30 / 111
本編27
しおりを挟む
「お前、竜じゃなかったのか! それとも魔法使いか!?」
「僕は竜だよ。一応、竜王だけど、普段はこっちの姿のほうが便利なんだよ」
うるさい男を無視して、奥にある館に戻ろうとする。
「あ、ここ何もないから居ても面白くないよ。女の子だったらお嫁さんになってもらおうと思ったけど、男はお嫁さんになれないから、帰ってくれると嬉しいんだけど」
「王都までどうやって帰ればいいんだ?」
「さあ、知らない。人の足なら一ヶ月くらいって聞いたことがあるよ。あ、この森を抜けたところに辺境の村があるから、そこで訊いたほうが確実かも」
「村の名前は何だ」
「村の名前? そういえば知らなかったな……みんな辺境の村って言ってたよ」
相変わらずそういうところにはいい加減なソーマである。自分が住んでいた村の名前どころか、近隣の村の名称すら知らないでいた。
男はソーマのいい加減さに怒鳴ろうとして、そして黙った。
じろじろと不躾に見つめてくる。
「なんだよ……」
ちゃんと石鹸使って綺麗にしてから出発したし、すぐに帰ってくる羽目になったからそれほど身なりがおかしいことはないはずだ。そりゃ、男に比べて身なりは貧相だが……。
「お前……綺麗だな?」
「はい?」
綺麗とは元来女性に使う形容詞だろう。なんで男が男に使っているんだ。そう言えば、昔ゲオルクも同じことを言っていたが、その頃のソーマには知識がなくスルーしていた。だが今は違う。石板と本でたくさん勉強したのだ、それはやっぱり女性に向かって言うべき言葉だ。
「こう見えても僕、男なんだけど」
そりゃ、目の前のいかにも『漢』という体型の人間からしたら、細くてなかなか太れず無駄に背だけが高くなったソーマは貧相だろうが、それでも女性に間違うはずがない。多分。
成人してからずっと自分の姿を見ることがなかったから、言い切れないのが辛い。水鏡で見ようと思っても、すぐに魚が集まったり、風呂で確認しようとしても勝手に泡風呂にされて確認できなかったりだが。
だが、背だけは高くなっている、はずだ。こんなに背の高い女声などいないだろう(と思いたい)。
そうでなければ、チビで父に似た女顔のまま大人になったら、また結婚が遠のいてしまう。
ソーマは未だに女人との結婚を切望していた。自分が竜王であるにもかかわらず。
「王都で生まれ育ったが、お前ほど美しい人間を見たことはない」
「あーはいはい。だから、男だってば」
もういいだろう、出ていってくれと言わんばかりの対応をしているのに、なぜか勇ましい声の主は引き下がろうとしない。むしろどんどんと近づいてくる。
「ちょっと、なんだよ」
「僕は竜だよ。一応、竜王だけど、普段はこっちの姿のほうが便利なんだよ」
うるさい男を無視して、奥にある館に戻ろうとする。
「あ、ここ何もないから居ても面白くないよ。女の子だったらお嫁さんになってもらおうと思ったけど、男はお嫁さんになれないから、帰ってくれると嬉しいんだけど」
「王都までどうやって帰ればいいんだ?」
「さあ、知らない。人の足なら一ヶ月くらいって聞いたことがあるよ。あ、この森を抜けたところに辺境の村があるから、そこで訊いたほうが確実かも」
「村の名前は何だ」
「村の名前? そういえば知らなかったな……みんな辺境の村って言ってたよ」
相変わらずそういうところにはいい加減なソーマである。自分が住んでいた村の名前どころか、近隣の村の名称すら知らないでいた。
男はソーマのいい加減さに怒鳴ろうとして、そして黙った。
じろじろと不躾に見つめてくる。
「なんだよ……」
ちゃんと石鹸使って綺麗にしてから出発したし、すぐに帰ってくる羽目になったからそれほど身なりがおかしいことはないはずだ。そりゃ、男に比べて身なりは貧相だが……。
「お前……綺麗だな?」
「はい?」
綺麗とは元来女性に使う形容詞だろう。なんで男が男に使っているんだ。そう言えば、昔ゲオルクも同じことを言っていたが、その頃のソーマには知識がなくスルーしていた。だが今は違う。石板と本でたくさん勉強したのだ、それはやっぱり女性に向かって言うべき言葉だ。
「こう見えても僕、男なんだけど」
そりゃ、目の前のいかにも『漢』という体型の人間からしたら、細くてなかなか太れず無駄に背だけが高くなったソーマは貧相だろうが、それでも女性に間違うはずがない。多分。
成人してからずっと自分の姿を見ることがなかったから、言い切れないのが辛い。水鏡で見ようと思っても、すぐに魚が集まったり、風呂で確認しようとしても勝手に泡風呂にされて確認できなかったりだが。
だが、背だけは高くなっている、はずだ。こんなに背の高い女声などいないだろう(と思いたい)。
そうでなければ、チビで父に似た女顔のまま大人になったら、また結婚が遠のいてしまう。
ソーマは未だに女人との結婚を切望していた。自分が竜王であるにもかかわらず。
「王都で生まれ育ったが、お前ほど美しい人間を見たことはない」
「あーはいはい。だから、男だってば」
もういいだろう、出ていってくれと言わんばかりの対応をしているのに、なぜか勇ましい声の主は引き下がろうとしない。むしろどんどんと近づいてくる。
「ちょっと、なんだよ」
2
お気に入りに追加
1,612
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる