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本編30
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「王都以外のところだったら、どこでもこんな夜空が見えるんじゃない?」
「そうなのか。私は王都を離れるのは初めてだからな」
「そうだったんだ。やっぱり帰ったほうが良いよ、きっと王都よりも不便だよ、ここ」
「かもしれないな。あそこはなんでもあってすぐに手に入る。だが、王都にはソーマがいない。私はここのほうが良い」
子供のように星空を眺めていた顔が、優しい表情のまま微笑みかけてくる。
もし、ソーマが男ではなかったら、きっとロマンティックな光景と王子の微笑みに、顔を赤めたことだろう。残念ながら、色事にとことん疎いソーマはドキドキすらしなかった。感情面ですらすれ違っている二人であった。
「まぁ遅いし、今日は泊めてあげるよ。明日になったら帰ってね」
「なぜそんなにしてまで、私を帰そうとするのだ」
「だって、僕が一緒に住みたいのは可愛い女の子だもん。男じゃないよ」
「なに? あれは私を欲していたのではなかったのか。王都で一番美しいものを差し出せと言ったではないか」
「だーかーらっ、女の子だって何度も言ったのに、ザームエルが聞く耳持たなかったんじゃないか」
もういいよ、疲れた。
ソーマは不毛なやり取りを強引に終わらせると、竜の屋敷へと入っていった。朝、思い付きで旅立ったから色々と汚していったが、有能な家事魔法はそのすべてを綺麗に清め、いつものように清潔な館へと戻っていた。
「ここがソーマの家か」
「好きな部屋を使っていいよ。ご飯できているかな?」
朝食以降何も食べていないソーマはぐったりしていた。もうお腹が空きすぎて死にそう……ではなかった。なぜかあまり食欲がない。
きっと疲れているからだ。身体ではなく精神が。
だって、ザームエルとずっと無益なやり取りをしてきたからと自分を納得させた。
だが習慣で食堂へと足を運ぶ。今日やってきたであろう兎が見事に調理されテーブルに乗っていた。
「なんだ、この館には使用人がいるのか」
人の気配が全くないのに、ホカホカの料理がテーブルに乗っていることに驚いているザームエルに、初めて自分がここに来た日の驚きを彷彿とさせた。ソーマも同じだったからだ、自分以外に誰かいるのではないかと屋敷中探し回ったのだ。石板に種明かしをされひどく落ち込んでしまった。
だが、自分だけじゃなかったのだ。良かった良かった。
「ザームエルもお腹空いたでしょ。一緒に食べよう」
「ああ、そうだな」
席に着くと、自動的に取り分けられた肉が、誰の手もないまま宙を浮き皿に乗っていく。
「なんだこれはっ! 幽霊でも住んでいるのか!?」
「違うよ。これは魔法だよ。この館全部にいろんな魔法がかかっていて、全部やってくれるようになっているんだ」
「なんだそれは……宮廷魔法使いですらそんなことができないぞ」
「うん、まぁ僕の魔法じゃないけど。ここに住んでいた竜たちがどんどんいろんな魔法をかけていってこうなったんだ」
「……便利だな」
「美味しいから食べてよ」
不安そうなザームエルを促し、ソーマは最近覚えたばかりのテーブルマナーに則ってフォークとナイフを扱っていく。まだ慣れず、フォークの先を皿の底まで刺してしまう。昔からの癖がどうしても抜けきらず、上手くできない。
カトラリーに四苦八苦するソーマに、テーブルマナーなど生まれた時から身についていてもおかしくない王族のザームエルは、不快に思う前に微笑ましそうにそれを眺めた。
「そうなのか。私は王都を離れるのは初めてだからな」
「そうだったんだ。やっぱり帰ったほうが良いよ、きっと王都よりも不便だよ、ここ」
「かもしれないな。あそこはなんでもあってすぐに手に入る。だが、王都にはソーマがいない。私はここのほうが良い」
子供のように星空を眺めていた顔が、優しい表情のまま微笑みかけてくる。
もし、ソーマが男ではなかったら、きっとロマンティックな光景と王子の微笑みに、顔を赤めたことだろう。残念ながら、色事にとことん疎いソーマはドキドキすらしなかった。感情面ですらすれ違っている二人であった。
「まぁ遅いし、今日は泊めてあげるよ。明日になったら帰ってね」
「なぜそんなにしてまで、私を帰そうとするのだ」
「だって、僕が一緒に住みたいのは可愛い女の子だもん。男じゃないよ」
「なに? あれは私を欲していたのではなかったのか。王都で一番美しいものを差し出せと言ったではないか」
「だーかーらっ、女の子だって何度も言ったのに、ザームエルが聞く耳持たなかったんじゃないか」
もういいよ、疲れた。
ソーマは不毛なやり取りを強引に終わらせると、竜の屋敷へと入っていった。朝、思い付きで旅立ったから色々と汚していったが、有能な家事魔法はそのすべてを綺麗に清め、いつものように清潔な館へと戻っていた。
「ここがソーマの家か」
「好きな部屋を使っていいよ。ご飯できているかな?」
朝食以降何も食べていないソーマはぐったりしていた。もうお腹が空きすぎて死にそう……ではなかった。なぜかあまり食欲がない。
きっと疲れているからだ。身体ではなく精神が。
だって、ザームエルとずっと無益なやり取りをしてきたからと自分を納得させた。
だが習慣で食堂へと足を運ぶ。今日やってきたであろう兎が見事に調理されテーブルに乗っていた。
「なんだ、この館には使用人がいるのか」
人の気配が全くないのに、ホカホカの料理がテーブルに乗っていることに驚いているザームエルに、初めて自分がここに来た日の驚きを彷彿とさせた。ソーマも同じだったからだ、自分以外に誰かいるのではないかと屋敷中探し回ったのだ。石板に種明かしをされひどく落ち込んでしまった。
だが、自分だけじゃなかったのだ。良かった良かった。
「ザームエルもお腹空いたでしょ。一緒に食べよう」
「ああ、そうだな」
席に着くと、自動的に取り分けられた肉が、誰の手もないまま宙を浮き皿に乗っていく。
「なんだこれはっ! 幽霊でも住んでいるのか!?」
「違うよ。これは魔法だよ。この館全部にいろんな魔法がかかっていて、全部やってくれるようになっているんだ」
「なんだそれは……宮廷魔法使いですらそんなことができないぞ」
「うん、まぁ僕の魔法じゃないけど。ここに住んでいた竜たちがどんどんいろんな魔法をかけていってこうなったんだ」
「……便利だな」
「美味しいから食べてよ」
不安そうなザームエルを促し、ソーマは最近覚えたばかりのテーブルマナーに則ってフォークとナイフを扱っていく。まだ慣れず、フォークの先を皿の底まで刺してしまう。昔からの癖がどうしても抜けきらず、上手くできない。
カトラリーに四苦八苦するソーマに、テーブルマナーなど生まれた時から身についていてもおかしくない王族のザームエルは、不快に思う前に微笑ましそうにそれを眺めた。
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