴室にザームエルを招き入れた。いつものように無造作に服を脱ぎ捨て、いつの間にかお湯が満ちたバスタブに入っていく。
どうやってお湯がいつの間にバスタブに満ちていくのかを見に来たはずのザームエルは、瞬きする間に湯が満ちているのに驚き、同時に感嘆した。
「竜の魔法とはすごいものだな」
「そうだね、凄いと思うよ、僕も」
ソーマの魔法が未だに何かは解かっていないが、それでも先人の魔法がなければここで生きていくことはできなかっただろう。
ばしゃーんとバスタブに入り、今日の疲れと同時に汚れも落としていく。備え付けのたわしで肌を擦り、無造作に髪も洗っていく。
「おい、石鹸は使わないのか?」
「そんな贅沢品、あるわけないだろう」
本当はあるが、大事な時だけに取っておいてある。石鹸など簡単に作れやしないし、入手方法もソーマは知らない。
ザームエルはなにかを考え、だが勝手に合点すると身に着けているものを脱ぎ捨てた。
当たり前のようにバスタブに入ってくる。ソーマもそれに対して異論を発さなかった。子供の頃、よくこうして父やゲオルクと風呂に入っていたからだ。それはお湯を沸かすのが大変だし、面倒だからだが、ソーマはそういうものという認識しか持っていなかった。悲しい田舎生まれである。
日に焼けた逞しい身体を晒したザームエルは、ソーマがするのと同じように身体を磨き、今日一日の汚れを素早く落とし、簡単に髪も洗ってそこを出た。
「うむ、不思議だ。ただ身体を洗っただけというのに、石鹸を使ったよりも身体が綺麗なっているな」
「そうなの?」
実感がない。というか、ここにはソーマしかいないから比べる対象がなかったのだ。自分でも知らなかった発見に、たわしにまで竜の魔法がかかっていたのかと感心する。
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